インボイス制度と電子帳簿保存法の改正・特例延長を
税理士事務所が解説

2022年1月から施行された電子帳簿保存法、2023年10月に施行されたインボイス制度。ともに、小規模な事業者の頭を悩ませた法改正ですが、ここに来て更に追加で変更が行われています。

果たして事業者の負担は軽くなったのでしょうか?それとも負担は増したのでしょうか?

この記事では相次いで打ち出された電子帳簿保存法の特例期間延長とインボイス制度の一部改正が事業者に与える影響について税理士事務所が分かりやすく解説していきます。

電子帳簿保存法の施行から2年が経過。
その後の変化とは?

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法とは、決算関係書類・取引関係書類といった国税関係帳簿や国税関係書類について、電磁的記録(電子データ)による保存を認める法律のことで、略して「電帳法(でんちょうほう)」とも呼ばれます。

関連サイト国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト

2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法では、請求書や領収書、発注書、契約書をはじめとした国税関係の書類をPDFやメールなどの電子データで受け取った場合、取引情報は電子データのまま保存することが原則となりました。(ペーパーベースで受け取った帳票は引き続き紙保管とされました)

ただし、2021年12月に公表された令和4年度税制改正大綱により2023年12月31日まで2年間の猶予措置が設けられていました。つまり、やむを得ない事情がある場合は、受け取った電子データを紙印刷するなどして、電子データ以外での保存も認められてきたのです。

2023年12月で猶予期間は終わったはずだが・・・

本来2023年(令和5年)12月末でこの猶予期間は終わり、電子データで受け取った取引情報は電子データのまま保存することが求められるはずでした。

ところが、2022年12月公表の令和5年度税制改正大綱では2024年1月以降も「相当の理由がある場合」には引き続き猶予措置が設けられることになりました。

引き続き猶予が認められるための「相当の理由」とは

では、どのような理由であれば、猶予が認められる「相当の理由」に該当するのでしょうか。

最も代表的なものは「システム等や社内のワークフローの整備が間に合わない場合」です。これは国税庁の取扱通達でも示されており、人材面、資金面などの理由が原因で電子データ保存ができない場合に限って認められるものです。

当然のことながら、単に事業者が面倒くさい、やりたくない、では「相当の理由がある」とは認められませんので注意が必要です。

また、猶予措置によって保存要件が不要となったり、出力書面の整理等によって検索要件が不要になったとはいえ、受け取った電子データを紙で印刷保存しただけでは適格性は認められません。電子データで受け取った必ず電子データでの保存とセットとなることも押さえておきましょう。

インボイス制度・関連事項の緩和高速道路料金ETC支払の保存要領の見直しについて

ETC料金はクレジットカード明細で仕入税額控除が受けられる?

結論から言うと、2023年10月以降はクレジットカード利用明細だけではETC料金の仕入税額控除を行うことはできなくなりました。

確かに、インボイス制度発足まではクレジットカードの利用明細がETCの仕入税額控除に際して有効なエビデンスとされていましたが、クレジットカードの明細書にはTから始まる登録番号や税率が記載されておらず、インボイス制度発足以降はETCカードの利用明細の保存のみでは消費税の仕入税額控除ができないことが明確化されています。

ETCを利用して高速道路を通行する際には現金の支払いもしませんし、領収書の授受も行われません。つまり、ETC利用料金は課税取引であるにもかかわらず適格請求書が受け取れません。

そのため、2023年(令和5年)10月1日以降にETC利用の高速道路料金で仕入税額控除を行うためには、ETC利用照会サービスへの登録と利用証明書の出力が求められるようになりました。

この利用証明書は毎月一回取り出せば足りるとされ、ETCクレジットカードの利用明細と合わせて保存することで仕入税額控除が認められることとなっていました。

ただ、たとえ毎月一回とはいえ、高頻度で同じルートを通る高速道路のETC利用証明書を取得・保存することは負担感が大きい、との指摘が多くなされていました。

改定前後で変わるETC利用証明書の取扱い方法

このETC利用証明書の発行・保存について更なる踏み込んだ緩和が示されたのが2024年(令和6年)4月の改定です。

この改定で高速道路会社ごとに一度ダウンロード保存しておけば、ETCカードの明細とセットで仕入税額控除が認められることとなり、毎月一回のダウンロードに比べ実質的に保存要件は緩和されました。

また、A高速道路経由B高速道路、最後はC高速道路といったように、複数の高速道路会社を経由した場合、最後のC高速道路会社の利用証明書の保存のみで可とされました。

もちろん、こうしたETC関連の証憑も電子帳簿保存法の影響を受けます。電磁的に交付された証憑は保存しておくことはもちろん、求められればすぐに取り出すことができるよう検索が可能な状態にしておかなくてはなりません。

