令和5年税制改正の目玉!
新NISA(少額投資非課税制度)を完全攻略

現政権が推進する「資産所得倍増プラン」では、貯蓄から投資への流れを強化するためにNISA(少額投資非課税制度)の総口座数とNISAにおける累計買い付け額を5年で倍増させることを目標に掲げました。そしてその目玉施策としてNISA制度が抜本的に改正・拡充されることが12月の令和5年度税制改正大綱で決まり、2024年から実施される見込みです。

本記事では2024年から新しく刷新される新NISA活用のポイントについて分かりやすく解説していきます。
※令和5年税制改正は2023年3月閣議において正式決定されます。本記事は2022年12月に公表された税制改正大綱を基に執筆されています。

今回のポイント

  1. 現行NISAってどんな制度?現行NISAの「残念な3つのポイント」
    1. そもそも年間投資可能枠が少ない
    2. 非課税運用できる期間の制限
    3. ロールオーバー手続きが面倒!もし非課税期間終了後に課税口座に移行するとかえって増税!?
  2. 大きく変わった新NISAの概要と「ここがすごい3つのポイント」
    1. 年間投資枠の大幅拡大+生涯投資枠の設定と恒久化
    2. 最短5年で投資枠を使い切ってOK!節税の恩恵は一生涯!
    3. NISA保有資産を売却したらその簿価分投資枠が復活!
  3. 新NISA「いまさらきけない疑問」
    1. すでにNISA口座を開いている人はどうなるの?
    2. 新NISAで「成長投資枠」の対象にならない金融商品はあるの?
    3. 「つみたて投資枠」と「成長投資枠」、どっちを使うのがいい?両方使わなければだめなの?
  4. 要注意!NISA枠での運用益は非課税、でも相続税は別の対策が必要!

NISAってどんな制度?
現行NISAの「残念な3つのポイント」

日本の少額投資非課税制度は元々英国のISA(individual Savings Account=個人貯蓄口座)をモデルにして、日本版ISAということで、NISA(Nippon Individual Savings Account、ニーサ)という愛称が付けられ、証券会社や銀行などの金融機関でNISA口座を開設して、株式や投資信託などを購入すると、配当金や売買益等にかかる税金約20%が非課税になる制度として発足しました。

現行NISA(少額投資非課税制度)は2014年の制度発足から間もなく10年になろうとしており、口座数は約1700万、買付総額も約28兆9000億円まで拡大し、制度発足後の10年間で一定の定着を見たその一方で、様々なデメリットも指摘されています。

令和5年税制改正において、現行NISA制度が大きく見直されることとなりました。新しいNISAの制度が始まる背景とあわせて、現行制度のデメリットについてみていきましょう。

その1「そもそも年間投資可能枠が少ない」

現在のNISA制度は、

  1. 上場株式、公募株式投資信託、ETF(上場投資信託)、REIT(上場不動産投資信託)などを投資対象とする一般NISA
  2. 少額かつ低コストで長期・分散・積み立て投資できる投信に対象を絞ったつみたてNISA
  3. 未成年者を対象とするジュニアNISA

の3種類があります。

現行NISA年間投資枠上限

一般NISA つみたてNISA ジュニアNISA
年間投資枠 年間120万円 年間40万円 年間80万円

制度創設の手本としたとされるイギリスの年間投資枠上限である年2万ポンド(約320万円)と比べてもかなり低い水準であることが分ります。

さらに、一般NISAとつみたてNISAは同一年において併用することができず、投資意欲の高い人にとっては物足りない額と言われても仕方ない水準です。

その2「非課税運用できる期間の制限」

現行NISAではそれぞれのタイプごとに非課税投資可能期間が設定されています。

一般NISA つみたてNISA ジュニアNISA
年間投資枠 5年間 20年間 成人(18歳)到達まで

こちらもお手本にしたとされるイギリスのISA制度が恒久的とされているのに対し、短い期間に留まっていることがわかります。リスク性資産の運用成果は運用期間の長さに大きく影響されることから、運用期間に制限があることは極めて残念な点といえます。

