個人事業主が開業届を出さない場合の
デメリットを税理士事務所が解説

個人事業主として事業を始める際にまず行うべき基本的な手続きが「開業届(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)」の提出です。
以前は「個人事業主」と言えば、フリーランスのようなひとりで事業を行っている人を指しましたが、近年では副業をしている会社員や、ハンドメイド作家として活動している兼業主婦の方、何らかの活動の傍らウーバーイーツ等いわゆる「スキマバイト」をしている方、メルカリで一定の収入を得ている方なども「個人事業主」に該当するようになりました。
開業届は事業開始の事実があった日から1ヶ月以内に提出するのが原則ですが、提出せずに事業を始める人も少なくありません。実際には、開業届を出さないことで様々な税務上のデメリットが生じ、将来的に様々なリスクを抱えることになります。
この記事では、開業届を出さなかった場合の主なデメリットを整理し、なぜ税理士の活用するメリットについて解説します。
開業届を出さない場合のデメリットその1節税効果が得られる青色申告ができない
青色申告は、一定の帳簿を備え付けることで多くの税制上の優遇を受けられる制度です。青色申告をするには、事業開始から2カ月以内に開業届とともに「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。開業届が未提出の場合、青色申告の申請自体ができないため、上述した控除や優遇措置は一切受けられません。
結果として、白色申告では控除額が小さく、赤字の繰越しや家族への給与計上もできず、納税額が増える可能性が高くなります。開業届を提出し、青色申告をすることで得られるメリットは次のとおりです。
開業届を提出し、青色申告をすることで得られるメリット
青色申告特別控除(最大65万円)が可能になる
正確な帳簿(「仕訳帳」や「総勘定元帳」など、複式簿記に基づいた帳簿)による記帳と貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付した申告を行うことで、所得から最大65万円の控除が可能です。ただし、e-Taxで電子申告、または電子帳簿保存(認定が必要) のどちらかを行うことが必要です。
関連サイト国税庁「No.2072青色申告特別控除」
赤字の繰越しができる(純損失の繰越控除)
事業が赤字になった場合、最長3年間繰越して黒字と相殺できます。利益が上がった年に過去の赤字を算入することで節税効果が得られます。所得税の確定申告書(第1表・第2表)のほか、損失の内容を記載した「損失申告書(第4表)」の提出が必要です。
関連サイト国税庁「青色申告の純損失の繰越控除を受ける方の記載例」
家族への給与を経費計上できる
青色事業専従者給与として、配偶者や子どもに支払った給与を経費にできます。家族への給与を経費計上するためには、開業届を出してから2ヶ月以内に「青色事業専従者給与に関する届出手続」を税務署に提出する必要があります。
関連サイト国税庁「A1-11青色事業専従者給与に関する届出手続」
開業届を出さない場合のデメリットその2経費の計上が認められにくくなる
開業届を出していない場合、そもそも税務署に対して「事業をしている」との正式な証明がありません。そのため、個人の支出と事業の支出の線引きが不明瞭になり、帳簿に記載された経費が税務署から否認される可能性が高まります。
特に高額な備品や家事按分(自宅兼事務所など)の支出については、開業届なしでは正当性を主張しにくく、経費として認められないリスクがあります。
事業経費として本来認められるもの
事業運営に必要な支出は、原則として経費として認められます。例として以下のようなものがあります。
- 事務所家賃
- 光熱費
- 事業用のパソコン・備品
- 業務用の交通費や出張費
- 通信費(携帯電話、インターネット回線など)
- 広告宣伝費
- 外注費
いずれの項目も事業を展開する上で必ずかかる費用と言っていいでしょう。
関連サイト国税庁「No.2210必要経費の知識」
開業届を出さない場合のデメリットその3税務調査リスクが増加する可能性がある
開業届の未提出は税務署が不信感を抱くきっかけに
税務署は定期的に確定申告書の内容を確認していますが、開業届が出されていない個人が多額の収入や経費を計上している場合、「事業の実体があるのか」「正確に申告されているのか」といった不信感を抱く可能性があります。
中には、税務署がその事業を「隠れた収入源」と見なすことがあります。税務署が事業所得を申告していないことに気づくと、申告漏れや所得隠しの疑いを持たれやすくなってしまいます。
このようなケースは、税務署による任意調査や実地調査(税務調査)の対象となりやすく、最悪の場合、過去数年分の申告内容について調査が行われ、加算税や延滞税を課される恐れもあります。
関連サイト国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
