税務署からの「お尋ね」が増える!?財産債務調書制度の改正で富裕層の財産は丸見え!?

税務署からの「お尋ね」が増える!?財産債務調書制度の改正で富裕層の財産は丸見え!?

「あなたが持っている資産・借金をすべて教えてください。」
日常生活の中でこんなことを言われたら、「自分の財産が赤の他人に筒抜けになるなんてまっぴらごめん。」
誰しもそう思うはずです。
しかし、税金の世界では令和4年度の税制改正で、「財産債務調書制度等の見直し」が行われた結果、一定以上の資産を持つ人にには「資産・債務を報告する義務」がさらに厳格化され、文字通り「財産が丸見え」になる可能性があります。
近年、富裕層に対して税務当局は厳しくチェックする傾向があることからも、避けては通れないテーマになりそうです。

1.日本の富裕層の現状と財産債務調書制度等の見直しが狙うもの

2020年に「NRI富裕層アンケート調査」を実施した野村総合研究所の推計によると、純金融資産保有額が1億円以上の世帯は132.7万世帯で、そのうち5億円以上の「超富裕層」は8.7万世帯でした。
純金融資産1億円以上の富裕層数は、安倍政権の経済政策(「アベノミクス」)が始まった後の2013年以降一貫して増加を続け、2017年から2019年にかけては、富裕層および超富裕層の純金融資産保有額は、合計で11.1%(299兆円から333兆円)増えました。
その要因は、株式などの資産価格の上昇により、富裕層・超富裕層の保有資産額が増大したことに加え、金融資産を運用(投資)している準富裕層の一部が富裕層に、そして富裕層の一部が超富裕層に移行したためと考えられます。

もし、こうした富裕層の人が亡くなった場合、当然のことながらその相続人は相続税を納めることになります。しかもその納税額は多額になることが見込まれます。

財産債務調書制度の狙いは、将来の相続税申告対象財産の税務署による事前把握だと読むことができそうです。
財産債務調書制度では申告義務がある資産は、不動産・預金・上場株・投信はもとより、暗号資産、美術品・貴金属・同族会社などへの貸付金・同族株もその対象になっていることから、後々の相続税申告時の税務調査に備えた情報収集としてまたとないチャンスと言えます。
今回の改正で財産債務調書制度の範囲が拡大・厳格化さらたことで、税務当局は国民の財産情報の収集をさらに強化し、富裕層の財産が丸見えに近くなってくることが予想されます。

2.財産債務調書制度2023年度(令和5年度分)分からこう変わる 新旧比較と影響範囲

(1)財産債務調書制度の歴史

財産債務調書制度は、もともと「財産債務明細書の提出制度」として、昭和25年に創設され、一定の高額所得者については、確定申告に際し、財産債務の明細書の提出を求められることとされていました。
確かに、この制度があれば資産家・高所得層の収入を正しく把握でき、適正な課税を確保することができそうです。
しかし、「財産債務明細書の提出制度」は、”義務”とされていたものの、記載の不備や虚偽記載、未提出に対しても特段ペナルティがありませんでした。そのため、「富裕層への適正な課税」という目標は十分に達成されなかったのが実情でした。
この課題を解決すべく2015年度(平成27年度)の税制改正において、「財産債務調書制度」が創設され、今日に至っています。

(2)これまでの財産債務調書制度の問題点

こうして2015年度(平成27年度)に創設された財産債務調書制度ですが、その実効性には課題があったようです。
直近の国税庁レポートのデータからも、提出件数は毎年72千~73千件程度と横ばいで、前段の野村総合研究所の富裕層レポートの実態とはかけ離れた数値になっていることが分ります。

財務債務調書の提出件数及び記載された財産総額

また、令和3(2021)年分の所得税の確定申告を行った申告者に占める割合はわずか0.3%にとどまり、制度としての実効性に疑問が呈されており、富裕層の適正な課税を確保すると同時に、相続税の適正公平な課税を確保する、という制度創設当初の目的を果たすレベルには至っていない状況でした。
さらに、財産債務調書の提出期限が、所得税の確定申告期限と同一のその年の翌年3月15日であり、対象者は所得税の確定申告で、まず所得基準要件を確認し、満たす場合はその後に財産基準を満たすか否かの確認をするという極めてタイトな流れであるため、期限までに財産の種類や数量、価額を正確に算出することが納税者にとって極めて重たい作業であることも指摘されていました。

(3)2023年度(令和5年度)提出分~財産債務調書制度の改正と新旧比較

平成27年度の税制改正において創設された「財産債務調書制度」はこうした課題を解決するために、令和4年の税制改正において、一部改正されることになりました。
主な改正のポイントは以下の4点です。(厳格化  緩和)

① 提出義務者

本改正の最大のポイントです。

2023年分まで 2024年分から
所得基準および財産基準を満たす者 所得基準および財産基準を満たす者
または
その年の12月31日時点で
財産の総価格が10億円以上の者

