押さえておきたい解雇規制ルールと
解雇の金銭解決を巡る論議を解説
大阪に本社を置く老舗の電機メーカーが突如破産手続きを開始し、約2000名の従業員が解雇されたというニュースが流れました。社員のほとんどが朝出社して初めて会社が破産申請したことや自身の解雇を知った、という報道に多くの人が驚いたことと思います。
日本における解雇の規制は、労働者保護の観点から非常に厳しく行われています。一方で、最近、日本で注目されているのが「解雇の金銭解決」に関する議論です。
この記事では経営者として必ず押さえておきたい解雇をめぐるルールと今後の議論の方向性について税理士事務所が分かりやすく解説していきます。
日本の解雇ルールは厳しく規制されている
労働契約法第16条における解雇ルールと就業規則による明示
日本では、労働者の解雇は「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当」と認められる場合に限り認められます。これにより、事業主が労働者を簡単に解雇できない仕組みが確立されています。
中でも、解雇についての基本的な規制を定めた「労働契約法第16条」では、客観的かつ合理的な理由がない解雇や、社会通念上相当でない解雇は無効とされています。そのため、企業が行う解雇の自由度はアメリカなどと比べ極めて厳しく制限されているといえます。
また、解雇事由(解雇できる具体的な理由)は、企業が策定する「就業規則」に明記しておく必要があります。これがない場合、解雇は難しいとされます。
関連サイト厚生労働省「就業規則を作成しましょう」
解雇予告手続きと解雇予告手当
解雇を行う場合、重大な懲戒事由などの特定のケースを除き、企業は労働者に30日前の予告をしなければなりません。もし即時解雇をする場合は、30日分の平均賃金を支払う義務が生じます(解雇予告手当)。
関連サイト厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
整理解雇の4要件とは?
経営不振などの理由で人員削減を目的とする解雇を「整理解雇」といいます。この場合、さらに厳格な要件(整理解雇の4要件)が課されます。具体的には以下の条件を満たす必要があります。
整理解雇の4要件は、解雇がやむを得ない措置であることを証明するための基準で、労働者の保護を図る重要なポイントです。解雇に伴うトラブルに発展した際には、この4要件に対し会社が誠実にその履行を行ったかどうかが問われることになります。
整理解雇の4要件
人員削減の必要性 | 会社の経営悪化など、整理解雇が避けられない状況であることを示す必要があります。経済的理由が明確であることが求められる |
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解雇回避努力の実施 | 解雇の前に、人件費削減や異動、役員報酬の削減、希望退職の募集など、解雇を回避するための手段を尽くしていることが求められる |
解雇対象者の選定基準 | 解雇対象者を選ぶ際に、合理的で客観的な基準があることが必要とされる。年齢や勤続年数、業務の重要性などを考慮したうえで選定する必要がある |
労働者への説明・協議 | 解雇にあたって、従業員や労働組合に十分な説明と協議を行い、理解と納得を得る努力をすることが求められる。 |
関連サイト厚生労働省「整理解雇には4つの要件が必要」
解雇の金銭解決に関する見直し議論について
解雇の金銭解決の論議が巻き起こった背景
日本では、解雇を巡るトラブルが裁判所で争われた場合、裁判所が解雇無効と判断すると、労働者は職場に復帰する権利を得ます。
しかし、現実には解雇後の元の職場へ復職することは非常に難しいとされ、現在のルールでは裁判が長期化するのが実態といえます。そこで、労働者と企業の間で金銭での解決を合法化する仕組み「解雇の金銭解決」が検討されはじめました。
労働者保護の観点からみた解雇の金銭解決
現在の制度では、労働者が裁判で争って解雇無効の判決を得ても、実際の復職が難しいケースが多いのが現実です。そのため、長引く裁判の負担は労働者に大きくのしかかることになり、大きな課題とされています。
解雇の金銭解決が法制化されることで、この争いを早期に解決する手段が提供されることが期待できます。
一方で、解雇の金銭解決制度が導入されれば企業が金銭を支払えば解雇できると誤解される可能性も否定できません。ひいては労働者の保護が不十分になるリスクが大きくなる点にも注意が必要です。
また、裁判所が金銭解決の際にどのように金額を判断するのか、またその基準をどう設定するのかも大きな焦点となっています。適切な基準がなければ、労働者側が不利益を被る可能性もあります。
解雇の金銭解決は法制化に向けた具体的な議論が進んでいますが、2024年10月時点ではまだ法案が成立するには至っていません。企業側の柔軟な解雇が可能となる一方で、労働者の権利保護とのバランスをどう取るかが今後の焦点となってくると予想されています。
解雇による退職者が出ると手続きはどうなる?
経営者がやるべきことは?
解雇後のサポートは丁寧に
現在のルールでは解雇者が退職する際、会社が行うべき手続きは通常の退職手続きに加え、解雇に関する法的手続きを慎重に進める必要があります。解雇は労務トラブルに発展するリスクも高いため、丁寧な対応を取る必要があります。
また、解雇後の関係を円滑に保つため、退職時の面談では会社の姿勢を説明し、解雇者が解雇理由について理解できるよう努めなくてはなりません。
さらに、解雇が生じた背景に構造的な問題がある場合には、経営者として社内での再発防止策を検討し、今後の労務管理の改善を図ることも忘れてはなりません。
解雇を行う際の主な手続き
解雇には様々な事由がありますが、どのような事由であれ以下のポイントを踏まえた対応を取る必要があります。
解雇理由の明示と解雇通知 |
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解雇予告または解雇予告手当の支払い | 重大な懲戒事由などの特定のケースを除き、会社は30日前に解雇予告を行う義務があります。もし、即時解雇を行う時は、30日分の「解雇予告手当」を支払わなくてはなりません。 |
必要書類の準備・交付 |
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社内手続きと情報管理 | 社内備品やIDカードの回収(パソコン、携帯電話、資料など、すべての会社貸与品)とシステムアクセスの停止 |
未払給与や退職金の精算 |
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失業給付のサポートと健康保険に関する説明 |
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解雇トラブル防止のために備えておくべきこと
解雇理由に納得できない場合、解雇された社員が労働審判や裁判を申し立てる可能性があります。そのため、解雇理由については詳細かつ納得性のある説明を書面で行い、記録として残しておくことが重要です。
また、解雇後の関係を円滑に保つため、退職時の面談で会社の姿勢を説明し、解雇者が解雇理由について理解できるよう努めなくてはなりません。
トラブルが予想される場合には、あらかじめ弁護士や社会保険労務士と相談し、法的に問題のない対応を確認することも重要です。もし、解雇後にトラブルが生じた場合には、労働基準監督署や法的機関の対応に備えておくことも忘れてはなりません。
廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、法人の経理処理や決算・税務申告はもちろん社員の給与計算に関する手続きもお手伝いを通じ、開業来30年にわたり多くの地元の事業主様をご支援してまいりました。
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