新NISAで所得税がゼロに。相続税はどうなる?
税理士事務所が解説
2024年1月から始まった新NISAは株式市場の活況もあって、順調な滑り出しとなったようです。新NISAで購入した株式や投資信託は売買益や配当金への課税がないことから複利効果が高まり、資産形成に向けた追い風になることが期待されています。
一方、見落とされがちなのが、NISAと相続の関係です。この記事では盲点になりやすい相続とNISAの関係についてわかりやすく解説していきます。
新NISAの概要については「新NISAで資産所得倍増?新NISA制度の概要と使いこなし術」でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
株式・投資信託を相続するときにやるべきこと
まず株式・投資信託を保有している人が死亡し、相続が発生した際の一般的な流れについて解説していきます。
故人が取引していた証券会社を特定する
証券会社で株式・投資信託(以下株式等)の取引を行っていた人が死亡し、相続が発生したときにまずやるべきことは、証券会社の残高証明書・取引履歴を確認し、相続財産の価額を確定させることです。
しかし、故人が取引していた証券会社が分からない場合は、取引証券会社を特定するところから始めなくてはなりません。
日ごろから家族間でこうした情報が共有されている場合や、遺言書の財産目録に明記されている場合は問題ないのですが、分からない場合は何らかの方法で調べなくてはなりません。
故人が取引していた証券会社を特定する方法として、最も一般的な方法は個人に届いた郵便物やメールの履歴などから把握する方法ですが、それも見当たらない場合には「証券保管振替機構(ほふり)」へ問い合わせる方法もあります。
これは「登録済加入者情報の開示請求」と呼ばれ、個人の口座開設先の把握まではできるのですが、銘柄名や取得価額を把握するための残高開示請求は、証券会社個々に行う必要があります。
証券会社に連絡し「相続手続きセット」を取り寄せる
故人が取引していた証券会社が分かれば、取引支店等に電話・メール等で死亡の事実を伝えます。そうすると、「相続手続きセット」と言われる相続専用のパッケージが送られてきます。
残高証明書や取引履歴を請求する流れや必要書類についても記載があるので、その流れに沿って手続きをしましょう。
なお、相続税の申告自体は残高証明書だけで足りますが、相続税申告後の税務調査対応や相続後に売却する際の取得費等を確認することも想定して、取引履歴についても取り寄せておいた方が良いでしょう。
遺産分割協議書を整え移管手続きを行う
残高証明書が手元に来たら、だれが相続するかを遺産分割協議で決め、遺産分割協議書を整えます。(遺言で指定されいる場合は遺言に従います)
次に遺産分割協議書の内容に従い「移管手続き」を行います。「移管手続き」とは故人が保有していた株式・投資信託を相続人の証券口座に移し替える手続きです。移管手続きの流れは送られてきた「相続手続きセット」にも記載されていますので、その内容に従って進めていきます。
なお、遺産分割協議を行った場合と遺言が遺されていた場合とでは移管手続きに必要な書類は一部異なりますので注意が必要です。
相続パターン別必要書類
遺産分割協議の場合
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍
- 相続人全員の戸籍
- 相続人全員の印鑑証明書
遺言書がある場合
- 遺言書(公正証書によらない遺言の場合は検認済みであること)
- 被相続人の死亡の事実が分かる書類
- 株式を承継する人の印鑑証明書
実際の「移管手続き」に際しては、相続人の証券口座が必要です。そのため、相続人が証券口座を持っていない場合は新たに開設する必要があります。
「故人とは別の証券会社に証券口座を持っているのだけど、そこに移管してもらえないの?」
残念ながら証券会社では相続時の移管先口座を自社のみに限定しているケースが多いようです。
仮に、故人の取引していた証券会社以外の口座に移管できたとしても、売買益の確定申告が必要な「一般口座」への移管に限定されるなど相続後の売買や配当金受け取りに際して不便な面もあるようです。
NISAで保有する株式・投資信託を相続したときに
盲点になりがちな3つのポイント
その1故人のNISA口座から相続人の新NISA口座には移管できない
「故人がNISAで保有していた株式は、私が開設した新NISA口座に移管してもらえるよね?」
残念ながら答えはNOです。NISAで得られる非課税メリットは一身専属のもので、相続できる権利には当たらないとされているからです。
つまり、故人がNISA口座で株式等を保有していた場合、配当・売買益が非課税となるのは亡くなった日(相続発生日)までで、相続人に移管したのちは通常の口座(一般・特定)に引き継がれ、その日以降に相続人が受け取る配当や売買益は課税対象となります。
これは故人と同じ証券会社に相続人が開設した口座であっても変わりません。
