所得税が60%減る!? NISA・iDeCoに続く第三の節税 身近になった未上場株式取引とエンジェル税制

所得税が60%減る!? NISA・iDeCoに続く第三の節税 身近になった未上場株式取引とエンジェル税制

2015年の法改正により株式型クラウドファンディング仲介会社が誕生したことで、個人にとっても未公開株式購入は身近な存在になりつつあります。

また、国もベンチャー企業の企業・育成を目指して、1997年(平成9年)の税制改正でエンジェル税制を創設し、その後数回の改正を経て、エンジェル税制は個人にとって便利に使える制度に成長してきています。
エンジェル税制は個人にとって、NISA、iDeCoに次ぐ第三の節税策と言っても過言ではありません。

クラウドファンディング仲介会社が仲介する投資案件の中には個人の投資家にとって節税効果が得られる可能性のある案件があります。

本記事では、個人投資家が未公開株を購入した場合に得られるメリットと、活用に際しての注意点について解説していきます。

<今回のポイント>

  1. 制度発足時は大コケ!? 日本版エンジェル税制の歴史と現在の仕組み
  2. エンジェル税制 A型とB型どっちの優遇措置が有利!?  優遇措置の内容と節税効果
  3. エンジェル税制を活用した節税シミュレーション 節税額はいくら?
  4. エンジェル税制と確定申告

1.制度発足時は大コケしたエンジェル税制!? 日本版エンジェル税制の歴史と現在の仕組み

エンジェル投資家とは創業間もない企業に投資する個人を指すことが一般的です。
エンジェル投資家は、その知見や資金を先見性に富むアイデアと技術力を持つ創業期の企業に対し、供給・投資する一方で、極めて高いリスクを引き受けるため、それに見合うだけの高い投資収益を求める傾向があります。

日本でも創業期にあるベンチャー企業に対し、リスクマネーを供給することを目的に、1997年(平成9年)の税制改正により日本版エンジェル税制が創設されました。
既に25年以上の歴史がある日本盤エンジェル税制ですが、創設された当初はほとんど使われることのない制度で、「大コケした税制」と言っても過言ではありませんでした。
エンジェル税制を適用できる可能性のある企業数が年間2~3社程度しかなかったことに加え、適用を受ける企業側の手続きも煩雑なため、企業側・投資家側ともに手を出し辛かったことが最大の要因です。
さらに、制度発足当初の投資家への優遇措置は、未公開株式の売却時の損失を他の株式等の譲渡益と相殺できる程度だったため、恩恵を受けることができる可能性のある投資家も限定的でした。

このように、当初大コケしたエンジェル税制ですが、改正を重ねるごとに利便性は徐々に高まっていきます。
優遇措置は順次拡大され、2003年には未公開株式への投資額そのものをその年の他の株式等の譲渡益と相殺できるようになりました。
さらに2008年からは、未公開株式に投資した額を他の所得から控除できるようになるなど整備・拡充が進められてきました。

一方で、投資先である有望な未公開企業を一般の個人が発見することは変わらず難しいことに変わりはありませんでしたが、2015年の法改正でその課題が一気に解決します。
2015年(平成27年)の法改正で、株式型クラウドファンディング仲介会社が誕生しました。
これにより、投資家自身がクラウドファンディング仲介会社のサイトから有望な投資先を容易に見つけることができるようになったほか、資金調達を目指す企業側の手続きの煩雑さも一定程度軽減されるなど、これまでの課題が大きく解消され、エンジェル税制は個人投資家にとって一気に身近な存在になったのです。

2.エンジェル税制 優遇措置AとBならどっちの優遇措置が有利!?  優遇措置の内容と節税効果

こうして身近な存在になった未公開株投資ですが、そのエンジェル投資税制の内容とメリット・デメリットをみていきましょう。

まず、投資する側は個人であることが要件です。
また、対象となる投資先は、企業があらかじめ都道府県に申請を行い、エンジェル税制適用可、と認定された企業に限られます。
未公開株式を購入した場合、日本版エンジェル税制では2種類の優遇措置(優遇措置A・優遇措置B)があり、適用可能な優遇措置は対象となる企業の設立後の経過年数等によりあらかじめ決定された上で、クラウドファンディング仲介会社のサイト等に掲載されます。
クラウドファンディング仲介会社を通じて投資できる金額は1社あたり50万円に限定されていますが、投資できる企業数には制限が設けられていませんので、その年の給与所得等や株式の売却益の見込み額に応じた投資を行い、節税効果を得ることができます。

<(投資した時)エンジェル税制の優遇措置と得られる節税効果>

類型 優遇措置A 優遇措置B
企業の要件 設立5年未満 設立10年未満
優遇措置の選択可否
  • 優遇措置AまたはBのいずれかを投資家が選択できる
  • 投資家は優遇措置Bのみ選択可能
優遇措置の内容
  • 投資した金額を寄付金控除として、その年の給与所得・事業所得等から控除することができる。投資額-2000円を所得から控除できる
  • 上限:総所得金額の40% または 800万円のいずれか低い方
  • 投資した金額を他の株式の譲渡益と相殺できる。
  • 控除できる額の上限はない