その3「ロールオーバー手続きが面倒!もし非課税期間終了後に課税口座に移行するとかえって増税!?」

非課税運用期間が終了したあとも、引き続き非課税運用を続けたい場合、手続きが必要です。その手続きはロールオーバーと呼ばれ、NISAで保有する金融商品の非課税期間が終了した際に、翌年の非課税投資枠に移管しなくてはなりません。

もしこの手続きを踏まない場合、資産は課税口座に移され、その後の売却益や配当金に対し課税がなされるようになり、節税メリットは大きく損なわれてしまいます。

また、ロールオーバーした場合でも、その移管金額が120万円以上だった場合は、その年の年間非課税投資枠を使い切ることになりますので、その年に新規のNISA枠での投資はできなくなるといったデメリットもあります。

さらに、非課税期間の終了とともに、NISA口座で運用している株式・投資信託が課税口座に払い出された場合、取得価格が洗い直され、当初購入時より値下がりしているような場合はその価格が取得価格とみなされるため、のちの売却時の価格次第では、節税どころか当初よりも大きな税金が発生することになります。

大きく変わった新NISAその概要と
「ここがすごい3つのポイント」

このように使い勝手の悪さが指摘されてきた現行NISA制度は、現政権の方針である「資産所得倍増プラン」の追い風もあり、令和5年税制改正において大きな改正がなされることとなりました。

その1「年間投資枠の大幅拡大+生涯投資枠の新設と運用期間の恒久化」

まず新制度では評価が低かった年間投資枠上限と投資可能期間について大きな改正がなされることとなりました。

現在のつみたてNISAの流れをくむ「つみたて投資枠」では年間120万円、一般NISAの流れをくむ「成長投資枠」では年間240万円とそれぞれの年間投資枠上限が大きく引き上げられ、2つの枠合計で年間360万円の非課税投資枠が生まれることになります。

また、「つみたて投資枠」「成長投資枠(上限1200万円)」合算で1800万円の生涯投資枠が設定され、非課税投資期間も恒久化されることになりました。

生涯投資枠の範囲であれば、譲渡益や配当金にかかる税金がゼロになるのみならず、その恩恵を保有期間にわたって受けることができ、そのリターンは消費活動や再投資に振り向けることが可能になります。

なお、利用者それぞれの生涯非課税限度額については、国税庁において一括管理される予定です。

その2「最短5年で投資枠を使い切ってOK!節税の恩恵は一生涯!」

「つみたて投資枠」「成長投資枠」合算で1800万円の生涯投資枠は長期にわたって積み立てていくことも可能ですが、投資余力がある場合、年間投資上限額の360万円の投資を毎年続け、5年間で枠を使い切ることも可能です。

2022年12月時点での日本プライム市場の平均配当利回りは2.35%ですので、課税口座で1200万円相当の日本株式を保有した場合の年間配当見込み額は

1200万円×2.35%=282,000千円

上場株式の配当に対しては、所得税・住民税合算で約20%の所得税がかかりますので、

28万2千円×20%=56,400円

毎年5万6400円は税金として引かれることになり、実際の手取り額は税金分減少し、

28万2千円-5万6400円=225,600円

仮に非課税口座であるNISAで保有した場合は、同じ配当額でも年間56,400円が節税でき、それだけリターンがプラスになります。

こうした節税効果は長期にわたるほど複利効果を増大させ、資産の増加スピードはアップします。NISA恒久化をチャンスととらえ、非課税投資枠を早期に使い切り、一生涯に渡り保有し続けることは資産形成の上では大きなポイントになりそうです。

