子育て世帯から見た2025年度税制改正を
税理士事務所が解説
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2025年度(令和7年度)税制改正大綱では、子育て世帯にとって追い風になる税制改正がいくつか盛り込まれています。一方であまりよく周知されていないまま負担増、すなわち逆風になる改正も2025年度には実施される予定です。
本記事では家計への影響が予想される2025年度の税制改正の方向性について税理士事務所が解説していきます。
追い風その123歳未満の扶養親族がいる人の
生命保険料控除の拡充
導入に至る背景とその目的
少子化が深刻な問題となっている中、政府も「異次元の少子化対策」として、児童手当の拡充や育児支援の強化を進めていますが、税制面からも子育て支援を強化する方針です。
中でも生命保険料控除の拡充は、子育て世帯の税負担を軽減し、可処分所得の増加につなげる目的があります。
また、子育て世帯にとって、親の死亡や病気といったリスクは子供に大きな経済的影響を与える可能性が大きいため、生命保険料控除を拡充することで、子育て世帯の保険加入を後押しする狙いがあります。
改正前後の内容を比較してみると
2025年度税制改正大綱で示された内容を改正前後で比較してみると以下の表のようになります。
項目 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
対象者 | 全ての納税者 | 23歳未満の扶養親族を有する納税者 |
一般生命保険料控除(所得税) | 最大 4万円 | 最大 6万円(+2万円) |
控除対象となる保険 | 一般の生命保険(終身保険・定期保険・養老保険など) |
生命保険料控除の一般生命保険料控除(新生命保険料)の適用限度額が世帯の属性を問わず最大4万円だったものが、23歳未満の扶養親族がいる場合には最大6万円に引き上げられるものです。
対象となる生命保険の種類や全体の控除可能総額に注意
なお、この前段の表でも分かるように、今回の見直し対象は一般生命保険料控除の拡充であり、医療保険やがん保険が対象となる介護医療保険料控除については、今回の見直しの対象にはなっていないことには注意が必要です。
また、一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の3つの合計適用限度額は現行の12万円のまま変わらないため、すでにこの限度額に達している場合は、本改正の影響額はないことになります。
さらに、住民税における一般生命保険料控除の限度額(現行2.8万円)については、税制改正大綱には具体的な記載がなく、住民税の控除額変更に向けた議論には注目しておく必要があります。
追い風その2住宅ローン減税の優遇措置の延長と
中古住宅の住宅ローン減税
住宅ローン控除の変遷と税額控除
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)はその名称や対象期間、借入限度上限額の変更などを行いつつ、ほぼ半世紀にわたって存続し続けてきました。
現行の制度は償還(返済)期間10年以上の割賦償還方式により返済する住宅ローンがある場合に一定条件を満たすと、入居した年から最長で13年間、年末時点での住宅ローン残高の0.7%分を所得税から控除できる制度です。
同じ控除という名称がついていますが、所得控除とは異なり、税額そのものが減額される税額控除であることから、減税効果は大きくなります。
子育て世帯と若年夫婦の住宅取得を税制で後押し
2025年度の税制改正では、住宅ローン減税の優遇措置が4年間延長され、省エネ性能の高い住宅に対する減税措置が強化されました。
中でも、子育て世帯および若年夫婦世帯に向けては住宅ローン減税の対象となる借入限度額の上乗せ措置が設けられています。
対象者 | 子育て世帯(19歳未満の子どもがいる世帯) または 若年夫婦世帯(夫婦いずれかが40歳未満) |
---|---|
対象住宅 | 新築の長期優良住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅(一般住宅は対象外) |
借入限度額の上乗せ | +500万円~1,000万円の優遇(一般の借入限度額に加算) |
適用期間 | 2029年末まで |
例えば、対象となる借入限度額が最も大きい長期優良住宅・低炭素住宅の場合、一般世帯の借入限度額が上限4500万円であるのに対し、要件を満たす世帯であれば500万円がプラスされ、5000万円が減税となる借入限度額となります。
中古住宅向け住宅ローン・子育て住宅リフォームには大きな追い風
2025年度税制改正では、中古住宅の取得を促進するために、住宅ローン減税の適用要件が緩和されました。築年数基準が撤廃され、耐震基準を満たせば築年数不問になるなど初めて住宅を購入する若年夫婦世帯にとっては、追い風になりそうです。
省エネ基準適合住宅の優遇 | 借入限度額 3,000万円(一般は2,000万円) |
---|---|
築年数要件 | 耐震基準を満たせば築年数不問 |
適用期間 | 2029年末まで |
これらの措置に加えて、子育て世帯に対する支援として、住宅リフォーム税制の拡充も行われています。具体的には、子育て対応改修工事を行う場合、標準的な工事費用相当額の10%(最大控除額25万円)を所得税から控除する措置が1年間延長されています。
リフォームやリノベーションとセットでの購入なら、住宅ローン控除に自治体等の補助金制度も活用することでより負担を軽くすることが期待できそうです。
追い風その3103万円の壁問題に対する対応