NISAやiDeCoは売却益が非課税であるのに対し、エンジェル税制では投資した額そのものが所得や譲渡益から控除できるため、より大きな節税効果が得られる可能性が高いと言えます。

<(投資先が破綻したとき)エンジェル税制の優遇措置と得られる節税効果>

未上場企業株式に投資したときに起こり得る最大のデメリットは「投資先の破綻」です。
投資先が破綻した場合は、投資資金の回収ができず投資時に交付された株式の価値はゼロになります。
また、破綻しないまでも、イグジット(IPOやM&A)には長期間至らないケースもあり得るほか、イグジットできた場合でも投資した金額を下回るリターンとなる可能性も十分あり、損失が発生する可能性もあります。

ただ、この破綻等による損失発生はエンジェル税制の優遇策を活用することで節税につながることがあります。
投資先の破綻等で、発生した損失は他の株式等の売却益と相殺することができます。
また1年のなかで損失が相殺しきれない場合(売却益<損失額)にはその損失を最大3年間繰り越すことも可能です。

3.エンジェル税制・優遇措置の節税効果をシミュレーション 節税額はいくら?

では、実際の節税効果はどのようなものなのでしょうか。シミュレーションしてみましょう。

給与所得700万円(所得控除後の課税総所得額520万円)の会社員がエンジェル税制(優遇措置A)の適用可能な未公開企業4社の株式を1社あたり50万円、総額200万円購入した場合の節税効果をシミュレーションしてみましょう。

未公開株投資を行った場合   未公開株投資を行っていない場合
50万円×4社=200万円
200万円-2,000円=1,998,000円
エンジェル税制適用による控除額
(寄付金控除)
0円
520万円-1,998,000円
3,202,000円
エンジェル税制優遇措置(A)適用の課税総所得額 520万円
3,202,000円×10%-97,500円
222,700円
所得税額 520万円×20%-427,500円
612,500円
612,500円-222,700円
389,800円
節税額 0円

復興特別所得税は加味せず

エンジェル税制適用が可能な案件に投資した場合、寄付金控除により、所得税率の区分が20%→10%に低下するので、所得税額は未公開株投資をしなかった場合の約61万円から約22万円に減少、年間約39万円の節税が実現しました。約64%所得税額を減らすことができたことになります。
なお、エンジェル税制の節税効果は所得税のみです。住民税には影響しませんのでご注意ください。

4.エンジェル税制と確定申告

エンジェル税制の適用を受けるためには確定申告が必要です。
上場株式等を特定口座で売買している場合、一般的に確定申告を行う必要はありません。
しかし、未公開株式の購入・売却を行い、税優遇を受けるためには確定申告が必要なうえに、適用を受けようとする優遇措置によって提出・添付書類が異なることや、譲渡時の優遇措置を受けるための書類も別途定められているため、その手続きは一般的な確定申告に比べやや複雑になります。

(1)未公開株式を購入した際に優遇措置を受けるために提出が必要な書類

未公開株式を購入した際に、投資先企業側から直接、またはクラウドファンディング仲介会社を経由して交付される書類は、確定申告に際しては添付する必要がありますので必ず保管しましょう。
また、受けようとする優遇措置によって必要な書類が異なりますので注意が必要です。

① 都道府県知事の確認書または仲介業者等が発行した確認書および認定証の写し
② 発行会社が交付する一定の株主に該当しない旨の確認書
③ 株式投資契約書の写し
④ 株式異動状況明細書
⑤ 株式の譲渡等に関する書類
⑥ 株式等に係る譲渡所得税等の金額計算明細書
優遇措置Aを受ける場合に必要な書類 優遇措置Bを受ける場合に必要な書類
株式の取得に要した金額の寄付金控除額の計算明細書 譲渡所得税等の金額計算明細書

(2)投資先が破綻した場合などに優遇措置を受けるために提出が必要な書類

その年に投資先が投資額を下回るような水準でイグジットに至った場合や、破綻・清算などに至った場合など、主に損失の繰越控除の適用を受けるために確定申告時に提出が必要な書類です。

① 清算結了の登記事項証明書、破産手続開始の決定の公告等
② 令和_年分の所得所得税および復興特別所得税の確定申告書付表(特定投資株式に係る譲渡損失の計算および繰越控除用)

エンジェル税制で設けられている優遇措置は、投資した企業の属性や、投資した時と売却した時それぞれに別の優遇措置が設けられており、確定申告に際しては、異なる様式の書面を提出する必要があります。
確定申告に一定の馴染みがある方でも少してこずることが十分予想されます。

クラウドファンディング仲介会社の誕生で身近になった未公開株式の取引ですが、エンジェル税制の優遇措置を活用しようとする場合は、早めに専門家のアドバイスを得た上で行う方が安心です。
まずは税務等に精通した専門家に相談するところから始めてみてはいかがでしょう。

廣瀬総合経営会計事務所は多様な領域に精通した専門家とアライアンスを構築し、株式・不動産等の譲渡に係る税務申告から相続対策に至るまで、個人の税務に関する幅広い分野をカバーし、投資家の皆様を支援する体制が整っています。

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