インボイス制度・関連事項の緩和自動販売機特例の見直し

適格請求書発行なしで仕入税額控除が認められる「自動販売機特例」取引とは

自動販売機と言えば、街中や事務所が入居しているビル内にある飲料のベンダーを思い浮かべると思います。確かに、来客用の飲み物を自動販売機で買ったからと言って、領収書が都度プリントアウトされることはまずありません。

インボイス制度発足前までは、こうした飲料の自動販売機での購入や、コインロッカー、コインランドリーなどの利用に際しては一定の事項を帳簿に記載しておくことで、領収書がなくても消費税の仕入税額控除が可能とされてきました。

この流れを受け、インボイス制度発足後は請求書等の交付が困難な取引の内3万円未満の物品購入については交付・保存の義務が免除される「自動販売機特例」が設けられることになりました。

この自動販売機特例の対象になるものとならないものは一部似通ったものもありますので、間違えないように注意が必要です。

自動販売機特例の対象になるもの・ならないもの

自動販売機特例の対象になる 自動販売機特例の対象にならない
  • 自動販売機による飲食料品の販売
  • コインロッカー
  • コインランドリー
  • 金融機関のATM利用で発生する手数料
  • 代金の受領と券類の発行のみ機械装置で行われるサービス・資産譲渡(例:コインパーキング)
  • 小売店内に設置されたセルフレジ
  • インターネットバンキング手数料(※)

2024年4月の制度改定で一部保存要件等が緩和

自動販売機特例で適格請求書発行が免除されるために必要な記載事項

自動販売機特例対象取引に限らず、インボイス制度における帳簿の記載事項は以下の通り定められています。

  1. 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
  2. 課税仕入れを行った年月日
  3. 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 課税仕入れに係る支払対価の額

さらに、自動販売機特例を適用する場合には、上記に加え、以下の項目も帳簿に記載する必要がありました。

  1. 特例対象である旨の記載(「自動販売機特例」などと記載)
  2. 仕入れの相手方の住所又は所在地

ここで悩ましいのが、「2. 仕入れの相手方の住所又は所在地」です。

文字通り、自動販売機や銀行ATMの住所地を記載しなさい、という内容ですが、出張先での振込手続きや工事現場に設置してあった自販機での飲み物購入の場合、即座に思い出せない住所地も多くあるなど、運用面での煩雑さが指摘されていました。

2024年4月改正で自動販売機特例の帳簿記載事項は大幅に簡素化

こうした声を受け、令和6年度税制改正の大綱では、自動販売機特例の適用を受ける場合の帳簿等への記載事項について、「住所等の記載」を不要とすることが示されました。

同時にこの運用はインボイス制度発足当初(2023年10月1日)に遡って適用されることも国税庁からも公表されました。事業者にとっては煩雑さが軽減されたといえるでしょう。

インボイス制度・関連事項の緩和インターネットバンキング取引における
適格請求書保存要件が簡素化

ATMでの送金とインターネットバンキングでの送金の違いについて

ATM利用に係る手数料とインターネットバンキングは金融サービスを受けるための対価で、その手数料はともに課税取引です。

ただし、前述の通りATM利用手数料がインボイス制度における自動販売機特例の対象とされる一方、インターネットバンキング手数料は対象外とされています。

確かにATMは自動サービス機を利用した機械装置のみで完結する課税取引で、インターネットバンキングは利用者が自身のPC・スマホで行うことがほとんどであることため、ATM取引と全く同じとは言い切れないのも事実ですが、振込などATMと同じ金融サービスを利用しているにもかかわらずインボイス制度上は分けて整理されているため、制度面での不備を指摘する声が多くあったのも事実です。

現状の枠組みは維持しつつ適格請求書保存要件は簡素化

2024年4月のインボイス制度改定では、インターネットバンキング手数料について請求書の保存要件が大きく緩和されることになりました。

具体的には適格簡易請求書が提供される場合には、当該電磁的記録をダウンロードする必要があるとする現状の枠組みは維持しつつも、金融機関が発行する証明書等があり、ネット上で取引履歴が見て取れる環境にある場合は、手数料の明細書を一回取得し、保存しておけば取引の都度ダウンロード・保存する必要はないとされました。

これはインターネットバンキングによる金融取引がETCの利用と同じく同じ取引がっ繰り返し発生することを踏まえた対応と考えられ、保存要件が緩和される対応・措置が行われたことは事業者にとってはうれしい話です。

インボイス制度や電調法に迷ったときは
専門家に相談しましょう

インボイス制度については各方面から否定的な声がいまだ途切れないことに加え、今回の記事で解説したように制度改定も頻繁に行われる可能性が高いといえます。

同様に、電子帳簿保存法も猶予期間が延長されたとはいうものの、引き続き今後の動向から目が離せません。課税事業者になるかどうか、適格請求書発行事業者になるかどうか、そのときにはどの課税方式とするのか。事業者にとっては判断が難しいケースも多くあります。

今後の事業展開を考え、スムーズな消費税申告・納税を行うためには税理士をはじめとする専門家のアドバイスがあった方がよいでしょう。

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