生命保険を相続対策に活用する時に
注意すべき4つのポイント
生命保険の被保険者が死亡した場合、加入の保険内容にしたがって、死亡保険金が支払われることとなります。生命保険は本来の相続財産ではないものの、相続税の課税上は、相続財産とみなされる「みなし相続財産」のひとつに数えられています。
また、受け取った保険金のうち一定枠が非課税とされることから生命保険は相続対策においても有効な手段とされています。
一方で、誤った加入をしてしまうと、思い描いていた効果が得られないこともあります。また、数百万円、数千万円と多額の保険金が支払われることも少なくないため、生命保険金を巡って相続人間での争いの材料になることもあります。
この記事では相続対策で生命保険を活用する際のポイントについて分りやすく解説していきます。
なぜ生命保険は相続対策に有効なのか
生命保険金は受取人固有の財産で遺産分割協議の対象外。相続放棄しても受け取れる
生命保険は人の死亡に対して生命保険金が支払われ、まとまった保険金額を受け取ることができます。そして、その生命保険金は受取人の固有の財産とされ、遺産分割協議においても対象外となります。
もちろん、遺産分割協議書にその内容を記載する必要もありません。そのため、妻や子など特定の人を受取人に指定していた場合、生命保険会社は受取人からの請求に基づき、指定された受取人に生命保険金を支払います。
さらに、相続放棄をした場合にも死亡保険金を受け取ることは可能です。多額の借金を抱え夫が死亡し、妻が相続放棄をした場合であっても、妻は死亡保険金を受け取ることが出来ます。(この場合、後述する非課税のメリットは受けられません。)
また、特定の人が受け取った生命保険金は、分割が困難な不動産や事業継続に必要な自社株式を受け継ぐ際に他の相続人に対して支払う代償分割資金の原資として自由に使うことも可能です。
死亡保険金はすぐ受け取れる!死亡保険金で納税資金を確保
生命保険金の受け取りは、請求書類が生命保険会社に到着してから5営業日程度で指定口座に振り込まれることが一般的です。
万一この期日を過ぎた場合は遅延利息を支払う、とする生命保険会社が多く、速やかな受取りができることで、納税資金を確保した上で、余裕を持って相続税申告・納税の準備が可能になります。
生命保険固有の機能「死亡保険金の非課税枠」 で相続税を節税
被相続人の死亡により支払われる生命保険金には、一定の非課税枠が設けられています。この非課税枠は他の金融商品にはない保険固有の税制メリットであるため、相続対策の一つとして生命保険が活用される大きな理由になっています。
生命保険金の非課税枠は500万円×法定相続人数で計算されます。この非課税枠の範囲内であれば原則として相続財産にも合算されません。
仮に、法定相続人が3人で2000万円の死亡保険金が支払われた場合、
2000万円-500万円×3人=500万円
相続財産に合算されるのは非課税枠を超過した500万円のみになり、残りの1500万円は非課税財産として受取人固有の財産になります。
生命保険を相続対策に用いる場合の注意点
一方で、生命保険を相続対策に用いる場合の注意点もあります。順を追って見ていきましょう。
その1生命保険の受取人は誰でもいいというわけではない
まず1点目は受取人の範囲が制限される点です。
個人契約の場合、死亡保険金の受取人に指定できるのは、一般的には被保険者の配偶者や二親等内の血族(子・孫・父母・祖父母・兄弟姉妹)までとしている生命保険会社が多数を占めています。
内縁関係や事実婚関係、同性パートナーにある人を受取人として認める生命保険会社も一部ありますが、そうした関係の人を受取人指定するに際して様々な要件を設けている場合がほとんどです。
さらに、こうした法律婚以外のパートナーは戸籍上は第三者とみなされるため、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使うことができず、受け取った死亡保険金は全額相続財産に合算されることになります。
また、身寄りがなく、自分の生命保険を社会の役に立てるためにNPO法人などを受取人にしたい場合であっても、契約時にその団体を保険金受取人に指定するようなことはほぼ認められないと言っていいでしょう。
その2その受け取った保険金の使途を遺言等で指定することはできない
2点目は生命保険金の使途を遺言等で指定することができない点です。既にお伝えした通り、生命保険金を受け取る権利は受取人固有の権利とされており、遺産分割協議の対象外です。
そのため、一旦受取人の手に渡った生命保険金の使い道は元々の契約者・被保険者が遺言等でも制限することができず、生命保険金を遺す人の思いと異なる使われ方をされてしまうことも十分あり得ます。
仮に、次の相続人のために役立てたいという思いがあって、生命保険金を将来発生するであろう二次相続への備えにしたかったとしても、遺言等で生命保険金の使途を将来の相続に及んでまで指定することはできません。
その3相続財産に占める生命保険金の割合が極端な場合は特別受益になる?
