防衛関連増税で影響を受ける企業とは?
税理士事務所が解説

いま防衛費の財源をめぐる論議が活発です。中でも、その財源確保のための「防衛特別法人税(仮称)」は令和7年度税制改正大綱にも盛り込まれるなど、近い将来実施されることが確実視されています。
この「防衛特別法人税(仮称)」が実施されれば多くの企業が影響を受けることになります。
本記事では、防衛特別法人税の概要等を整理したうえで、どのような企業が「泣き」、どのような企業が「笑う」ことになるのかを税理士事務所が予測を交えつつ解説していきます。
日本の防衛費をめぐる歴史と現在の状況
戦後の武装解除から新たな防衛費の枠組みへ至る歴史
日本は第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の占領下で武装解除され、軍事力を完全に失いました。その後、防衛費をめぐり日本を取り巻く環境の変化に応じた論議が行われてきました。
日本の防衛費をめぐる歴史
1945年~1960年 |
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1960年~1980年 |
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1990年~2000年 |
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2001年~2020年 |
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現在の防衛費の水準と増額に向けた論議の方向感
2023年度において、日本の防衛費は約6兆8,000億円に達しており、GDP比では1.24%の水準です。これは1970年代によく言われた「1%枠」を超えており、近年の安全保障環境の変化を反映した水準に達しています。
さらに、2022年12月に政府は「国家安全保障戦略」を改定し、防衛費を2027年度までにGDP比2%(約11兆円)へ引き上げる方針を示しており、その財源ととして防衛特別法人税の創設が有力視されています。
関連サイト内閣官房「国家安全保障戦略について」
この防衛特別法人税に係る規定を含む「所得税法等の一部を改正する法律」の法案は、2025年2月4日に国会に提出され、現在国会で審議中です。
関連サイト参議院「所得税法等の一部を改正する法律案」
防衛特別法人税の制度趣旨と導入背景
防衛特別法人税導入の背景とその規模感
この政府の方針で示された防衛費11兆円の水準は従来の防衛費(GDP比1%前後)からほぼ倍増することを意味します。一方、増額分見合いの財源確保は果たせておらず、課題となっていました。
また、近隣諸国の軍事的圧力の増大や、長期化する紛争に起因する国際秩序の不安定化はもちろん、日米安保協定に基づく防衛協力を維持するための負担増なども防衛特別法人税導入の大きな要因になっていると言えます。
令和7年度税制改正大綱に盛り込まれた防衛費関連の税制改正のポイント
今後、防衛費を増やしていくためには財源の確保が必要です。
財源の確保には国債の発行、消費税、所得税の増税など様々な選択肢が検討されていますが、今回の税制改正大綱に盛り込まれたのは防衛特別法人税の創設とたばこ税の見直しの2つで財源を確保する案です。
大綱では防衛特別法人税の創設とたばこ税見直しの2つが財源から得られる増収見込額を2026年(令和8年度)には5,720億円、翌2027年度(令和9年度)には9,380億円と見込んでいます。
このうち防衛特別法人税の対象となる企業は、原則として黒字法人とされ、企業が支払う法人税に上乗せされる新たな税とする案が示されており、まとめると下表のようになります。
令和7年度税制改正大綱で示された防衛特別法人税(仮称)の概要
対象 | 法人税を支払うすべての法人(中小企業も含むが、基礎控除あり) |
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税率 |
基準法人税額から500万円を控除した額に4%の税率を適用 (例)法人税が1,000万円なら、(1,000万円 – 500万円) × 4% = 20万円の追加負担 |
適用開始 | 2026年(令和8年)4月1日以降の事業年度 |
影響を受ける企業と恒久税化の論議
防衛特別法人税が導入された場合、大きな企業であればあるほど新たな負担が大きくなる一方で、法人税が500万円以下の中小企業や赤字法人は実質的に課税なしとなる案であることがこの表から読み取れます。
