令和4年(2022年)限りで上場株式等の配当所得等の課税方式の選択が見直しに

令和4年(2022年)限りで上場株式等の配当所得等の課税方式の選択が見直しに

確定拠出年金・iDeCoやNISAといった制度の拡充や、老後2000万円問題といった話題などもあり、投資は多くの人に身近な存在になりつつあります。
野村総合研究所(NRI)が行った「生活者1万人アンケート」でも、25歳~69歳の年齢範囲で投資を行っている人は2021年時点でその人口の21.1%にあたる1,470万人に上ると推計されており、ここ数年増加傾向が続いています。

投資の中でも、最もポピュラーなのが株式投資です。
株式投資は値上がり益を狙う方法もありますが、安定的に得られる配当金を狙った投資を行う「高配当株投資」を目指す方も増えています。
2022年9月末時点の国内株式の平均配当利回りは約2.18%となっており、仮に1000万円の日本株式を保有している場合、年間約22万円の配当金があります。しかし、手元に22万円全額がくるわけではありません。
証券会社が源泉徴収を行う特定口座を利用している場合、実際の受け取り額は税金(所得税・住民税)を引かれた約17.6万円になるはずです。

この引かれた税金のうち所得税を取り戻す方法があります。
ただし、この方法は税制改正の結果、令和5年(2023年)で最後になります。
投資を行っている多くの人(保有3%超の大口株主でない)が保有しているであろう国内株式等に絞った形で、税制改正実施前にできること、改正実施後の対策をあわせてみていきましょう。

1.上場株式等の配当所得等の課税方式は3種類 確定申告のときにはどうするの?

上場株式等に係る配当所得等については、①申告不要方式、②申告分離課税方式、③総合課税方式の3つの 課税方式があります。
住民税の課税方式は、所得税の確定申告データが税務署から市区町村に送付され、それを基に計算するため、原則として、所得税で選択した課税方式と同じ課税方式となりますが、2022年時点では、納税義務者は所得税と個人住民税において異なる課税方式の選択ができ、納税者が有利となる方法を選択することができます。
住民税の課税方式を、株式等に係る所得の全部について申告不要とする場合には、令和3年(2021年)分からは確定申告書の第二表にある住民税に関する事項に申告不要の欄が設けられていますので、そこに〇をつけるだけです。

<確定申告書 第二表抜粋>

確定申告書 第二表抜粋

(1)申告不要方式とした場合の所得税・住民税

一般投資家の多くは証券会社で「特定口座(源泉徴収あり)」を利用しています。
申告不要を選択した場合には、配当所得の多寡にかかわらず、配当受取時に所得税15%、住民税5%の税率で源泉徴収されるため、課税関係はここで完結します(復興特別所得税は考慮せず)

(2)申告分離課税

申告分離課税で確定申告した場合は、上場株式等の譲渡損失や複数の口座の損益、利子所得などと損益通算する必要がある場合や、損益通算しても損失が残る場合に3年間の繰越控除を適用する場合などは申告分離課税方式が適しています。この方式を選択する場合は確定申告が必要となります。

(3)総合課税方式

総合課税として確定申告した場合は、他の所得と合算して税額を算出するとともに、配当控除の適用を受けることができます。配当控除とは、一定の税額を控除できる税額控除です。
所得税の場合の控除率は、課税所得金額等が1000万円以下の部分は、配当所得の10%(1000万円超の部分は5%)です。住民税の場合は、1000万円以下が2.8%、1000万円超は1.4%となります。
配当控除を活用できる総合課税制度は、その人の課税総所得金額が一定水準以下の場合、所得税の実質負担率は低下するため有利な一方、一定水準を超えた場合、実質税負担率が上がるため、申告不要とした方が有利になるケースがあります。こちらの方式を選択する場合も確定申告が必要となります。

2.現行(~2022年)の配当所得等の課税方式の選択と改正後(2023年~)の有利・不利を検証してみよう

2022年現在、配当所得を得ている納税義務者が選択できる申告方法の組合せは3パターンあります。
税制改正を経た2023年分以降も3種類の課税方式(①申告不要方式、②申告分離課税方式、③総合課税方式)は存続しますが、所得税・住民税の課税方式を統一することが必要となるため、その組み合わせは2パターンになります。
配当控除も加味した上で、その有利・不利を見ていきましょう。

(1) 現行(~2022年)の課税所得金額に応じた申告方法

<現行(~2022年):配当所得に係る確定申告の組合せ>

    パターン1 パターン2 パターン3
申告方法の組合せ 所得税 申告不要 総合課税 総合課税
住民税 申告不要 総合課税 申告不要
         
課税所得金額 所得税率 所得税+住民税に配当控除を加味した合算税率
195万円超~330万円以下 10% 20.0% 7.2% 5.0%
330万円超~695万円以下 20% 20.0% 17.2% 15.0%
695万円超~900万円以下 23% 20.0% 20.2% 18.0%
900万円超~1000万円以下 33% 20.0% 30.2% 28.0%
1000万円超~1800万円以下 33% 20.0% 36.6% 33.0%

