インボイス制度スタートで
10月から笑う事業者・泣く事業者
2023年10月から始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)ですが、いまだ見直し論議や反対の声が上がるなど、今後もその成行きが注目されているところです。
一方で、一方的な消費税相当額をカットすることは独占禁止法違反にあたる、との公正取引委員会のコメントが出されるなど、免税事業者がこのあと取るべき道筋も徐々に見えつつあります。
この記事ではインボイス制度の現状と免税事業者がとるべき選択肢について分りやすく解説していきます。
インボイス登録事業者は300万件を突破
事業主の属性による登録状況は?
想定通りに進む課税事業者法人の登録と伸び悩む免税事業者と個人事業主のインボイス登録
東京商工リサーチの調査によると、2023年5月末時点でインボイス登録を行った事業者数は315万9,235件に達しました。
関連サイト東京商工リサーチ「インボイス登録300万件突破、法人が牽引も個人事業主は停滞~登録ペースは鈍化、ためらう小規模事業者が依然多く~」
このうち、法人は約200万件と想定通りの水準であるのに対し、個人事業主は116万件程度となっています。
中でもインボイス制度の最大のターゲットでもある免税事業者のインボイス申請は、2023年3月末で約50万件と進んでおらず、小規模事業者がインボイス制度に反対、登録に躊躇している姿が見て取れる結果となっています。
10月以降泣くことになる事業者は誰?人手不足業種と人手余剰業種で異なる対応
一方で発注者側の姿勢も徐々に明らかになってきています。
多くの免税事業者の下請けを抱える建設業界では、早々に免税事業者のままであっても消費税相当額を支払うことを継続する流れが大勢を占めることとなりました。
これは、建設現場等で続く人手不足が背景にあるとみられ、インボイス登録を強要することで、人手の確保が難しくなることを避けようとする思いが強く表れた結果と言えます。
同様に昨今隆盛を極めるデリバリー業界でも、最大手のウーバーイーツが当面の間免税事業者のままの配達員に対しても、消費税相当額の支払いを行うとし、同業他社もこれに追随することとなりました。
一方で、人手が余剰とされるエンタメ業界や大手事業者からの仕事を受注しているフリーランスなどでは、発注者側からの無言の圧力もあり、泣く泣くインボイス登録を行うケースも増えているようです。
10月以降免税事業者のままでいた場合考えられる3つのパターン
ここで押さえておきたいのは10月以降インボイス制度がスタートしたあとも免税事業者であり続けるフリーランスへの影響です。こうしたフリーランスの10月以降の姿は3つのパターンに分類されます。
2023年10月以降インボイス未登録の免税事業者の3つのパターン
1.消費税額を満額貰える | 売り上げが変わらず、消費税の納税も発生しない。 |
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2.消費税を8割程度もらえる | 発注者側が経過措置を利用。消費税の納税は発生しないが、これまでの8割相当額の消費税となるため、売り上げは約2%下がる |
3.消費税を全く貰えない | 消費税の納税は発生しないが、これまでもらえていた消費税は全額カットになり、売り上げは実質10%下がる |
2のパターンで留まり、2%程度の売り上げ減のレベルならば許容できるとしても、3のパターンのように10%全額カットとなると死活問題になると言わざるを得ません。果たしてこの消費税全額カットは許されてしまうのでしょうか?
公正取引委員会がインボイス制度に関して出した
見解とその背景
免税事業者からの仕入でも仕入税額控除8割OK。発注者側に設けられた経過措置とは?
2023年10月から向こう3年間は発注者側にも激変緩和措置が設けられ、インボイス未登録の免税事業者に対して支払った消費税のうち、8割相当額については仕入税額控除が認めることとされました。(2026年10月1日以降は50%にダウン)
この経過措置は届け出がなくても利用でき、課税事業者である発注者は適格請求書発行事業者以外からの請求書であっても8割相当の仕入税額控除を受けることができるため、発注者の消費税負担は軽減されることになりました。
発注事業者側の一方的な消費税分カットはご法度!公正取引委員会が出した見解とは?
