相続事例から学ぶ 配偶者居住権の上手な活用方法と注意点

相続事例から学ぶ 配偶者居住権の上手な活用方法と注意点

<今回のポイント>

  1. 2020年民法改正で創設 第三者にも対抗できる配偶者居住権が生まれた背景
  2. 配偶者居住権 活用事例その①遺産分割したら手元に現金がゼロ!?子供(または子供の配偶者等)と仲が良くないケース
    (1)長男との関係はまずまず でも長男の嫁とはウマがあわない
    (2)家を相続すると現預金の相続はゼロに?
    (3)家と現預金どちらも大事 配偶者居住権の活用でスッキリ遺産分割
  3. 配偶者居住権 活用事例その② 長男夫婦が相続放棄を拒否!相続財産が不動産など特定の資産に偏っているケース 配偶者居住権を活用すべき?
    (1)自宅を売却して同居しよう!? 葬儀が終わったら長男の嫁から驚きの提案!
    (2)長男に渡す3000万円なんて手元にない!気を使いながら長男夫婦と同居するの?
    (3)配偶者居住権の活用で、自宅はそのまま、長男夫婦との同居も回避 現預金も1/2相続できた!
  4. 配偶者居住権 活用事例③ 相続トラブル頻発! 相続人に前妻の子供が含まれるケース 配偶者居住権の活用余地は?
    (1)遺産分割協議の相手方はよく知らない人いったいどうすればいい?
    (2)難航する遺産分割協議 前妻との間の子供との協議はタイヘン!
    (3)配偶者居住権を使って所有権と居住権を分離 スッキリ遺産分割できた!
  5. 登記による第三者への対抗、税負担増リスクへの備え けっこう多い配偶者居住権を設定するときの注意点
    (1)配偶者居住権の登記は必要?
    (2)配偶者居住権は譲渡できる? 賃貸に出せる?
    (3)配偶者居住権を設定した自宅の維持・修復等はだれの責任?費用負担は?
    (4)配偶者居住権の期間設定・生前放棄は課税関係に注意!税負担が増える可能性も!
  6. まとめ 配偶者居住権の設定を検討する時には専門家のアドバイスを仰ぎましょう

2022年厚生労働省から発表された平均寿命は、男性81.47 年、女性87.57年と前年と比較して男は 0.09年、女は0.14 年下回りました。

平均寿命の延びが止まったという見方もできますが、社会の高齢化は進んでおり、夫婦の一方特に夫が亡くなった後,残された妻が長期間にわたり生活を継続することも多くなりました。

夫が死亡した後も、配偶者が住み慣れた住居で生活を続けたいという気持ちと、老後の生活資金として預貯金等の資産も確保したいと気持ちの両方があるのではないでしょうか。
しかし、いざ相続が発生し、遺産分割協議に及んだ場合には、残された妻が老後の生活資金を確保するために自宅の相続をあきらめざるを得ないケースもあります。

配偶者居住権を活用すると、夫を亡くした妻の住居を確保しつつ、バランスのよい遺産分割を実現できるほか、相続にまつわるトラブルを回避することも実現できる可能性があります。
一方で、配偶者居住権の使い方を誤ると、思ったような効果が得られないどころか、税負担の増加に繋がってしまうこともあり得ます。
本記事では配偶者居住権が生まれた背景と、実際に肺愚者居住権を活用した事例や注意点について解説していきます。

1.2020年民法改正で創設 第三者にも対抗できる配偶者居住権が生まれた背景

「配偶者居住権とは?デメリットや設定したほうが良いケースについて解説」でもご紹介した通り、2020年民法改正を経て、遺言や遺産分割の選択肢として配偶者が無償で住み慣れた住居に居住する権利である配偶者居住権を取得することができるようになりました。

配偶者居住権とは,夫婦の一方が亡くなった場合に,残された配偶者が, 亡くなった人が所有していた建物に,亡くなるまで又は一定の期間,無償で 居住することができる権利です。 配偶者居住権は,夫婦の一方が亡くなった場合に,残された配偶者の居住権を保護するため,令和2年 4月1日以降に発生した相続から新たに認められた権利です。