※課税所得金額195万円以下および1800万超は省略

2022年までの税制においては、所得税・住民税の課税方式を統一する必要がないため、3種類の組合せが可能です。
課税所得900万円以下の場合では、所得税:総合課税・住民税:申告不要とするパターンの合算税率が18%と最も低くなることが分ります。
また、課税総所得金額が900万円を超える場合は所得税・住民税ともに申告不要とするパターンが最も有利であることもわかると思います。

(2)改正後(2023年~)の課税所得金額に応じた申告方法

<改正後(2023年~):配当所得に係る確定申告の組合せ>

    パターン1 パターン2 パターン3
申告方法の組合せ 所得税 申告不要 総合課税 総合課税
住民税 申告不要 総合課税 申告不要
         
課税所得金額 所得税率 所得税+住民税に
配当控除を加味した合算税率
 
195万円超~330万円以下 10% 20.0% 7.2% 5.0%
330万円超~695万円以下 20% 20.0% 17.2% 15.0%
695万円超~900万円以下 23% 20.0% 20.2% 18.0%
900万円超~1000万円以下 33% 20.0% 30.2% 28.0%
1000万円超~1800万円以下 33% 20.0% 36.6% 33.0%

※課税所得金額195万円以下および1800万超は省略

改正後の2023年以降は所得税・住民税の課税方式を統一する必要があることから、パターン3の組合せがなくなり、選択できる課税方式の組合せは2パターンに減少します。
その結果、有利・不利の分かれ目になる課税総所得金額のバーは695万円に下がります。
課税総所得金額が695万円以下の場合は所得税・住民税ともに総合課税とした方が合算税率17.2%となり、有利になります。
逆に課税総所得金額が695万円を超える場合は、申告不要方式(確定申告をしない)とした方が有利になります。

このように納税義務者にとって有利な選択が可能とされている上場株式等の配当金の税申告ですが、所得水準によって有利・不利があります。また、今回の税制改正によって有利・不利の判定基準となる課税総所得金額の水準も変化し、改正後はその水準が切り下がり、節税度合いはやや低下することになります。

3.配当所得等の課税方式の選択と社会保険・扶養制度への影響は?

配当所得等の課税方式を選択する際には、税率の有利・不利以外にも注意する点があります。
配偶者の扶養に入りつつ株式投資を行っている人や、学生で親の扶養に入りつつ株式投資を行っている人、個人事業主の人などは特に注意が必要です。
いずれの場合も配当金の課税方式を申告不要とした場合には影響が出ませんが、課税方式の選択を誤ると、社会保険料や扶養控除等に影響が出る可能性があります。確定申告を行う場合には注意が必要です。

(1)配偶者の扶養に入っている人

配偶者の扶養に入りつつ株式投資を行い、配当金を受け取っている人が所得税の還付を狙って、確定申告を行う場合、自身の他の所得(パート・アルバイト収入)として合算の上で確定申告を行うことが必要です。確定申告の結果、課税総所得が配偶者の社会保険の扶養範囲を超過してしまい、自身で社会保険に加入することになり、給与等を含めた全体的な手取り額が減少してしまう危険性があります。また、配偶者控除が適用されなくなった場合には、配偶者の税金が増える可能性もあります。

(2)親の扶養に入っている学生

学生で何らかの奨学金を得て就学している人が確定申告を行った場合、奨学金の支給要件から外れてしまうケースがあるほか、親の社会保険の扶養範囲を超過してしまい、扶養者である親の税金に影響が出る可能性があります。また、自ら社会保険料を負担することになる可能性もあります。

(3)個人事業主

個人事業主の場合も、配当所得の住民税を総合課税にすることで、課税総所得金額が上がり、国民健康保険料の負担が増大する可能性がありますので、慎重な見極めが必要です。

<今回のポイント>

  1. 上場株式等の配当所得等の課税方式は3種類 確定申告のときはどうすればいい?
  2. 現行(~2022年)の配当所得等の課税方式の選択と改正後(2023年~)の有利・不利を検証してみよう。
  3. 配当所得等の課税方式の選択と社会保険・扶養制度への影響は?

会社員の場合、所得税は毎月の給与から源泉徴収されていますが、そのときの金額はあくまで概算(だいたいの金額)です。年間10万円以上の医療費を支払った人や、扶養する家族が増えた人などは確定申告をすると差額分が戻ってくる可能性が高いです。言い換えれば確定申告をしないままだと、本来払う必要がない税金を払ったままになってしまいます。税務署が「あなた、税金払いすぎですよ。」と親切なアドバイスをくれることはまずありません。

令和4年(2022年)は現行制度で配当所得の確定申告ができる最後の年になります。
有利・不利を見極めつつ確定申告を行ってみてはどうでしょう。

一方で、未上場株式からの配当受け取りがある場合や、上場している企業の3%以上保有の大口株主である、といったようなより複雑・高度な申告を行う場合は、専門家のアドバイスを得ることが大切です。
まずは税務等に精通した専門家に相談するところから始めてみてはいかがでしょう。

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