税務調査リスクを軽減するには
開業届を提出し、帳簿を整備したうえで正確な申告を行うことで、税務署の信頼を得ることができ、調査のリスクを軽減できます。逆に、申告が不自然であったり、書類に不備がある場合は、調査のリスクが一気に高まることを認識しておきましょう。
開業届を出さない場合のデメリットその4事業の信用度低下と
社会保険や福利厚生の利用に制限がかかる
開業届を出していない場合、事業の信用面で不利な立場に立たされることがあります。例えば、融資や契約の際、正式な事業登録がないために信用力が低く見積もられ、融資を受けるのが難しくなる場合や、取引先との契約がスムーズに進まないことがあります。
また、開業届を出さないままでいると、従業員の社会保険等の手続きを行うことが事実上できず、従業員の将来の年金や健康保険に影響が出ることもあります。
開業届を出していない場合の手続き方法
開業届は後からでも提出できる
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を出さずに事業を始めてしまった場合でも、後から提出することは可能です。
とはいえ、開業届を出さないまま事業を継続することは決して褒められた話ではありませんし、前述の通りデメリットの方が大きいので、早期に提出する必要があることはしっかり理解しましょう。
ただ、中には開業届を出すことなく何年も事業を継続してしまったようなケースもあるでしょう。そのような場合でも、過去にきちんと確定申告をしていれば深刻なトラブルに発展する可能性は低いので安心してください。
なお、必ずしも「提出日=開業日」となるわけではなく、事業を開始した日をそのまま開業日として記載し、遡って届け出ることも可能です
関連サイト国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
開業届を後から提出する場合の手続き方法
後から開業届を提出する場合であっても通常の提出と流れは変わらず以下の2つの方法から選びます。
- 税務署に直接提出(窓口持参または郵送)
- e-Taxによるオンライン提出
必要事項には、事業の開始日・事業内容・屋号(あれば)・事業所所在地などを記入します。開業届の「開業日」は、実際に事業を始めた日(収入が発生し始めた日など)を遡って記載できます。ただし、あくまで「後出し」であることを意識する必要はあります。
そのため、過去に開業していたことを正確に記載した証拠となる書類(請求書・領収書・契約書など)が必要な場合があります。
青色申告を希望する場合には追加手続きが必要
青色申告を希望する場合は、開業届と合わせて「所得税の青色申告承認申請書」も提出が必要です。
本来の提出期限は「開業日から2ヶ月以内」ですが、後から出す場合でも税務署に相談して柔軟に対応してもらえることがあります。ただし遅れて提出する場合、翌年から適用になる可能性が高いです。
関連サイト国税庁「A1-8所得税の青色申告承認申請手続」
過去に無申告があった場合は要注意
このように開業届の事後提出についてはある程度柔軟な取り扱いが許容されていますが、過去に無申告等の重大な違反があった場合は話が違ってきます。特に、過去数年に渡る無申告がある場合には延滞税・加算税の対象となる可能性が極めて高いといえます。
関連サイト国税庁「No.9205延滞税について」
ただし、無申告であっても税務署から指摘を受ける前に自主的に申告すれば、加算税や延滞税が軽減される可能性があります。この場合、過去の帳簿や請求書・領収書・通帳などをもとに、正確な所得・経費を計算して申告します。
とはいえ、過去数年に渡る無申告がある場合や、収入・経費が複雑な場合は、早めに税理士に相談して適正な申告を行うのが得策です。
個人事業主の開業は
廣瀬総合経営会計事務所にご相談ください
廣瀬総合経営会計事務所は開業して30年以来、地域密着で様々な事業者様を支援してまいりました。多くの経験豊かな税理士が記帳・確定申告に関する支援はもちろん、事務所が管理する記帳代行システム「Rakutto(らくっと)」を活用することで、月々の記帳・申告に係るコストを低く抑えることもできます。
決算・税金に関するご相談に限らず、経営全般に関する様々なご相談も承っていますので、お気軽にご相談ください。事務所はJR西荻窪駅・徒歩1分にあり、下記エリアを中心とした地域密着のサービスを展開しています。
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まとめ
開業届を提出しないことは対外的な信用度合いが低下するのみならず、青色申告ができない、経費の否認リスクが高まる、税務調査の対象になりやすいなど、税務上でも大きな不利益をもたらします。特に、これから事業を拡大していこうとする段階においては、正しい税務処理と信頼性の高い帳簿管理が欠かせません。
そうした体制を整えるうえで、税理士の活用は非常に効果的です。税務リスクを回避し、事業に集中するためにも、開業時から税理士と連携し、正しいスタートを切ることが重要です。