2024年秋に変わる法律・ルール3選
経営者が押さえておくべきポイント
法律やルールが変更された結果、これまで何の問題もなかった業務フローが突如法令違反に問われてしまう。こんな経験をした経営者も多いのではないでしょうか。悪意はなくとも法令等に抵触すると、最悪の場合会社存続の危機に発展することもあり得ます。
本記事では経営者なら絶対押さえておきたい2024年秋に到来する法律・ルールの改正について税理士事務所が分かりやすく解説していきます。
その1最低賃金の引上げ
最低賃金はどうやって決まる?
2024年10月~11月にかけて動くのが最低賃金の金額です。最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
関連サイト厚生労働省「最低賃金制度とは」
厚生労働省に置かれる中央最低賃金審議会がこの最低賃金の目安を答申する審議会です。ただし、中央最低賃金審議会が示す水準はあくまで目安であり、実際には各都道府県がそれぞれの実態に合わせて決定することとされています。
2024年の地域別最低賃金の動向
7月25日に中央最低賃金審議会は答申を取りまとめ、2024年度の地域別最低賃金額改定の目安額をすべての都道府県で前年度から50円の引き上げとすることを示しました。
これは過去最高の引き上げ額であり、引き上げ率に換算すると5.0%に達するものです。各都道府県別に最低賃金改定状況をみてみると、最も水準が高い東京都では1,113円から1,163円に約4.5%アップになったほか、最も水準が低い秋田県でも897円から951円と約6%の大幅アップとなっています。
引用元厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
最低賃金を下回る賃金設定や募集は法律違反に
雇用主は労働者に対して、最低賃金以上の額を支払うことが法律によって義務付けられています。仮に雇用主・労働者双方とも今回の水準改正を知らなかったとしても、最低賃金の金額よりも低い給与額で雇用契約をした場合にはその労働契約自体が無効であり、無効となった部分は最低賃金と同様の定めをしたものとするのが大原則です。
そのため、仮に最低賃金未満の給料しか払っていなかった場合には、雇用主に差額の支払い義務が発生します。仮に雇用主がその支払いを拒絶するようなことがあった場合は、50万円以下の罰金に処されることになります。
自社の賃金設定は大丈夫?
今回の最低賃金水準見直しを受け、まず自社の賃金水準が新ルールに抵触していないかを確認しましょう。その上で、自社の地域において定められた最低賃金を踏まえ修正したうえで、賃金水準がアップすることになる従業員には改めて賃金額を提示することが大事です。
賃金のアップは働く従業員にとっても会社へのロイヤリティーを高めるよいきっかけになります。このきっかけをうまく活用して生産性アップを目指しましょう。同時に、募集広告などに掲載する賃金水準が新ルールに沿ったものかも忘れずに確認するようにしましょう。
一方、労働者に対して支払う給与の金額は雇用者にとって収益性に関わる重要なポイントです。最低賃金の平均額は現在少しずつ引き上げられており、今後も金額は上がっていくと考えられます。労働基準法の最低賃金額を守りつつ生産効率もアップさせるなどして収益性のバランスをとるようにしたいですね。
その2社会保険(厚生年金保険および健康保険)の
加入要件見直し
適用事業所の判定基準の変更と会社への影響
2024年10月に予定されている社会保険適用対象事業所の基準変更により、従業員50人を超える事業所(従来は100名超)も新たに社会保険の適用対象となり、そこで働くパートタイムやアルバイトなどの短時間労働者に対する社会保険の適用が拡大されます。
関連サイト日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
新たに適用対象となる企業では、これまで社会保険に加入していなかったパートやアルバイトにも社会保険を提供する義務が生じ、会社側も厚生年金保険料や健康保険料の半分を負担する必要があるため、コストが増加は避けられないでしょう。
また、新たに社会保険の手続きを行う従業員が増えると、労務管理や給与計算事務量が増大します。結果、管理体制や事務体制の見直しを迫られる可能性があります。
適用事業所の判定基準の変更が従業員に与える影響
新たに社会保険の適用対象となる従業員は年金や医療保障の充実がメリットとなります。退職後の年金受給額の増加や、健康保険の給付(傷病手当金や出産手当金など)や育児休業中の給付が受けられるようになるなど、生活保障面での強化が期待されます。
一方で、新たに社会保険に加入することにより、従業員も自らの給与から保険料を支払うことになります。そのため、手取り給与が減少する可能性があります。
また、一部の企業では社会保険の適用を避けるために労働時間を制限することもあり得ます。この場合、パートタイム労働者が働ける時間が減少してしまい、結果として収入の減少につながる可能性もあります。
適用事業所になったのに従業員を社会保険に加入させなかったらどうなる?
