2024年に実施される
公的年金制度の見直し・改正点論議内容を
税理士事務所が解説
2024年は年金制度にとって5年に一度の「財政検証」の年であり、その見直し論議から目が離せない1年になりそうです。順調に進めば、年末までに年金制度改正案がまとめられ、来年1月の通常国会に年金制度改正の関連法案が提出される見通しです。
関連サイト厚生労働省「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」
この記事では2024年時点で既に決定している変更内容や、現在進行形で進んでいる改正論議の論点について税理士事務所が分かりやすく解説していきます。
2024年
既に決定している公的年金制度の変更点
老齢基礎年金のもらえる額がアップ でも納付する保険料もアップした
2024年1月に厚生労働省から公的年金(国民年金・厚生年金)の令和6年度支給額が発表されました。(いずれも月額)
令和5年度 | 令和6年度 | |
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国民年金(老齢基礎年金・満額) | 66,250円 | 68,000円(↑1,750円) |
厚生年金(標準的な夫婦2人分) | 224,482 円 | 230,483 円 (↑6,001円) |
関連サイト日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」
貰える額がアップするのですからうれしい話には間違いありません。これは何も厚生労働省が大盤振る舞いをしているわけではなく、元々年金額が物価変動率や名目手取り賃金変動率に応じて毎年度改定を行う仕組みとなるよう法律で定められているためです。
簡単に言うと、「物価が上がったので、その分を勘案して年金額も上げましたよ」となります。実際、この受給額アップの背景には同日発表された「令和5年平均の全国消費者物価指数」(生鮮食品を含む総合指数)の上昇があります。
一方、16,520円だった国民年金の保険料は16,980円にアップしています。
関連サイト日本年金機構「国民年金の保険料はいくらですか。」
保険料を納付する側からすれば負担増になります。受給額アップと支払保険料のアップは表裏一体の関係にあることがよくわかります。
在職老齢年金の上限額が引き上げられた
「在職老齢年金制度」とは厚生年金に加入しながら勤務をする社員が、受給する老齢厚生年金と給与・賞与額との関係で年金の支払い額が抑制される仕組みで、2023年度までは月額48万円が境界線になっていました。
厚生年金・給与および賞与の月額の合計が48万円を超えると超過額の半分が厚生年金の月額からマイナスされる仕組みです。この上限額が2024年度に50万円に引き上げられました。
関連サイト日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
つまり、これまでより多く給与・賞与をもらったとしても、調整金が発生する可能性が低くなったと言え、会社員として働く高齢者にとっては少しうれしい話と言えます。
厚生年金加入事業所の範囲が2024年10月に拡大される
当事務所のコラム「私の壁はどこ?税・社会保険にまつわる「〇〇〇万円の壁」をわかりやすく解説」でも2022年10月法改正で新たに101人以上の企業に対して、社会保険料加入義務が課せられたことをお伝えしました。
2024年10月にはさらに、従業員数の下限が引き下げられ、従業員数51人以上の企業に対して新たに社会保険料加入義務が課せられることとなっています。
関連サイト厚生労働省・社会保険適用拡大特設サイト「社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について」
こうした企業でパート・アルバイトとして働き、月額で8.8万円以上(年間106万円以上)の収入が見込まれる人については10月から新たに社会保険料の徴収が始まることになります。
関連サイト厚生労働省・社会保険適用拡大特設サイト「パート・アルバイトのみなさま」
この年収106万円は2022年10月の法改正で新たに生まれた「106万円の壁」と呼ばれるもので、将来の年金受給額が増える半面、足元で手取り額が減少することが見込まれます。
こうしたパート・アルバイト従業員の多くは主婦層であり、社会保険料を納める必要のない第3号被保険者の立場であることを望む人が多く、その立場を維持するために労働時間を意図的に抑制するなど人手不足の原因になっているとの指摘があります。
さらに、雇用する企業側から見ても社会保険料の会社負担分が増加することは確実で、減益要因になることはほぼ間違いなく、場合によっては社会保険料倒産という事態すらあり得ます。
2024年は5年に一回の制度見直し「財政検証」の年に行われる
見直し論議の主要テーマは?
