義父母との関係を断ちたい! 増える死後離婚 新たな一歩を踏み出すための選択肢
<今回のポイント>
- 夫が死亡して夫との婚姻関係は終了、夫との親族の関係はどうなる?
- 死後離婚を決意する理由 ベスト3
(1)夫や義父母との関係性がよくなかった・夫の家族のお墓に一緒に入りたくない
(2)義父母の面倒(介護・金銭援助)をみたくない
(3)新たな人生を歩みたい - 実際にあった話 60代半ばで夫を亡くしした吉田英子さん(仮名)のケース
- 死後離婚手続きを行うメリット 3選
(1)自分の意思のみで親族との関係を断ち切ることができる
(2)相続した財産や遺族年金の受給に影響はない
(3)孫と夫の両親(義父母)の血縁関係は保たれる - 死後離婚手続きを行うデメリット 3選
(1)婚姻解消届は撤回ができない
(2)親族関係解消後は義父母からの支援を受けられなくなる可能性が高くなる
(3)住居や自分のお墓の手配に苦労することも - 死後離婚の具体的な手続き方法 戸籍への影響は?姓はどうなるの?
(1)姻族関係終了届の提出期限・提出先
(2)姻族関係終了届の提出と姓・戸籍への影響
結婚した夫婦のうち約1/3は離婚すると言われており、現実年間約20万組の離婚が成立しています。
厚生労働省が毎年行っている「人口動態調査」にもとづく統計(人口動態統計)によると、令和元年の離婚率は1.69で、前年の平成30年の1.68よりわずかに上昇しています。ちなみに、平成28年度の離婚率は1.73、平成29年度では日本の離婚率は、1.70ですので、ここ数年はほぼ横ばいのトレンドを描いています。
当たり前の話ですが、通常の離婚手続きは夫・妻双方が生きてる間に行われるものです。
それに対して死後離婚は配偶者の死亡後、配偶者の義父母・配偶者の血縁者との縁を断ち切る手続きを指します。
正式には「姻族関係終了届」の提出のことですが、法務省戸籍統計によると、2009年には1823件だったものが、2019年には3551件となっており、10年でほぼ倍増していることが分かります。
死後離婚を申請する男女比は公表されていませんが、圧倒的に女性が多いようです。
本記事では増加している死後離婚の解説とメリット・デメリット、手続き方法などについて解説していきます。
1.夫が死亡して夫との婚姻関係は終了、夫との親族の関係はどうなる?
「あの人(夫)にはこんな思いをさせられたのよ、でもね・・・」
ドラマでよくみられる回想シーンです。葬式の場で妻が親族に対して語る夫の思い出は、過ぎてしまえばいい思い出、として懐かしむシーンも多いかもしれません。
しかし、中には心底夫を憎んでいる場合や、義父母との折り合いが悪かった場合など、夫の親族との関係をこの先も続けるなんて耐えられない、という思いに至ることも多いようです。
夫との婚姻関係は夫が死亡した時点で終了しています。ただし夫の親族との関係は夫の死亡によって自然に終了するわけではありません。
そのため夫の親族との関係を終了させるためには「姻族関係終了届」の提出、すなわち死後離婚手続きを行う必要があります。
2.死後離婚を決意する理由 ベスト3
たとえ、配偶者の死後であったとしても「離婚」というのは大きな決断です。
死後離婚を決意するに至るには様々な理由があります。代表とされるベスト3をみていきましょう。
(1)夫や義父母との関係性がよくなかった・夫の家族のお墓に一緒に入りたくない
元々配偶者と不仲であったり、その親族と完全に関係を断ち切りたい気持ちがある場合など、配偶者やその親族と同じお墓に入りたくない、という気持ちを強く、死後離婚を選択する大きな理由になるようです。
また、義父母の反対を押し切って結婚したため、長く連絡を取っておらず、疎遠になってしまっている場合なども死後離婚を選択する大きな理由になるようです。
その他にも、過去に義父母や義兄弟姉妹と遺産やお墓を巡るトラブル巡る争いがあったケースなど、感情的なしこりが原因で親族との関係性が円満でないことなども理由として挙げられています。
(2)義父母の面倒(介護・金銭援助)をみたくない
義父母の介護は直系血族と兄弟姉妹が行うのが原則ですが、介護ができる状態にない場合には、姻族に対して家庭裁判所から扶養命令が出る可能性があります。(民法第877条)
義父母の面倒は介護関係のみならず経済的な援助にも影響する可能性があり、介護施設に入居する際の保証人になることを求められたりすることも十分考えられます