一見理不尽な話に聞こえるかもしれませんが、見方を変えれば相続後の売却益は売却損と通算できることや取得費加算が使えるようにもなるなどのメリットもあることは押さえておきましょう。
その2NISA口座で保有していた株式・投資信託は移管時の含み益にも課税される
相続人が株式等を相続するときの取得価額は「相続発生時の時価」になり、取得日は「相続発生日」となるのがルールです。
これをNISA口座に当てはめてみると、死亡(相続発生)から相続人の証券口座に移管されるまでの期間に値上がりした株式等には含み益が発生し、移管時には相続人に所得税と住民税合計で約20%が課税されるということになります。
そのため、売却して実現益を得たわけではないのに、含み益に対して課税が発生してしまうのです。もちろん、これらの課税は相続税とは別に課されることになります。
相続人は移管手続きが終わり、自身の証券口座に株式等が来ないと相続した株式等を売買することができません。
下表のように値下がりしているタイミングで売却したため、含み益への課税だけがなされて実利はゼロといったことも現実にあり得る話です。
相続した株式等の含み益に課税された後に相続時の時価を下回って売却したイメージ
その3NISAで保有していた株式等の取得価額は相続発生時の価額になる
一般に株式等を売却した時には所得税・住民税を合計して約20%の課税が発生します。その際、税額は以下の算式で計算されます。
(譲渡価額-取得価額-諸費用)×税率
NISA口座以外で保有していた株式等は下表のように通常、故人の取得価額(100万円)を引き継ぎます。つまり、
(150万円-100万円-諸費用)×20%
諸費用を仮にゼロとした場合、150万円の譲渡価額に対し、約10万円の税金が発生することが分かります。
NISA以外の口座で保有していた株式等を相続後に売却したときの課税イメージ
これに対し、NISAで保有していた株式等は故人の取得価額を引き継がず、相続時の時価(50万円)で取得したとみなされます。先程の算式にあてはめてみると、
(150万円-50万円-諸費用)×20%
このように同一の売却額150万円であっても通常に相続した株式に比べて倍の約20万円の納税になってしまい、手取り額が減少してしまうことが分かります。
NISA口座で保有していた株式等を相続後に売却したときの課税イメージ
NISA口座を相続した場合でも使える
取得費加算特例
一般口座・特定口座にあった株式を相続した場合、故人が取得した価額に加え、購入時に負担した諸費用等も取得費とすることが認められているのに対し、故人がNISA口座で保有していた場合は、取得価額が相続発生時の価額となる上に、故人の取得費は費用とならないため、相続したのちに売却するときには所得税・住民税負担が大きくなるというデメリットがあります。
このデメリットを少しでも和らげる方法として、保有していた株式等を相続後に売却した際の節税の手段として使える特例「取得費加算特例」をご紹介します。
取得費加算の特例とは相続発生日から3年10ヶ月以内に相続した財産を売却した場合に使える特例です。
この取得費加算特例を使えば、売却した資産に対応する部分の相続税が取得費として加算でき、売却益を圧縮することができます。この特例は株式だけに限らず、相続した不動産の売却などでも使える便利な特例といえます。
ただし、ここで加算できる取得費とは相続税のことを指しますので、相続時に相続税を負担していることが特例活用の大前提となります。
関連サイト国税庁「No.3267相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
相続手続きに迷ったら専門家に相談しましょう
家族や親族が亡くなったときには、株式や投資信託の手続きだけでなく、様々な手続きを行わなければなりません。
人生の中で滅多にない相続手続きでは何から手を付けていいかわからないだけでなく、思いもよらないトラブルが発生することもあり、大きなストレスがかかることが多いようです。
スムーズに相続手続きを進めつつ、特例等を上手に活用して相続税の申告・納税を行うためには税理士をはじめとする専門家のアドバイスがあった方がよいでしょう。
また、専門家に相談することで、相続後に株式を売却する際の取得費加算の特例を活用するなど、所得税についても節税が期待できる方法で進めることも可能です。
廣瀬総合経営会計事務所は「杉並・中野相続サポートセンター」の運営母体として、長年にわたり地域のお客様の相続のサポートを行っております。
相続手続きに精通した税理士、行政書士、FPなどが在籍しているほか、各分野に精通した専門家とも連携し、相続対策のご相談から様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスまで一括サポート可能です。
これから相続対策を検討する、既に相続が発生し申告手続きのことで迷っているなど相続に関するお悩み・疑問をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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