人手不足問題で巻き起こった第3号被保険者の廃止論議
第3号被保険者とは公的年金保険料を支払うサラリーマンや公務員(第2号被保険者)の配偶者で、社会保険上の扶養認定基準を満たしている人のことを指します。簡単に言うと、「自ら国民年金保険料や健康保険料を払わなくてもその給付が受けられる人」になります。
これらの人々が年収106万円を超え、扶養から外れると途端に社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)を自身で支払うことになります。そのため、年収106万円を超えないように労働時間を抑制する動きがあることが問題視されています。
これらの人がより多くの時間働き、多くの年金保険料を納めるようになれば、年金財政の安定化が図られると同時に、人手不足の解消にもつながります。
直近(2024年4月)の東京都の有効求人倍率は全業種で1.40倍と一定程度落ち着きを見せていますが、人手不足の状態が続いています。その課題を解決するための方策として今回の第3号被保険者の廃止論議は活発化していきそうです。
関連サイトNHKニュース「第3号被保険者制度 “対象者減らしていくべき” 厚労省審議会」
多く払うと多くもらえる?国民年金(基礎年金)の納付期間延長論議
この経済財政諮問会議では、健康で働ける期間が延びていることを受け、高齢者の定義について5歳延ばすことを検討すべきとの提言もなされました。
具体的には、現行の納付期間「60歳になるまでの40年(20歳~60歳)」から「65歳になるまでの45年(20歳~65歳)」へ5年延長するかどうかが焦点となっています。
関連サイトNHKニュース「国民年金保険料の納付期間 5年延長案 審議会で賛成意見相次ぐ」
確かに、健康寿命の延伸は明らかな中、現在の65歳以上が高齢者とする定義に違和感を持つ人が増えていることは間違いなく、これが、国民年金の拠出期間延長・給付増額と一体で論議される背景にあります。
もちろん納付期間の延長は受給額の増大と表裏一体ではあるものの、自営業者や60歳以降は働かない人達にとっては負担が増すという問題とも表裏一体です。
厚生労働省が示した試算では、保険料は5年間で計約100万円増えるとされており、この論議の趨勢からも目が離せなさそうです。
標準報酬月額の上限見直しで負担増?高所得者層の厚生年金保険料
厚生労働省の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の年金部会では会社員らが加入する厚生年金保険料の上限の引き上げについて議論がスタートしています。
これにより影響を受けるのが高所得者の会社員・会社経営者と企業です。厚生年金の保険料や給付の算出の基礎は標準報酬月額であり、現行制度では月収を32段階に区切り保険料が決まる仕組みになっています。
関連サイト日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
この32段階目・最上段の報酬月額テーブルが65万円のテーブルです。そのため、これ以上の報酬を得たとしても企業・従業員が負担する厚生年金保険料は上がることがありません。
中には賞与を月収につけかえて賞与からの保険料負担を免れている猛者もいるとの指摘もなされており、公平性担保の観点から見直し論議が始まろうとしています。
多く支払う分多く受け取れることは間違いないのですが、一方で社会保険料を折半で負担する企業側の負担が増えることは明らかであり、高報酬の会社員や会社経営者はともに論議の趨勢を見守る必要がありそうです。
公的年金受給者の多くは確定申告が不要
ただし、確定申告するメリットも
公的年金も「所得」の一種であり、所得税と住民税の課税対象となり、所得税のくくりでは「雑所得」に分類されます。
ただし、高齢者に負担をかけないようにするため、一定の条件を満たす公的年金受給者には「確定申告不要制度」が設けられています。この制度の条件に当てはまる場合、特別な手続きはなくても確定申告は不要になります。
関連サイト政府広報オンライン「ご存じですか?年金受給者の確定申告不要制度」
しかし、公的年金以外にアルバイトによる収入や株式投資による利益が年20万円以上あった場合は不要制度の条件に当てはまらなくなり、確定申告の必要があります。
同様に、公的年金が400万円を超える場合や外国の公的年金の支給がある人も確定申告を行う必要があります。
一方で、公的年金受給者が確定申告することで得られるメリットもあります。下表のようなイベントがあった方は納める税金の額が減り、税金の還付を得られる可能性もありますので、確定申告を検討してみた方がよいでしょう。
公的年金受給者が確定申告するとメリットがあるケース例
災害や盗難にあった | 災害や盗難などの被害に遭ったときは、雑損控除の対象になります。 |
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マイホームを住宅ローン等で取得・リフォームした | マイホームを住宅ローン等で取得した場合、10年にわたってローン残高の1%分の控除が受けられる。バリアフリー化などのリフォームをした場合も同様 |
寄付(ふるさと納税等)をした | ふるさと納税のような都道府県や市区町村への寄付金、国、公益社団法人や認定NPO法人への寄付金は寄付金控除の対象となります。 |
医療費の支払いが嵩んだ | 医療費が年間10万円以上の場合、10万円を超えた金額が医療費控除の対象になる。年収200万円未満の方は、総所得金額等の5%を超えた場合が対象 |
家族構成の変更(死別・離別等)があった | 夫婦が死別した場合、寡夫(婦)控除(27万円)が適用され、課税所得額が減少する |
ただし、年を重ねるにつれ高齢者がひとりで確定申告を行うのは徐々にハードルが高くなります。
また、相続等を考えなくてはならない年齢も年々近づいてきているとも言えます。スムーズな申告・納税、そして相続対策を検討するに際は税理士をはじめとする専門家のアドバイスがあった方がよいでしょう。
廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、確定申告に関する様々なご相談に加え、杉並・中野相続サポートセンターの運営母体として相続に関する相談をお受けしています。
また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから記帳・申告まで一括サポート可能です。
初回利用者向けの無料相談会も開催しておりますので、初めての確定申告をどうするか悩んでいる人や相続に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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