介護のために仕事を犠牲にせざるを得ない「介護離職」は社会問題化しており、仮に離職を余儀なくされた場合は、収入減により、自身が経済的な問題を抱えてしまう可能性すらあります。
こうした将来の心配事から逃れるためにも、死後離婚は十分考えられる選択肢といえます。
(3)新たな人生を歩みたい
歳の離れたご夫婦の場合など、配偶者がまだ若く再婚が可能なケースもあります。
そうした場合には、死後離婚手続きを行うことで、配偶者の親族との関係を清算し、新たなパートナーと人生を歩むことも選択肢の一つとして十分考えられます。
関係性がよく、理解のある義父母であれば、義父母側から死後離婚を提案することもあるようです。
こうした理由以外にも夫の死後に義父母や兄妹姉妹、親族からお金の無心を受けたり、義父母から必要以上に生活に干渉される、孫の教育方針に対して口出しされる、など様々な煩わしい出来事も死後離婚を選択する理由として挙げられています。
3.実際にあった話 60代半ばで夫を亡くしした吉田英子さん(仮名)のケース
60代半ばの吉田英子さんの例を見てみましょう
英子さんは60代半ばでつい先ごろ夫を亡くしました
夫の両親、英子さんから見た義父母は共に90歳を過ぎており、既に介護認定を受けています。
英子さんは義父母とは同居していなかったものの、ほぼ毎日義父母の両親宅を訪ね、デイケアサービス等施設への送迎や、食事の世話といった役割を担うことも頻繁にありました。そのことについて夫から労いの言葉があれば良かったのですが、残念ながら生前の夫からその言葉を聞くことはありませんでした。
ここで英子さんはふと思います
「私、夫が死んだあとも義父母の面倒を見なきゃいけないの?」
一方で、「義父母の面倒を見ないとなった時、世間は私のことをどう思うのかしら?」こんな気持ちもありました。
一般的な話として、夫の死後義父母の面倒を見続ける嫁というのは多いと言われています。
しかし、義父母の面倒を見続けたとしても、嫁である英子さんには義父母の財産を相続する権利はありません。
英子さんに子供がいればその子供が亡き夫に代わって代襲相続することはあり得ますが、英子さんが義父母の面倒を見続けたとしても嫁である英子さん自身には義父母の財産を相続する権利はありません。※
考えた末に、英子さんは姻族関係終了届を市役所に提出し、死後離婚手続きを行うことを決心しました。
こうして英子さんは残された義父母の介護から解放され、新たな一歩を踏み出すことになったのです。
※2018年 民法改正で創設された「特別の寄与」 義父母の介護に献身的に取り組んだ嫁に相続権が発生しないことは社会的にも問題視されていました。 2018年の民法改正によりようやく特別の寄与という制度が設けられました。 現在は、法定相続人に当たらない人であっても被相続人の生前において、日々の生活や介護など大きな貢献があったような場合、相続人に対し金銭で遺産を相続する権利を主張することができるようになっています。
4.死後離婚手続きを行うメリット 3選
(1)自分の意思のみで親族との関係を断ち切ることができる
姻族関係終了届の提出を行うときに親族の同意は不要です。
またこの姻族関係終了届を提出したことが夫の親族に通知される事もありません。
自分の意思で姻族関係終了届を提出した後は原則として義父母を扶養する義務は発生しません。親族から扶養の要請があったとしても拒否することが可能です。
(2)相続した財産や遺族年金の受給に影響はない
姻族関係終了届は相続財産の配分等に影響しません。既に相続手続きが終わっており、受け取った相続財産があった場合でも同様です。
相続時点で発生している遺族年金の受給権についても変わらず夫死亡時の配偶者固有の権利として存続します。
(3)孫と夫の両親(義父母)の血縁関係は保たれる
自分と義父母との親族関係は姻族関係終了届の提出をもって終了しますが、即ち義父母から見た場合の孫と義父母との血縁関係は変わらず継続します。
義父母が死亡して相続が発生した場合、元々の相続人である夫がすでに死亡しているため、孫に当たる子供が代襲相続人になります。義父母が財産を持っているような場合、死後離婚を行った場合でも孫の代襲相続の権利に変わりはありません。
5.死後離婚手続きを行うデメリット 3選
(1)姻族関係終了届は撤回ができない
子供たち(義父母から見た孫)が成長するにつれ義父母との交わりを子供たちが希望するようなこともあり得ます。
