どうする!?この売掛金~滞留債権への対応編~
売掛金の中に、長期にわたって未回収のままになっているものはないでしょうか。このような滞留債権は、消滅時効に注意しつつ、法的手段を含めた回収方法を検討し、貸倒れにならないように対応することが必要です。
法的手段をとる前にまずは取引先との交渉が前提
回収ができないからといって、すぐに法的手段を行使することはせず、まずは取引先へ訪問、電話をして、交渉を重ねたうえで、次のような手続を検討しましょう。
(1)取引先に買掛金がある場合は相殺
取引先に、売掛金と買掛金がある場合は、滞留している売掛金と買掛金とを相殺して支払いに充当するなどの対応が考えられます。これにより、法的手段に至らずに済みます。
(2)相殺後も再度取引先と交渉
買掛金との相殺でも完済できなければ、残金の支払いについて協議する必要があります。
残金を一括で支払うのか、分割で支払うのかなど、取引先の状況を確認し、確実に支払うとの確約を得ることが大切です。このときの協議事項は文書にしておきましょう。
取引先と協議し、回収計画が確定したら改めて残金の請求書を発行しましょう。
法的手段は回収の最終手段
売掛金には消滅時効(5年間)があるため、放置しておくと債権が消滅してしまいます。
債務者に支払いを催告したり、債務を承認させる等の方法によって、時効期間の完成を遅らせたり、振り出しに戻す必要があります。
これを時効の完成猶予・更新といいます。
再三の訪問や、電話を繰り返しても、取引先が支払いに応じてくれない場合、回収の最終手段として法的手段をとることも必要です。
(1)まずは内容証明郵便から
法的手段の前に、催告害を配達証明付きの内容証明郵便で送付しましょう。
内容証明郵便は取引先への強い意思表示になり、送付することで事態が進展する可能性があります。
内容として、「誰が誰に対して、どのような契約に基づくどのような債権を、いくら請求しているか」等のほか、「期限内に請求に応じない場合の措置」についても記載します。
内容証明郵便
いつ、どのような内容の手紙を出したのかを日本郵政株式会社が証明するものです。発送は書留で、相手に配達されたことを証明する配達証明付きにします。
同じ文面のものを3通作成し、1通は郵便局、1通は取引先へ送付、残りは差出人が保管します。
(2)法的手段は主に2つ
主な方法として「支払督促」と「少額訴訟」があり、通常の訴訟に比べて手続が簡易で、訴訟費用も安く抑えられます。
支払督促
申立人側の申立てのみに基づいて、簡易裁判所の書記官が相手方に支払いを命じる略式の手続です。
〈ポイント〉
- ・書類審査のみで行われる簡易な手続
- ・証拠の提出や裁判所に出向く必要がない
- ・通常の手数料の半額
少額訴訟
60万円以下の請求に限って利用できる制度です。簡易裁判所での簡単で迅速な訴訟手続です。
〈ポイント〉
- ・原則として即日で判決
相手が支払督促に対して異議申立て、少額訴訟に対して同意しない場合には、通常の訴訟に移行してしまうことになります。
これらのことも踏まえて、法的手段を検討しましょう。
どうしても回収できない場合は貸倒損失の検討を行う
売掛金が回収できない状態が長期化する場合は、勘定科目を売掛金から長期滞留債権へ振り替え、取引先において以下の事実が発生した場合は、貸倒損失等として会計処理することを検討します。
①金銭債権が切り捨てられた場合
会社更生法、民事再生法の適用等の法的手続により金銭債権が消滅した場合は、税務上、損金算入が認められます(法律上の貸倒れ)。
②金銭債権全額が回収不能となった場合
相手方の支払不能等によって、金銭債権の全額を回収できないことが明らかになった場合は、税務上、損金経理を行うことで損金算入が認められます(事実上の貸倒れ)。
相手からの担保物があるときはそれを処分した後になります。
③一定期間取引停止後弁済がない場合等
継続的な取引による売掛債権で取引停止後1年以上経過した場合(担保物があるものを除く)、または売掛債権より回収費用のほうが上回る場合です。
この場合、税務上、備忘価額1円を除き損金経理を行うことで損金算入が認められます(形式上の貸倒れ)。