生命保険信託とは?
活用するメリット・デメリット・事例を解説

生命保険は、被保険者が死亡した場合、家族や親族を受取人にできるため、遺族の生活を支えるための基盤として広く認知されており、その加入率は男性では77.6%、女性では81.5%となっています。(2022年生命保険文化センター調べ

一方で、生命保険はその制度上、受取人が法律上の親族のみに限定されることや、契約者は保険金の使途まで指定ができないなど、生命保険金を遺す人の思いが必ずしも実現するとは限らず、不都合な点があるのも事実です。

こうした不都合を解消し、多様化するライフスタイルに対応するために最近注目されているのが生命保険信託です。この記事では生命保険信託の活用を検討するメリットがある人やその方法、注意点などについて分りやすく解説していきます。

生命保険信託の仕組みと活用のメリット

生命保険を信託するってどういうこと?

「信託」は文字通り、「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう」制度です。

財産を信託された人を受託者、財産を信託した人を委託者と呼び、受託者は委託者の決めた目的の実現に向けて信託された財産を管理・運用し、恩恵を受ける人である受益者に渡します。このパターンが信託の基本的な仕組みになります。

この信託される財産が生命保険金になるのが生命保険信託です。つまり、生命保険信託では委託者が生命保険契約者・被保険者になり、その意思を受託者である銀行等が適切に管理し、被保険者が死亡した時にはあらかじめ定めてある方法で保険金を受益者である遺族等に届けるための仕組みといえます。

生命保険金を受け取り、受益者に渡す役割を担う受託者は銀行などの金融機関となります。

受託者 銀行などの金融機関
委託者 生命保険契約者・被保険者
受益者 遺族等

生命保険信託ができること

生命保険信託を活用すれば委託者が誰のためにどのように保険金を渡すのかをあらかじめ定めることができます。

実務的には、信託銀行等(受託者)を保険金受取人とした生命保険を契約し、万一の際には死亡保険金を信託銀行等が受け取り、そのお金をあらかじめ指定した人(受益者)に事前に決めた支払期間・支払方法で支払う流れになります。

この受益者は2段階に分けて設定することも可能です。そのため、一段階目の受益者が死亡した後にその財産を相続する二段階目の受益者が将来直面する二次相続時の納税資金にも活用することができます。

生命保険契約だけでは渡す相手(受取人)と受取り割合のみが指定できるに留まるのに対し、生命保険信託はあらかじめ渡す方法や、その後の渡し方もあらかじめ決めておくことが出来るのです。

また、一般に保険金受取人になるのが難しいとされる法定相続人以外の人や団体等を受益者として保険金を渡すことも可能になります。

生命保険信託の活用を検討するメリットがある人はどんな人

生命保険信託の活用を検討するメリットがあるのはどのような人になのでしょうか。

第一に、相続人の中に「心配な人」がいる人です。「心配な人」とは生命保険金を受け取ったとしても、その財産管理能力に不安がある人を指します。この代表的な例が未成年者です。

未成年の子供であっても生命保険金を受取ることは可能ですが、一度に多額の保険金を手にすることで思いがけず浪費してしまったり、犯罪に巻き込まれるといったような危険性があるほか、親権者となった人物がちゃんと子供のために適切に保険金を使ってくれるかという不安があります。

これが、障害を持っている子供の場合はその不安はより大きくなることが容易に想像できます。

死亡保険金を受け取る人が、未成年者の子供や障がい者、認知症、要介護状態にあるような場合は、生命保険信託を検討する余地は大きいといえるでしょう。第二に、法定相続人以外の縁故者や特定の団体等に保険金を渡したい希望がある人です。

通常の生命保険契約のみでは事実婚のパートナーや、特定の団体等に自分の生命保険金を渡したいという希望は叶わない場合が多くなります。また、個人が契約者になる場合、保険金の受取人を法人等に指定することは原則できません。

生命保険信託を活用すれば、委託者があらかじめ定めた人・団体を受益者として設定することができるため、法定相続人以外の人や慈善団体等を指定して生命保険金を渡すことが可能になります。

生命保険信託の具体的な活用事例3選

その1心配な人(子・孫・親)のために自分の死亡保険金を適切に管理しながら渡したい

「心配な人」とは生命保険金を受け取ったとしても、その財産管理能力に不安がある人を指します。

その代表例としては未成年が挙げられますが、仮に成人していたとしても心身に障害をもっており、将来の就業等に不安がある場合は仮に成人していたとしても「心配な人」であることには変わりありません。

生活面・経済面で自分だけが頼りであるような「心配な人」がいるシングルマザー(ファーザー)は、あらかじめ定時・定額で生命保険金の分割受け渡し内容を決めることができる生命保険信託契約を検討する余地は大きいと言えます。