2023年度分までは所得基準(所得合計2000万円以上)と財産基準(財産価額3億円以上または有価証券等が1億円以上)ともに上回る人のみが対象でしたが、2024年分からは所得がゼロであっても財産価額が10億円を超えている場合は報告の対象となります。
役員報酬を数百万円としている企業オーナーであっても、自社株式を中心とした未上場株式などの評価額によっては新たに対象となる可能性があります。

② 提出期限

2023年分まで 2024年分から
翌年の3月15日まで
(所得税確定申告期限と同一)
翌年の6月30日まで

財産価額を調査するために必要な時間を確保するために、提出期限が緩和・延長されました。

③ 宥恕規定

提出書類の提出期限を超過したり、誤った内容の報告書を提出した場合のペナルティ(加算税等)緩和措置です。
悪意の有無に関係なく、調査通知前・後という客観的な判断基準が設けられました。

2023年分まで 2024年分から
提出が期限後であっても悪意のない場合は申告課税等の特例適用が可能 提出が期限後であった場合は、
調査通知前にされたものである限り

過少申告加算等の特例適用が可能

④ 省略できる記載内容・項目

家庭用財産については、従来通り取得価額で計算できるとされた上で、省略基準額が引き上げられ、緩和されました。

2023年分まで 2024年分から
取得価格100万円未満の家庭用財産は
記載省略できる
取得価格300万円未満
の家庭用財産は記載省略できる

3.財産債務調書制度等の見直しでこんな人は要注意 影響とケーススタディ

今回の改正はこれまで財産債務調書と無縁だった人にも影響が及ぶ改正です。
代表的な例をみてみましょう。

(1)上場株式等を特定口座(源泉徴収あり)で約10億円保有している個人投資家。有価証券等の売買で発生した損益に対する課税は源泉分離課税としており、これまで確定申告は行っていない。

保有する有価証券をはじめとする資産を時価で計算したときその合計価額が10億円を超える場合には、財産債務調査制度の改正により、確定申告を行うとともに新たに申告書類を提出する義務が発生します。他に保有する暗号資産等が場合は、その価額も合算され、時価で合計10億円を超える場合には、同様に提出義務が発生します。

(1)役員報酬は1500万円だが、自社株式の評価額が10億円を超えている中小企業オーナー

従来の制度では所得基準と財産基準の双方を満たす人のみが対象でしたが、改正により、保有する有価証券(含む自社株式)をはじめとする資産を時価で合計したときに10億円を超える場合には、新たに提出義務が発生します。仮に年間の役員報酬が1500万円だったとしても提出する必要があります。 また、個人で高額な不動産等を保有している場合などは、その価額も合算されますので注意が必要です。

4.まとめ 適正な財産債務調査の提出と税務署からの「お尋ね」への対応

今回の改正により、2023年(令和5年)分以降は、所得基準を満たさない場合であっても、時価で10億円以上の財産を所有している場合には、財産債務調書の提出義務が生じることとなりました。
また、財産債務調書の未提出や記載が不十分な場合には、相続税の申告書提出時等にペナルティが生じるほか、財産債務調書に記載された内容と、申告書の内容が矛盾しているような場合には、当然、税務調査の対象に選定されやすくなります。

税務署には、KSK(国税総合管理)システムというものがあり、過去の申告状況や支払調書、退職金などの情報が集約されています。つまり、その人にどのくらいの所得や財産があるのかを検討するためのデータを税務署は保持しており、そのデータ等をもとに、提出義務があると思われる人に「お尋ね」を送付してくる場合があります。
「お尋ね」が来たからと言って慌てる必要はありません。
あくまで「提出義務があろう人」に送付をしているので、お尋ねがきた場合でも、提出要件を満たしていない場合には、その旨をしっかりと回答すれば大丈夫です。

<今回のポイント>

  1. 日本の富裕層の現状と財産債務調書制度等の見直しが狙うもの
  2. 財産債務調書制度2023年度(令和5年度分)分からこう変わる 新旧比較と影響範囲
  3. 財産債務調書制度等の見直しでこんな人は要注意 影響とケーススタディ
  4. まとめ 適正な財産債務調査の提出と税務署からの「お尋ね」への対応

富裕層の多くは一般的に資産からの収入が多いとされています。そうした富裕層に対し、税務当局は将来の課税を適正に行うための準備として、所得がない場合であってもその財産を把握しやすくなるように法改正を行いました。
また、新たに対象となる可能性が高まった企業オーナー等は、自社株式の時価をきちんと把握しておかなくては適正な申告ができない可能性があります。

こうした新たな制度に直面した時は、税務申告などに精通した専門家のアドバイスを得て、シミュレーションをしっかり行ったうえで判断することが重要です。

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