社会保険適用事業所であるにもかかわらず、会社が従業員を社会保険に加入させなかった場合、法的な罰則やペナルティが課される可能性があります。
加入手続きの遅延や未加入が発覚した場合、原則としてその未加入期間に遡って社会保険の適用が行われます。この場合、会社と従業員の双方から過去の保険料が徴収されることになり、最大で2年間遡って保険料を支払う義務が生じます。
その際、会社側は未加入期間中に遡って従業員分も含めた社会保険料を一括で支払う必要があり、キャッシュフロー面でも大きな痛手を負うことになります。それでも懲りずに保険料の未払いが続く場合は、延滞金や追徴金が課せられます。
また、故意に加入を怠った場合や、虚偽の報告を行った場合には、労働基準法や健康保険法、厚生年金保険法に基づき、罰金や懲役刑が科せられることもあります。
さらに、社会保険への未加入状態で、従業員がケガや病気で休業を余儀なくされた時や、退職後に年金受給額が減少した場合など、社会保険給付を受けられなかったとして、従業員側が会社に対して補償を求めてきたり損害賠償を求めてくる可能性もあります。
加入を怠ることで、法的なリスクに直面するだけでなく、会社の信頼やブランドに悪影響を及ぼす可能性もあります。自身の会社が社会保険適用事業所になった可能性がある場合は、速やかに年金事務所で申請を行いましょう。
その3フリーランス新法の施行
フリーランス新法の目的と制度趣旨・背景
フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、2023年4月28日に可決成立、同年5月12日に公布され、2024年11月1日から施行されます。
この法律で定義する「特定受託事業者」すなわちフリーランスとは、発注事業者が業務委託を依頼する相手方かつ、従業員を雇わない事業者のことを指します。
フリーランスの働き方は、近年の技術革新や労働市場の変化に伴い、急速に増加しています。特に日本では、ITやクリエイティブ産業を中心に、フリーランスとしての働き方が普及してきました。
しかし、フリーランスは従業員としての法的保護を受けにくく、取引先からの不当な扱いや支払い遅延、契約条件の一方的な変更など、さまざまなリスクに直面しています。これらの問題に対応するため、新法が策定されました。
新法施行以後経営者が注意すべき点
新法で制定されたルールは大別すると以下の4点です。
フリーランス新法 主な内容
契約の明確化 |
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支払い遅延の防止 |
フリーランスが不当な取引を受けた場合、仲裁や訴訟の手続きが簡素化され、迅速に対応できる仕組みが設けられた |
不当な取引条件の禁止 | 取引先企業がフリーランスに対して一方的に不利な契約条件を押し付けることを防ぐため、取引内容の適正化を図る規定が盛り込まれた |
社会保障制度へのアクセス強化 | フリーランスが労災保険や年金に加入しやすくなるよう、保険料負担の軽減措置や加入促進策が講じられた。 |
このうち経営者が特に注意しなくてはならないのが「契約の明確化」です。これまでの取引慣行を継続し、電話や口頭での業務発注を施行日以降も続けていると、思わぬ法制違反に問われる可能性があります。
また、長年の付き合いから多少の遅延は許されてきた報酬支払も、訴訟手続きが簡素化されたことで思わぬ裁判沙汰に発展してしまう可能性も出てきました。今回の新法施行は社内の外注ルールなどを見直す良い機会になるかもしれません。
まだまだ続く法改正
迷ったときは専門家に相談しましょう
今回の記事では2024年秋に起こる3つの法改正の内容と対処方法を解説してきました。
今回ご紹介した法改正以外にも、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)の改正や建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入契法)の改正もあり、業種によっては大きな影響を受ける場合があります。
廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、法人の決算に関する様々なご相談のみならず給与支払手続きに関する相談をお受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、クライアントの経営全般に関するサポートをご提供しています。
法改正を前に社会保険適用に向けた準備やフリーランスへの報酬支払いなどに関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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