法改正前は、配偶者が死亡した後、配偶者が自宅を相続しなかった場合で引き続き自宅に住み続けたい場合は、
 ①自宅を相続した人に対し、賃料を支払い、有償で賃借人として居住する(賃貸借
 ②相続人である所有者に賃料は支払わず無償で居住する(使用貸借
このいずれかになることが一般的でした。
ただ、賃貸借の場合、毎月の賃料が発生することになり、無償であっても使用貸借の場合は常に退去リスクと背中合わせとなります。
配偶者をなくした高齢者にとっては、どちらの選択肢を選んだとしても、老後の住居の確保に向け不安感が残ってしまいました。

こうした社会課題を解決するために2020年民法改正によって生まれたのが配偶者居住権(民法1028条1項)です。
この配偶者居住権は登記を行うことにより居住権を第三者に対抗できる権利です。
従来、家族信託や民事信託を活用しなければ、実現できなかった居住権の確保が、法改正によりよりスムーズに実現できるようになったのです。

2.配偶者居住権 活用事例その①遺産分割したら手元に現金がゼロ!?子供(または子供の配偶者等)と仲が良くないケース

  • 相続財産:8000万円(自宅4000万円、現預金4000万円)
  • 相続人:配偶者(英子さん)と長男(一郎さん)の合計2名
  • 遺言:なし
  • 妻の希望:法定相続通りの遺産分割としたいが、自分は住み慣れたこの家を相続し、住み続けたい。夫の遺産に含まれる現預金を当面の生活資金としたい。

<活用事例その1:資産構成・関係図>

活用事例その1:資産構成・関係図

(1)長男との関係はまずまず でも長男の嫁とはウマがあわない

相続財産は自宅が4000万円、現預金等が4000万円の合計8000万円でした。
法定相続人である二人は実の親子ですが、長男は結婚しており、別に世帯を構えています。
英子さんと長男・一郎さんとの関係性まずまずでしたが、長男の嫁・ありささんとは昔からウマが合わず、実家に帰省するときも長男のみといったこともありました。

(2)家を相続すると現預金の相続はゼロに!?

夫が死亡し、葬式等も終えた後、妻・英子さんは、遺産分割に関する話を切り出しました。
長男・一郎さんはフムフムとうなずいていましたが、長男の嫁・ありささんが、
「わかりました。お義母さんが自宅を相続することに同意します。現預金4000万円を私たち夫婦が相続することにしましょう。」
「私(英子さん)の明日からの生活資金はどうするの??」
「お義母さんもまだ働けそうだし、生活費くらいは自分で何とかしたらいいのではないですか。」
「!!!」

自宅に住み続け、生活資金も少しは手元に残ることを期待していた英子さんは大きく落ち込むことになりました。

(3)家と現預金どちらも大事 配偶者居住権の活用でスッキリ遺産分割

長男の嫁・ありささんの提案は、民法で定められた法定相続割合に則った提案です。
英子さんは長年夫と住みなれた家に住み続けたい気持ちが強いのですが、このまま法定相続分通りの遺産分割を行い、英子さんが自宅を相続した場合、現預金4000万円を長男に渡すことになってしまいます。

自宅が残ったというものの、現預金が全て長男家族の元に行ってしまうということになると、たちまち明日からの生活に困ることになってしまいます。お母さんからすると大きな問題です。
今回のケース場合は配偶者居住権を活用することで、住み慣れた住居に住み続ける権利を確保しつつ、当面の生活資金を確保することが可能になります。

3.配偶者居住権 活用事例その② 長男夫婦が相続放棄を拒否!相続財産が不動産など特定の資産に偏っているケース 配偶者居住権を活用すべき?

前段のケースは相続財産が自宅不動産と現預金が1/2ずつと、資産構成のバランスが取れているケースでした。
これが相続財産の種類に偏りがある、特に現預金が極端に少ないケースだとどうなるでしょう。

  • 相続財産:8000万円(自宅7000万円、現預金1000万円)
  • 相続人:配偶者(英子さん)と長男(一郎さん)の合計2名
  • 遺言:なし。
  • 妻の希望:法定相続通りの遺産分割としたいが、自分は住み慣れたこの家を相続し、一人で気ままに暮らしたい。現預金も一定程度相続したい。

<活用事例その2:資産構成・関係図>

活用事例その2:資産構成・関係図

(1)自宅を売却して同居しよう!? 葬儀が終わったら長男の嫁から驚きの提案!