その時になって、夫の親族との関係を取り戻したいという気持ちになったとしても、一旦提出した婚姻解消届は撤回することができません
もとより配偶者と義父母の関係は血縁によるものではありません。もしどうしても親族関係を回復したいと言うのであるならば義父母と養子縁組の手続きを経る必要があります。
一旦姻族関係終了届を提出した場合、元に戻すことは困難であることを踏まえた上で、慎重に検討する必要があります。
(2)親族関係解消後は義父母からの支援を受けられなくなる可能性が高くなる
姻族関係終了届を提出し、死後離婚の手続きを行ったとしても法的なデメリットはありません
しかし、一方的にそうした手続きを行った以上、義父母側にも感情的なしこりが残ることは十分予想されます。
死後離婚の後は、ちょっとしたことでも子供の面倒を義父母に見てもらうといったような関係性は維持しにくくなると考えたほうがいいでしょう。また、子供の進学・結婚等に際して経済的に援助してもらうことも難しくなる可能性があります。
(3)住居や自分のお墓の手配に苦労することも
義父母世帯と別居していたような場合は問題ありませんが、配偶者の生前から義父母と同居していたような場合、親族関係を解消した後は、新たな住所を探す必要に迫られる可能性があります。
当然のことながら引っ越しにかかる労力や新しい住居を見つける労力、そしてなによりも金銭的な負担が発生することは覚悟する必要があります。
民法改正により配偶者居住権が創設されたことから、令和2年4月1日以降は直ちに住むところに困るという事態は一定程度回避できるようになりました。ただし、婚姻解消届を提出し、親族関係を解消した義父母と一つ屋根の下で同居するという気まずさがあることは覚悟する必要があるでしょう。
また、お墓についても、一方的に姻族関係終了届解消届を出し死後離婚手続きを取った以上、夫ましてや義父母と一緒の墓に入るということは考えにくく、自分で自分のお墓を考える必要が発生します。
自分自身の実家のお墓に入ると選択肢もありえますが、実家と疎遠であったり、関係性があまり良くないなどの場合は選択肢も限定的なものにならざるを得ません。
ただ、最近では海に散骨、樹木葬などをケースもありお墓についての選択肢は増えています。これを機会に自分の最後をどのように迎えたいのかエンディングノートなどを用いて考えてみるのもよいでしょう。
6.死後離婚の具体的な手続き方法 戸籍への影響は?姓はどうなるの?
次に「姻族関係終了届」の提出方法についてみていきます。通常の相続手続きとは別に手続きが必要となりますので、間違えないよう注意が必要です。
(1)姻族関係終了届の提出期限・提出先
姻族関係終了届の提出先は本籍地または住所地の役所の窓口になります。
死後離婚は姻族関係終了届を市区町村に提出すれば、その日のうちに親族関係を夫の親族との関係を断ち切ることができます。
提出するタイミングは夫の死亡届が提出された後であればいつでも可能です。また提出期限もありません。
なお、夫の親族の同意は必要ありませんし、姻族関係終了届を提出したことが親族に通知される事もありません。
(2)姻族関係終了届の提出と姓・戸籍への影響
姻族関係終了届を提出した後、戸籍には「婚姻関係終了」との記載がなされます。
ただし、姻族関係終了届では、氏や戸籍の変動はありません。 婚姻前の氏に戻すには、復氏届の届出が必要になります。
戸籍を別にしたいだけの場合や、姓を元に戻したいだけの場合は姻族関係終了届の提出を行わず、複氏届けにとどめることも選択肢です。
配偶者の死後、相続人が複数にわたる場合など、相続財産の大小にかかわらず、親族間のトラブルに発展するケースが多くあります。
どのような事前準備を行えばいいのか、自身で判断するのは難しいため、必要に応じて相続に詳しい税理士等の専門家に相談することもおすすめです。
杉並・中野相続サポートセンターでも、様々な相続対策に関する相談をお受けしています。
当サポートセンターであれば、相続対策のご提案から生前贈与の実行から、各分野に精通した専門家と連携し、相続に際して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイス、相続税申告まで一括サポート可能です。
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