所得税の「103万円の壁」は引き上げの方向へ
「103万円の壁問題」は、配偶者の年収が103万円を超えると所得税が発生するため、働く時間を意図的に抑える「年収の壁」が生じる問題を指します。
2025年度税制改正では、自民・公明両党は、控除額を123万円に引き上げるなどとした与党税制改正大綱を閣議決定した一方で、その水準については綱引きが継続している状態で、引き続き実施される与野党間での協議は注目しておきたいところです。
壁の水準を引き上げる方法として有力視されているのは所得税の基礎控除額(現在48万円)の引き上げと給与所得控除(現在55万円)の引き上げの合わせ技が有力視されており、地方税である住民税の給与所得控除の額も引き上げに向けた論議が行われています。
特定扶養控除の年収要件も見直しと新たに導入される「特定親族特別控除」
この103万円の壁と同時に行われる予定の改正が大学生などを扶養する世帯の税負担を軽減する「特定親族特別控除」です。
これまでは扶養する子の年収が103万円を超えると親が63万円の控除を受けられなくなっていたものを、その年収の上限を150万円に引き上げることで、壁の水準が切り上がるものです。(子の年収が188万円を超えるまで段階的に控除の対象)
アルバイトをしながら学ぶ大学生の子供などがいる世帯にとっては、世帯トータルで手取りがアップする効果が期待されます。
地方税収への影響懸念と継続協議の実施
政府は税制改正大綱の中で、「年収103万円の壁」の見直しににより、国と地方あわせて年間6580億円の減収になるという見通しを明らかにしました。
これは主に、基礎控除の引き上げと給与所得控除の最低保証額引き上げの影響をもとに試算したものです。当然多くの自治体からネガティブな声が上がります。
一方で予算成立等のキャスティングボードを握っている政党からは提示された額では不十分であるとの主張も根強く、引き続き実施される与野党間での協議は注目しておきたいところです。
子育て世帯に逆風になる可能性が高い4つの改正
一方で、子育て世帯にとってうれしい特例の終了や、負担増に繋がる改正も行われます。既に実施済みものやまだ議論中のものもありますが、子育て世帯への影響が大きいと考えられる4つのポイントについて解説いたします。
教育資金の贈与に関する特例の終了
直系尊属(祖父母・父母)からの教育資金の一括贈与(1受贈者あたり最大1500万円)に対する贈与税の非課税措置が、適用期限を迎えることから、2026年(令和8年)3月31日に終了します。
元々、2023年3月31日までとされていた適用期限が一部修正を加えて2026年3月31日まで延長されていたものですが、次回の期限以降再度延長されることはほぼなくなったといえます。
これにより、祖父母等の直系尊属が子・孫に行う教育資金の贈与に対しては贈与税が課されることとなり、教育資金の準備において家計の負担が増加する可能性があります。
復興特別所得税の一部他財源への充当に向けた議論
東日本大震災の復興を目指し2013年に創設された復興特別所得税(所得税額の2.1%)は、2037年で終了予定ですが、それに先立ち2025年から復興特別所得税の一部を別の財源に充てる案が浮上しています。
具体的には、2024年以降、復興特別所得税の税率を1.1%に引き下げ、差し引かれた1%分を新たに防衛目的税として設け、防衛費に充当するという計画です。具体的な税率や適用時期については、今後の法制化の過程で明らかにされる予定です。
森林環境税の創設
森林環境税は、日本の森林整備や地球温暖化防止、災害防止などのための財源を確保する目的で導入された国税です。2024年(令和6年)度から、国内に住所を有する個人に対して課税が開始されています。
具体的には、個人住民税均等割に年額1,000円が上乗せされる形で課税されます。これにより、全ての納税者に対して追加の税負担が生じることとなります。
こども・子育て支援金の創設と社会保険料負担
「こども・子育て支援金」制度は名称こそ税金ではありませんが、少子化対策の財源確保を目的として医療保険料に上乗せされる形で徴収される新たな仕組みです。
「こども・子育て支援金」制度は、2026年度から段階的に導入され、少子化対策の財源として活用される予定です。具体的な負担額や制度の詳細については、今後さらに明らかにされる見込みですが実質的には「新たな負担」となるため、「事実上の増税」ともいわれており、個人の負担増は言うまでもなく、社会保険料を折半する事業主側の負担増も懸念されています。
さらに複雑化する個人の確定申告
迷ったときは専門家に相談しましょう
今回税制改正大綱で謳われた改正で、子育て世帯への支援が強化される一方で、新たな税負担の発生や特例廃止などもあることが分かりました。こうした改正により個人の確定申告もより複雑化していく可能性があります。
特に、株式の譲渡や不動産の譲渡などがあった人はより慎重に確定申告を行う必要があります。スムーズな申告・納税を行うためには税理士をはじめとする専門家のアドバイスがあった方がよいでしょう。
廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、法人・個人の税に関する様々なご相談に加え、相続に関する相談をお受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから記帳・申告まで一括サポート可能です。
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※本記事に記載は2024年12月に閣議決定された2025年度(令和7年度)税制改正大綱の情報に基づき執筆されております。