また、「防衛特別法人税」は一時的な措置として導入される見込みですが、延長・恒久化される可能性もゼロではありません。期限付きの「特別税」か、恒久税化かするかの論議についても注視する必要がありそうです。
防衛特別法人税で泣く企業・笑う企業
泣く企業 海外展開に積極的な大企業や価格転嫁が難しい公共インフラ・中小企業
自動車メーカー、電子機器メーカー、総合商社などは年間数千億円規模の利益を上げているため、法人税の実質増加で利益の下押し圧力がかかり、結果として国際的な競争力が低下する恐れがあります。
また、外資系企業の中には法人税負担が重くなる可能性のある日本国内への投資を抑制しようとする動きが出ることも予想されます。
さらに、法人税増税分を製品・サービス価格に転嫁しにくい企業も泣くことになる可能性が高そうです。特に、鉄道・電力・通信に代表される公共インフラ関連企業の多くは料金が法律で規制されていることが多く、価格調整が難しいため利益減に泣く可能性があります。
一方、中小企業や赤字法人だと一見防衛特別法人税の影響がなさそうに見えますが、取引先の大手企業からの価格圧力が強まり、価格交渉が難しくなる可能性は十分あります。
大手企業が増税分見合いの値引き交渉を仕掛けてきた場合など、強気な価格交渉がしにくい中小企業などは回りまわって利益減に泣く可能性があります。
笑う企業 軍需関連企業・防衛産業
法改正による防衛費の増額は、軍需関連企業にとってはビジネスチャンスとなる可能性が高いといえます。
三菱重工、川崎重工、IHIといった防衛装備品メーカーはもちろん、防衛関連技術が活用される半導体・電子部品メーカーや防衛分野のデジタル化の恩恵を受けるであろう通信・サイバーセキュリティ企業も防衛費増大の恩恵にあずかれる可能性が高い業種といえます。
実際、上記の防衛装備品メーカーの株価はこの法改正のアナウンスが出た後、軒並み大きく上昇しており、法改正に伴う防衛費増大と利益拡大を株式市場は純粋に織り込んでいっていることが分かります。
防衛装備品メーカー主要3企業の株価
企業名 | 2023年末株価 | 2024年末株価 | 上昇幅 |
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三菱重工業 | 8,241円 | 2,223円 | 約2.7倍 ※2024年3月14日に株式10分割 |
川崎重工業 | 3,119円 | 7,280円 | 約2.3倍 |
IHI | 2,761円 | 9,311円 | 約3.4倍 |
防衛特別法人税導入で受ける影響に向けて
中小企業経営者が身構えておくべきポイント
直接の課税対象ではなくても間接的な影響は避けられない?
防衛特別法人税は大企業を主なターゲットとしているが、中小企業も間接的な影響を受ける可能性があります。
例えば、大企業の税負担増加により仕入れ価格の上昇やコスト削減圧力の強化が発生するため、取引先である中小企業の利益が圧迫される可能性は十分にあります。
取引先との価格交渉を通じ、増税に伴うコスト増加を適切に転嫁できるように身構えておくべきでしょう。
政府の税制支援措置の活用と新たなビジネスチャンスの獲得
防衛特別法人税が創設された場合、中小企業向けの減税措置や設備投資優遇策が講じられる可能性があります。それらを積極的に活用することで経営の安定化を図りさらに発展させる道がないか検討しておくとよいでしょう。
また、自社の製品・サービスのうち防衛関連ビジネスとして新たな収益源になりうるものがないか探す・開発することで、市場参入準備を進めておくと、今後の市場拡大の恩恵にあずかれる可能性が高まってきます。
防衛関連産業にはサーバーセキュリティへの対策も含まれると考えられ、IT・通信・製造業の中小企業は新たな取引先を獲得するチャンスに恵まれる可能性もあります。
防衛関連増税など税金について迷ったときは
専門家の力を借りてみましょう
こうした法改正はピンチにもなり得ますし、チャンスにもなり得ます。ただ、新たに課題が生まれた場合、経営者が一人で考え対策まで実行するのはかなり辛い作業かもしれません。
判断に迷ったときには経営全般の相談ができる専門家を頼ってみてもよいかもしれません。
廣瀬総合経営会計事務所は開業して30年以来、地域密着で様々な事業者様を支援してまいりました。多くの経験豊かな税理士が在籍しており、記帳・確定申告をはじめとする法人の決算に関する支援はもちろん、経営全般に関する情報をホームページや事務所通信でタイムリーにお伝えしています。
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※本記事は2025年2月末時点での情報をもとに執筆されています。