発注者側にはこうした経過措置があるにもかかわらず、消費税額を全額カットすることは独占禁止法の優越的地位の濫用にあたるとの見解が5月に公正取引委員会から示されました。
関連サイト公正取引委員会「インボイス制度の実施に関連した注意事例について」
もちろん、正当な理由がある減額は認められるものの、経過措置があるのに一方的にまるまる10%相当額の消費税カットするのは違法であるとの見解が示されたのです。
この結果、免税事業者のままであっても「3.消費税を全くもらえない」免税事業者はほぼなくなった、といってよく、2023年10月以降の免税事業者は「1.消費税額を満額貰える」または「2.消費税を8割程度もらえる」のいずれかのパターンになると考えられます。
2023年10月以降インボイス未登録の免税事業者の3つのパターン
1.消費税額を満額貰える | 売り上げが変わらず、消費税の納税も発生しない。 |
---|---|
2.消費税を8割程度もらえる | 発注者側が経過措置を利用。消費税の納税は発生しないが、これまでの8割相当額の消費税となるため、売り上げは約2%下がる |
2023年10月以降も免税事業者のままでも消費税を全くもらえない免税事業者はほぼ無くなりました。 |
公正取引委員会の見解の根拠法は独占禁止法
今回公正取引委員会が出した見解の根拠法は独占禁止法です。
インボイス制度のスタートに伴い免税事業者への消費税支払を全額カットするような行為は、独占禁止法の中でうたわれる「優越的地位の濫用」にあたる可能性があることを示したものと言えます。
「優越的地位の濫用」は取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が取引の相手方に対し、その地位を利用して不当に不利益を与える行為と定義されており、今回の場合、経過措置があるにもかかわらず発注者側が一方的に消費税を全額カットすることが独占禁止法に抵触する、との見解を示されたのです。
仮に優越的地位の濫用とみなされた場合は、公正取引委員会から事業者に対し是正勧告が行われ、それでも従わない場合その事業者・代表者は2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます。
こうしたペナルティはペナルティ自体の重さだけでなく、事業者のイメージが大きく損なわれてしまうことこそが大きなダメージと言えます。
今回の公正取引委員会の見解を踏まえて
免税事業者が取るべき道は?
当面免税事業者のままであり続ける。しかし3年以内に方向性を決める
免税事業者が課税事業者になり、インボイス登録を行うとたちまち消費税納税が始まります。そして、その事務負担は決して軽いものではありません。
しかし、今回の公正取引委員会の見解をふまえると、全く消費税がもらえなくなるパターンは想定しにくく、現在免税事業者である場合は慌ててインボイス登録を行わなくても、売り上げに急激な影響が生まれる可能性は低くなったと言えます。
そのため、当面免税事業者のままであり続けることは有力な選択肢になったと言えます。
3年後には再考が必要?押さえておきたい経過措置と特例の適用期間
一方で、発注者側の経過措置は2026年10月1日には仕入れ税額控除率が80%→50%に下がり、2029年10月1日以降は経過措置がなくなることが明らかになっています。
こうした背景を踏まえると、当面免税事業者であり続けつつも、インボイス制度の趨勢を見極め、3年後を見通した計画・シミュレーションを行うのが良いと考えられます。
インボイス登録はしっかりとしたシミュレーションを!
選択を迷ったときはまず専門家に相談を
インボイス登録の有利・不利を検討するにはしっかりとしたシミュレーションが欠かせません。
また、消費税の申告は確定申告と併せて行うのが一般的ですが、期限も決まっており、ただでさえ面倒な手続きがより複雑になり、これまでの確定申告に比べると負担が大きくなることは間違いありません。今後インボイス登録を検討する際には専門家のアドバイスを仰ぎつつすすめていくのがよいでしょう。
廣瀬総合経営会計事務所には経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、税金に関する様々なご相談を承っています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから記帳・申告まで一括サポート可能です。
インボイス登録に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。当事務所の対応エリアは以下の通りです。
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