3点目は生命保険金が特別受益とみなされるリスクがある点です。特別受益とは、特定の相続人が被相続人から遺贈や生前贈与によって得た特別の利益を指します。
この場合、特別の利益を受けた者が得た贈与等の利益は、相続発生時には実際の相続財産の額と合算したうえで、各相続人の相続分を決めなければならないとされています。
特定の相続人が受け取った生命保険金の遺産総額に占める割合が、極端に偏っているような場合には、生命保険金が特別受益とみなされる危険性があります。
生命保険金が特別受益とみなされた場合、死亡保険金は他の相続財産と合算されることになり、元々の生命保険金の受取人だった相続人は他の相続人に対し、死亡保険金を分配せざるを得なくなります。
判例では生命保険金が特別受益にあたるとされる具体的な金額・割合までには言及していないものの、生命保険金が相続財産の過半を占めるような水準にある場合には注意が必要です。
その4生命保険は物価上昇に弱い?
4点目は物価上昇(インフレ)への抵抗力です。総務省からリリースされた2023年7月時点の国内の消費者物価指数は3.3%でした。
諸外国に比べるとまだ穏やかな上昇率ともいえますが、食料品やガソリンをはじめとする身近なものの価格の上昇はとても気になるところです。
将来の物価上昇率を予測することはできませんが、仮にこの3%水準の物価上昇率が続くと仮定した場合、約22年後に物価は現在の約2倍の水準になってしまいます。
物価上昇(インフレ)は現預金の価値を下げる一方で、資産価格の上昇につながるため、相続財産額も増えることになり、相続税額も上がることになります。
生命保険は定額(加入時に死亡保険金額が確定するタイプの生命保険)かつ長期の契約であることが多いため、このような物価上昇が長く続いた場合には、生命保険金額は実質目減りしてしまい、将来の納税資金が不足する危険性があります。
相続対策によく用いられる生命保険はどんな保険?
相続対策に適した生命保険は終身保険
相続税対策として死亡保険金で非課税枠を活用しつつ納税資金を確保することを目的としている場合には、終身保険が最も適していると言えます。
終身保険は文字通り死亡保障が終身続くため、亡くなった年齢を問わず死亡保険金が確実に受け取れることに加え、貯蓄性もあるので、緊急の資金需要が生まれたときは途中解約するなどして解約返戻金を得ることもでるからです。
掛け金は月払・年払で分割して払うこともできますし、まとまった資金を一時払で支払うこともできます。一定程度まとまった現預金がある場合は、一部を一時払い終身保険に移し替えることで、手元の現預金を減らしつつ生命保険金の非課税枠を活用できるようになるので、相続対策として有効です。
また、一時払タイプの終身保険は加入時に健康状態を問われないことが多く、加入可能年齢も80歳を超えるものもありますので、生命保険が終わってしまったなどの理由で非課税枠の残がまだあるような場合は検討の余地が大きいと考えられます。
物価上昇局面では変額タイプの終身保険が有利な場合も
物価上昇が続くような局面では、定額の終身保険の場合、保険金額が実質目減りするリスクがあるのは前述した通りです。
そのため、同じ終身保険でも資産価格の上昇に応じて保険金額が変動(解約返戻金・保険金が株式や債券の価格に応じて変動するが、死亡保障額は最低保証される)し、物価上昇(インフレ)への抵抗力が強いとされる変額タイプの終身保険も検討してみるのもよいでしょう。
同じインフレ抵抗力を持つタイプの終身保険として外貨建て終身保険の提案を受けることもあるかもしれません。しかし、将来の納税は円貨で行う必要があることから相続対策としては円建ての変額終身保険とした無難と言えます。
相続対策に生命保険を活用する際は
専門家のアドバイスが必要?
相続対策のポイントは、1.円満な遺産分割、2.納税資金の確保、3.相続税の節税の3つと言われます。相続対策はこれら3つのポイントを全体俯瞰して検討する必要があります。
生命保険は確かに相続対策を検討するうえで。どのポイントにおいても極めて有効なツールですが、誤った選択をしてしまうと思うような効果が得られない可能性も出てきます。
また、生命保険をはじめとする相続対策も、時間の経過とともに税制の改正や相続財産価額の上昇など、当初想定していなかったような事態に見舞われ、変更を余儀なくされることもあり得ます。一度立てた相続対策が必ずしも将来にわたって万全である保証はなく、適宜見直していくことも重要です。
相続対策のご相談は廣瀬総合経営会計事務所へ
廣瀬総合経営会計事務所は杉並・中野相続サポートセンターの運営母体として、経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、相続税をはじめとする資産税に関する様々なご相談をお受けしています。
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