その3「非課税口座で購入した投資信託・株式等を売却したら非課税投資枠が復活!」

新NISA制度の投資枠上限である1800万円を使い切ったあとでも、まだメリットがあります。

100万円で新NISA枠を使って購入した投資信託が200万円に値上がりし、売却した場合でみてみましょう。この場合、売却益が非課税になるのみならず、購入金額(簿価)に相当する100万円分の新NISA投資枠が復活します。

新たに生まれた投資枠は「つみたて投資枠」で投資信託購入に使うことも可能ですし、「成長投資枠」に余裕がある場合などは国内外の個別株への投資を行うことも可能です。

今回の新NISAは生きている間は、1,800万円分の非課税ポジションを持てる制度になった、と言い換えることもできそうです。

新NISA・いまさらきけない疑問
「こんな場合はどうなるの?」

1.すでにNISA口座を開いている人はどうなりますか?

既にNISA口座(一般・つみたて)を保有している場合、と新NISA制度と併用することができます。

また、既に現行のNISA制度で保有している商品を慌てて売却する必要はありません。購入時から一般NISAは5年間、つみたてNISAは20年間、そのまま非課税で保有可能で、売却も自由です。

ただし、非課税期間終了後、新NISA制度に移管(ロールオーバー)することはできません。

現行のNISA(一般・つみたて)を利用している場合は、新制度開始時に同一金融機関で新しいNISA口座(「つみたて投資」枠及び「成長投資枠」)が自動的に設定される見込みです。

2.新NISAで投資対象にならない金融商品はありますか?

「つみたて投資枠」においては、現行のつみたてNISAと同様に積立・分散投資に適した一定の投資信託が対象とされる見込みです。「成長投資枠」では国内外の上場株式・投資信託等が対象とされる見込みですが、長期・分散投資に適しないとされる

  1. 整理・監理銘柄
  2. 信託期間が20年未満
  3. 高レバレッジ型および毎月分配型の投資信託等

は対象から除外される見込みです。

3.「つみたて投資枠」と「成長投資枠」、どっちを使うのがいい?両方使わなければだめ?

新NISAでは「つみたて投資枠」だけで生涯非課税限度額(1,800万円)を使いきることが可能とされました。

また、「つみたて投資枠」を使わず、「成長投資枠」だけを利用することも可能です。ただし、この場合「成長投資枠」の生涯非課税限度額は、1,200万円で、生涯非課税投資限度額1800万円全てを「成長投資枠」とすることはできません。

資産形成層においてはまず「つみたて投資枠」を優先して使うことで、ドルコスト平均法を活用した長期の積立効果が得られやすくなると考えられます。

また、既に投資を行っているような場合は、新規に投資信託・個別株式を購入する際に「成長投資枠」を活用することで税効果が得られることから資産形成のスピードは向上すると考えられます。

4.要注意!NISA枠での運用益は非課税、でも相続税は別の対策が必要!

NISAは今回令和5年税制改正を経てシンプルかつ分かりやすい制度として大きく前進することになりましたが、あくまでも自分自身で行う投資(売買・配当金等の受領)に対する非課税措置に留まります。

いざ相続が発生した場合には全く違う種類の手続きが必要となります。

評価額が明確な現預金と異なり、上場株式は時価で評価された上で相続財産に合算されます。その計算を誤った場合、意図せず相続財産の過少申告となってしまう危険性もあります。NISAでの運用がうまくいったときこそ生前の相続対策が必要になることは言うまでもありません。

相続にまつわるトラブルを回避するためには、税理士をはじめとする専門家に相談してみることをおすすめします。

また、どんな準備を行えばいいのか、どのような遺言が適切なのか、日々相談できる専門家とあらかじめ接点を持っていれば、相続が発生した際の手続きもスムーズに進めることができるようになります。

廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、証券や不動産といった資産税に関する様々な相談に加え、相続に関する相談をお受けしています。

また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから記帳・申告まで一括サポート可能です。

株式の譲渡や不動産の譲渡など資産関連の税金に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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