「自宅の評価額が思ったよりも高かったのよ。私(英子さん)はこれまで通り、この家に住んでいたいの。現預金はあまりないしね。申し訳ないけど相続放棄をしてほしいの。」
「お義母さん、相続放棄には同意できません。相続財産のうち自宅不動産は7000万円の評価ですよね。いっそのこと自宅を売却して私たち夫婦と同居しませんか?」

(2)長男に渡す3000万円なんて手元にない!気を使いながら長男夫婦と同居するの?

夫の死後は住み慣れた自宅で、気ままな生活を夢見ていた英子さんは、長男夫婦と同居し、気を使いながら生活することになる、と思うと気が滅入ってしまいました。

英子さんが自宅を相続したうえで、法定相続通りに遺産分割しようとするならば、英子さんは3000万円分の現預金を長男に渡す必要に迫られます。
現実的に考えて、未亡人である英子さんが3,000万円を調達することは難しいため、法定相続割合通りの遺産分割となった場合、長男に渡す現金を確保するためには自宅を売却せざるを得なくなります。
英子さんは自宅を手放して、長男夫婦と気を使いながら同居するしかないのでしょうか。

(3)配偶者居住権の活用で、自宅はそのまま、長男夫婦との同居も回避 現預金も1/2相続できた!

このケースも、配偶者居住権の活用が有効です。
相続財産評価額が高い自宅の所有権は長男に相続させ、英子さん自身は居住権を相続しました。
現預金も1/2ずつ相続することができた上に、気を遣う長男夫婦との同居生活は回避することができ、住み慣れた自宅でリラックスしたきままな生活を送ることができるようになりました。

4.配偶者居住権 活用事例③ 相続トラブル頻発! 相続人に前妻の子供が含まれるケース 配偶者居住権の活用余地は?

被相続人が過去に結婚していた時に生まれた子(前妻の子)が相続人に含まれるケースで見てみましょう。
こうしたケースは、実際の相続においてもトラブルに発展するケースが多いといわれています。

  • 家族関係:夫とはなこさんとの間に子供はいない。亡くなった夫と前妻との間に子供が一人いるが、はなこさんとの間で養子縁組は行っていない。
  • 相続財産:8000万円(自宅4000万円、現預金4000万円)
  • 遺言:なし。
  • 配偶者の希望:法定相続割合通りの遺産分割で構わないが、自分がこの家を相続し、住み続けたい。

<活用事例その3:関係図>

活用事例その3:関係図

(1)遺産分割協議の相手方はよく知らない人 いったいどうすればいい?

今回の法定相続人は後妻であるはなこさんに加え、前妻の子供であるジョージさんも法定相続人になります。
はなこさんは夫に前妻との間に生まれた子供がいて、名前がジョージということは知っていました。

英子さんとジョージさんは養子縁組をしていないため、次にはなこさんが死亡した際は、今回の相続ではなこさんが相続した財産は、はなこさんの兄弟姉妹が相続することになり、前妻の子であるジョージさんには渡りません。
前妻の子ジョージさんからしてみれば今回の相続で、自分が相続できる分はできるだけ多く相続したいという気持ちになっているようです。

遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないことは分っているものの、ジョージさんとは日頃没交渉であったこともあり、連絡を取ることも億劫な状態です。

(2)難航する遺産分割協議 前妻との間の子供との協議はタイヘン

夫と暮らした自宅にこれからも住み続けたい気持ちの強いはなこさんですが、ジョージさんとの協議はうまく進みませんでした。

「はなこさん、あなたが自宅に住み続けたいという気持ちは分かりました。その上で法定相続割合通りに遺産分割を行うとしたら、私は現預金(4000万円)をすべて相続できる権利があります。」
「ジョージさん、この現預金(4000万円)わたしの老後生活資金として夫と蓄えてきたものです。それを全額渡すというのはちょっと困ります。」
「それではこの自宅を売却した資金を1/2ずつ相続したらいいのではないでしょうか。」
協議は平行線をたどり、はなこさんは前妻との子であるジョージさんとの遺産分割協議に疲れ切ってしまいました。

(3)配偶者居住権を使って所有権と居住権を分離 スッキリ遺産分割できた!