心配な人(子・孫・親)のための生命保険信託

委託者 受託者 受益者
シングルマザー(ファーザー)など 信託銀行等 心配な子(孫・親)

その2生命保険金を残したい相手がいない 生命保険金は社会貢献として慈善団体・NPO法人等に渡したい

内閣府が発表した生涯未婚率に関するデータによると、2020年の国勢調査によると50歳まで一度も結婚をしたことがない人の割合は2男性28.3%、女性17.8%にのぼり、過去最高を記録しています。この割合は1960年以降、上昇傾向にあり、1990年以降は急増しています。

これらの人たちが生涯にわたって独身、いわゆる「おひとり様」になるとは必ずしも言い切れませんが、自身の財産や、生命保険金の受取人となり得る人が将来いなくなる可能性が大きいことには間違いありません。

仮に、貯蓄目的の生命保険に加入している場合であっても、いざ死亡した時には生命保険金が支払われることに変わりはなく、生命保険金を渡す相手が見つからなかった場合、その保険金は最終的に国庫に入ってしまいます。

法定相続人の範囲に保険金受取人に相応しい人がいなかったり、いたとしても疎遠であるなどの場合、自身が応援している慈善団体などを受益者として生命保険信託の活用を検討する余地は大きいと言えます。

また、団体等に生命保険金を渡す際にはその使途についても一定程度指定することも可能です。

生命保険金を残したい相手がいない・社会貢献のための生命保険信託

委託者 受託者 受益者
おひとり様 信託銀行等 NPO法人・慈善団体など

その3事実婚のパートナーに生命保険金を残したい

国内の生命保険会社では、指定できる保険金受取人の範囲に制限があり、個人契約の場合、死亡保険金の受取人に指定できるのは、一般的には被保険者の配偶者や二親等内の血族(子・孫・父母・祖父母・兄弟姉妹)までとしている生命保険会社が多数です。

つまり、法律婚によらない事実婚のパートナーを生命保険金の受取人に指定することは難しく、仮に認められる場合であっても、クリアしなければならない条件は多いためハードルが高いと言わざるを得ません。

一方で、主たる生計を片方に依存しているような場合、パートナーの死亡は大きなダメージがあるのはたとえ事実婚であっても変わりはありません。生命保険信託を活用すればたとえ事実婚のパートナーであっても生命保険信託の受益者として生命保険金を渡すことが可能になります。

事実婚パートナーのための生命保険信託

委託者 受託者 受益者
事実婚のパートナーがいる人 信託銀行等 事実婚のパートナー

生命保険信託にかかるコストと手続き
生命保険信託活用に際して押さえておきたいポイント

通常の生命保険料プラス信託契約にかかる費用等が発生する

生命保険信託は、信託銀行等と信託契約を結んだうえで、保険金受取人を信託銀行等とする生命保険の加入(または既契約の受取人変更)をします。

そのため、生命保険信託を活用するには生命保険会社に支払う生命保険料に加え、信託銀行等に対して支払う手数料が必要になります。信託銀行等に支払う手数料には信託契約の締結時や保険金受取時に加え、信託中の全期間にわたって支払う管理手数料などがあり、信託期間や信託金額によって異なります。

全ての生命保険会社が生命保険信託に対応しているわけではない

現在生命保険信託の取り扱いを認めている生命保険会社はまだ限定的です。たとえ大手の生命保険会社であっても取り扱いがあるとは限らないため、注意が必要です。

また、取り扱う生命保険会社であっても特定の金融機関を信託機関として指定する必要があるなど、保険会社選びは慎重に行う必要があります。

生命保険信託があれば相続対策はパーフェクト?
専門家のアドバイスは必要?

生命保険信託は受益者の元へスムーズ且つ安全に保険金が渡るように、受取、管理、交付を依頼できる制度で、確かに便利な制度と言えます。

しかし、生命保険信託があれば相続対策は万全と言うわけではありません。生命保険信託では第一受益者と第二受益者とでは相続税の計算方法に異なる点がある上に、保険金以外の財産については別に管理や継承の仕方を考える必要があるからです。

生命保険信託を活用した相続対策を検討する際は、税理士等の専門家のアドバイスを得ながら総合的に検討した方がよいでしょう。

廣瀬総合経営会計事務所は杉並・中野相続サポートセンターの運営母体として、経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、生命保険信託の活用をはじめとする遺言・相続に関する相談をお受けしています。

また、各分野に精通した外部専門家とも連携し、相続に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから相続税の申告まで一括サポート可能です。「これから相続対策の検討をはじめる」、「既に対策を検討したが改めて見直したい」といったような場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

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