住宅ローンが残ったまま相続が発生!
陥りがちな4つの誤解とその対処方法 

「父(夫)が住宅ローンを残したまま亡くなってしまった」

こういったケースは決して珍しくありません。

住宅ローンの場合、団体信用生命保険で残債がなくなるケースもありますし、そうでない場合でも相続放棄や限定承認という選択肢もあり、マイナス財産を相続しないことも可能です。

しかし、被相続人と同じ住居に住んでいた場合など、相続放棄や限定承認をした結果、住み慣れた自宅を退去せざるを得なくなったり、相続したものの見ず知らずの相続人と自宅を共有しなくてはならなくなるようなことも起こり得ます。

本記事では住宅ローンが残った状態で相続が発生した場合に陥りやすい4つの誤解とその対処方法についてわかりやすく解説します。

今回のポイント

  1. 誤解その1「家を相続した人は住宅ローンも自動的に全額相続する?」
    1. 被相続人の借金法定相続割合に応じて相続するのが原則
    2. 遺産分割協議とは
  2. 誤解その2「遺産分割協議書があれば債権者(銀行)に対抗できる?」
    1. 債権者(銀行)は全ての相続人に等しく住宅ローンへ返済を請求できる
    2. 実務上は家を相続した人がローンを承継することを銀行は承認することがほとんど
  3. 誤解その3「住宅借入金等特別控除は承継できる?」
    1. 住宅借入金等特別控除とは
    2. 被相続人が受けていた住宅借入金等特別控除を引き継ぎたい!できる?できない?
    3. 忘れないで!相続税の債務控除と準確定申告
  4. 誤解その4「夫婦ペアローン物件の相続は自分だけが相続できる?」
    1. 夫婦ペアローンと団体信用生命保険
    2. 不仲の姑・舅や見知らぬ前妻の子と遺産分割協議!?
    3. 相続した住宅を共有名義に!?大丈夫?
  5. 相続財産が基礎控除の範囲内であっても相続対策は専門家に相談するのがおすすめ

誤解その1家を相続した人は住宅ローンも自動的に全額相続する?

被相続人の借金法定相続割合に応じて相続するのが原則

亡くなった人(被相続人)が負っていた借金は、その借金の中身が住宅ローンであっても事業上の借金であっても、法定相続人が法定相続割合に応じて引き継ぐことが原則です。

この原則に従えば、住宅ローンは必ずしも家を相続した人が全額承継するとは限りません。

しかし、相続人間で住宅ローンの残債を按分したような場合、実際には住宅に住まない相続人にも住宅ローン負担が発生するという不都合が生じます。

遺産分割協議とは

その不都合を避けるために、相続が発生した時には相続人の間で遺産分割協議が行われ、住宅を相続する人が住宅ローンを承継する合意がなされることが多いようです。

遺言がない場合、全ての相続人間で遺産分割協議を行い、最終的に遺産分割協議書に落とし込まれます。遺産分割協議書の内容は、すべての相続人間の合意のもと法定相続割合によらない配分となったとしても問題ありません。

しかし、この遺産分割協議書は住宅ローンの債権者である銀行に対して常に対抗力があるわけではありません。

誤解その2遺産分割協議書があれば債権者(銀行)に対抗できる?

債権者(銀行)は全ての相続人に等しく住宅ローンへ返済を請求できる

対抗とは、発生している事実(遺産分割)を第三者(銀行)に主張することをいい、その主張するために必要な条件を対抗要件といいます。この対抗要件を満たしている場合には「対抗力がある」と表現します。

全相続人の合意のもと作成された遺産分割協議書は銀行に対しいかにも対抗要件になりそうですが、実際はそうではありません。

民法上は仮に遺産分割協議書に法定相続分とは違う割合で債務負担を記載しても、債権者である銀行には一切関係ないとされています。つまり、法律上は債権者である銀行は遺産分割協議書の内容によらず全ての相続人に住宅ローン返済を請求することが可能なのです。

これは相続人間の内部的な合意である遺産分割協議書が銀行にとって不都合な内容になっている可能性があるからです。

例えば、遺産分割協議で意図的に返済余力の乏しい相続人にローンを承継させた結果、返済が滞ったうえに、自己破産などに至ったような場合、銀行はその後の住宅ローン残債を回収できなくなってしまいます。

このようなことは銀行としては受け入れ難い話です。

そのため、法定相続人が複数いるケースで相続が発生した場合、遺産分割協議を経て、相続人全員が住宅に住む一人がローンを承継すると合意していても、債権者である銀行は遺産分割協議書の内容に従うことなく他の相続人の法定相続分を限度として、それぞれに対してローンの返済を請求することが可能とされているのです。

実務上は家を相続した人がローンを承継することを銀行は承認することがほとんど

実務上銀行がすべての相続人に対し、返済請求を行うことが現実にあるのでしょうか?

実際には家を相続した人がローンを承継することを銀行が承認することが一般的です。遺産分割協議書で住宅を相続するとされた相続人が住宅ローンの全額を引き継ぐことを銀行が承認すれば、他の相続人に返済を迫ることはなくなります。

銀行としても引き続き金利収益が確保でき、債権管理の面からも1名の相続人をフォローするだけで済むので、事務負担も軽減されます。

実際には、よほど特殊な場合を除き、銀行は家を相続した相続人が住宅ローンを引き継ぐことを承認するケースが大半といえますが、民法上は相続した人イコール住宅ローンを承継するとは言い切れない点は理解しておく必要があります。

誤解その3住宅借入金等特別控除は承継できる?