今回のケースでは、配偶者居住権を活用し、所有権と居住権を分離したことで遺産分割協議の着地点を見出すことができました。
自宅の所有権は前妻の子ジョージに、自宅に居住する権利は後妻であるはなこさんが相続することで、遺産分割協議が整いました。
はなこさんは早速配偶者居住権の登記を行い、これまで通り自宅に住み続け、当面の生活を支える現預金も一定程度手元に残すことができました。

<活用事例その3:資産構成・配偶者居住権設定後の相続内容>

活用事例その3:資産構成・配偶者居住権設定後の相続内容

5.登記による第三者への対抗、税負担増リスクへの備え 配偶者居住権を設定するときの注意点

(1)配偶者居住権の登記は必要?

配偶者居住権を第三者に対抗するためには登記が必要です。
配偶者が配偶者居住権の登記をしておけば、仮に自宅を相続した所有者が自宅を売却したとしても新たな所有者に対し、対抗することができます。

(2)配偶者居住権は譲渡できる?賃貸に出せる?

配偶者居住権は相続財産として評価されますが、あくまでも残された配偶者が居住し続ける権利にとどまります。
また、配偶者居住権は譲渡することはできないほか、一部または全部を賃貸に供したりすることもできません。
さらに、配偶者の死亡により配偶者居住権は消滅します。つまり、配偶者居住権は消一身専属の権利と言えます。

(3)配偶者居住権を設定した自宅の維持・修復等はだれの責任?費用負担は?

配偶者居住権を設定した自宅の維持費・修復等に関する条件を協議時に約しておくことも重要です。
建物の損耗、中でも居住中の修理費等の負担などについて、所有者が居住者に対して負担を求めるなどのトラブルなどが想定されます。
特に、遺産分割協議の結果、関係性の薄い相続人に自宅の所有権が帰属するような場合、自宅の維持・管理にかかる費用の負担割合について公正証書を用いるなどしてあらかじめ決めた上で配偶者居住権の設定を行わないと、後々のトラブルをつながる可能性が高まります。

(4)配偶者居住権の期間設定・生前放棄は慎重に!税負担が増える可能性も!

配偶者居住権は生前放棄することも可能です。

配偶者居住権については、権利消滅による価値移転に関しては課税されない、とされています。
これは居住権を取得した配偶者が死亡した際の二次相続を想定したもので、生前に放棄した場合にはあてはまりません

配偶者居住権を一旦行使した上で、配偶者が生前に配偶者居住権を放棄するようなケースとしては、
 要介護状態になったので、自宅で一人で住み続けるのが厳しくなった。
 要介護状態になったとても長男夫婦の世話になるのは気が進まない
といったような理由で、介護施設等への入居を検討するような場合が当てはまると思います。

この場合、2次相続による権利消滅の時とは異なり、配偶者居住権として評価された金額が他の相続人に贈与されたものとみなされ、権利の増加部分に対し贈与税が課される可能性があります。
結果として税負担の合計額が増加する可能性がありますので、配偶者居住権の期間設定は慎重に検討することが必要です。

6.まとめ 配偶者居住権の設定を検討する時には専門家のアドバイスを仰ぎましょう

法改正により、配偶者居住権が創設されたことで、残された配偶者が住居を確保することが従来よりもスムーズにできるようになりました。

一方で、配偶者居住権を第三者に対抗するためには登記が必要であったり、遺産分割協議においてはその相続税評価額を計算する必要があるなど、個人が一人で行うには手続きがやや複雑であることも事実です。
配偶者居住権の設定を含めた相続対策を検討する場合は、相続全般に通じた専門家のアドバイスを得た上で行った方が安全でしょう。

どのような事前準備を行えばいいのか、自身で判断するのは難しいと感じた場合など、必要に応じて相続に詳しい税理士等の専門家に相談することもおすすめです。

杉並・中野相続サポートセンターでも、配偶者居住権の活用を含めた様々な相続対策に関する相談をお受けしています。

当サポートセンターであれば、相続対策のご提案から生前贈与の実行から、各分野に精通した専門家と連携し、相続に際して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイス、相続税申告まで一括サポート可能です。

相続や生前贈与に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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