住宅借入金等特別控除とは

住宅借入金等特別控除とは、一定の住宅を取得した場合に、その住宅を取得するため金融機関等から借入をした人が所得税の計算上、一定の金額を控除(所得税で控除しきれない金額については一定の金額を住民税から控除)できる制度で、一般に住宅ローン控除と呼ばれています。

住宅ローンの年末残高の0.7%が13年間にわたって所得税から控除(控除しきれない場合は住民税の一部から控除可能)できる制度です。(2022年以降適用の場合。)

仮に年末に4000万円のローン残高があった場合は、4000万円×0.7%=21万円が住宅借入金等特別控除額になります。この21万円が本来の所得税から控除できるため大きな節税メリットがある制度と言えます。

被相続人が受けていた住宅借入金等特別控除を引き継ぎたい!できる?できない?

相続により住宅ローンの残債と併せて自宅を相続した場合に、相続人は住宅借入金等特別控除を引き継げるのでしょうか。

被相続人が団体信用生命保険(団信)に加入していた場合は保険金で住宅ローン残債がなくなりますので、住宅借入金等特別控除もその時点で終わります。

一方、団信に入っていない人が死亡した場合、借入金は残るため、それを引き継いだ相続人が住宅ローンを返済していくことになります。

住宅ローンを引き継いだ相続人にしてみたら、住宅ローンの返済という新たな負担を引き継いだのですから、被相続人が得ていた住宅借入金等特別控除を受ける権利も引き継げるはず。と思うのも無理ありません。

しかし残念ながら住宅借入金等特別控除を承継することはできません。

住宅ローンは被相続人にとっては住宅を取得するための借入金(租税特別措置法第41条)でしたが、相続人にとってはあくまでも相続で引き継いだ借入金であり、住宅を取得するための借入金とは認められないからです。

これは共有名義の場合であっても同様の考え方で、共有名義人であった被相続人の持ち分に対して適用されていた住宅借入金等特別控除をもう一人の共有名義人であった相続人が承継することはできないとされています。

忘れないで!相続税の債務控除と準確定申告

相続税の計算上は住宅ローンを組んで購入した不動産は相続税の課税対象となりますが、住宅ローン残額を債務控除として差し引くことができます。

また、被相続人の準確定申告においては、住宅借入金等特別控除を受けることは可能です。ともに漏らすことなく申告することが必要です。

誤解その4夫婦ペアローン物件の相続は自分だけが相続できる?

夫婦ペアローンと団体信用生命保険

夫婦ペアローンは夫婦の収入を合算して与信審査が行われるため、1人でローンを組むより多くの資金を借りられるというメリットがあります。この場合、夫婦それぞれが独立した債務者となるため、団体信用生命保険(団信)にも夫婦両方が加入できます。

ただし、注意しなくてはならないのは団信で保証されるのはあくまで「各自の債務のみ」という点です。

債務割合が5対5のペアローンでは相続が発生した場合、世帯トータルでみた月々返済額は半減するものの、半分の住宅ローンは残ったままになります。

不仲の姑・舅や見知らぬ前妻の子と遺産分割協議!?

ペアローンを組んだ相手(夫)に自分(妻)以外にも相続人がおり、遺言等がない場合には遺産分割協議が必要になります。

その場合、夫の父母(姑・舅)はもちろん、亡くなった夫に離婚歴があり前妻との間に生まれた子がいるような場合にはその前妻との間の子とも協議しなくてはなりません。

実際に同居していたならまだしも、会ったことすらない人や日頃関係性が円満とは言えない人たちと遺産分割協議を行うのはとてもストレスがかかる作業といえます。

相続した住宅が共有名義に!?大丈夫?

遺産分割協議の結果、すんなりと妻が単独で相続することになればよいのですが、協議が整わなかった場合はどうなるのでしょうか。

代償分割金として相応の金銭を準備することで共有名義とすることを避けることも可能ですが、交付する現金がない場合は、夫の父母(姑・舅)や夫の前妻の子供といった望まない人との共有名義にせざるを得なくなります。

一旦共有名義にしてしまうと、住宅の売却や修繕に際し共有名義人の許可を得なければなりません。煩わしいことが多くなるだけでなく、相続を重ねれば重ねるほど相続関係は複雑になるため、トラブルに発展する可能性が増すと言えます。

様々な観点からみて住宅を他の相続人との共有名義にするのはなるべく避けた方がよいでしょう。

相続財産が基礎控除の範囲内であっても
相続対策は専門家に相談するのがおすすめ

今回ご紹介したような事例では、相続財産が基礎控除範囲内に収まるケースが多く、実際に相続税の納税が必要になるケースは少ないと言えます。

一方で、遺言がない状態で複数人の相続人が存在した場合には相続人間での協議が必要になるなど相続人にとって負担感の多い作業が発生し、協議の結果次第では親族間のトラブルに発展する可能性も否定できません。

トラブルを避けるためには、相続税納付の可能性が少ない場合でもあらかじめ税理士をはじめとする専門家に相談するメリットは大きいと言えます

また、どんな準備を行えばいいのか、どのような遺言が適切なのか、日々相談できる専門家とあらかじめ接点を持っていれば、いざ相続が発生した際の手続きもスムーズに進めることができるようになります。

廣瀬総合経営会計事務所でも、様々な相続に関する相談をお受けしています。

私たちは相続対策のご提案から遺言執行まで、各分野に精通した専門家と連携し、相続に際して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから相続税申告まで一括サポート可能です。

相続や生前贈与に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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