トランプ関税の日本への影響とは?
企業や暮らしへの影響をわかりやすく解説

2025年4月、トランプ氏が発した「トランプ関税」は国際貿易に大きなインパクトを与えています。第2次トランプ政権では、中国だけでなく日本やEUなど主要な貿易相手国にも関税引き上げが打ち出され、日本の中小企業やスタートアップ、個人事業主にとっても見過ごせない状況となっています。本記事では、トランプ関税の基本から、日本への具体的な影響や対処方法を、わかりやすく整理してお届けします。
トランプ関税とは?
基礎知識をわかりやすく解説
トランプ政権が導入した関税政策の背景について
2025年1月に始まった第2次トランプ政権は、かつての”America First(アメリカ・ファースト)”路線を強化し、貿易面でも再び関税政策を前面に押し出しました。
目的は米国国内の製造業保護と雇用創出だとされていますが、中国をターゲットとした制裁的関税だけでなく、米国との間で貿易黒字国である日本やEUに対しても関税引き上げの動きが見られており、前回の政権(2017〜2021年)でも見られた関税を交渉・圧力の材料にする「ディール」の手法が再び活用されていると見た方がよさそうです。
対象となった国と製品(中国・鉄鋼・自動車など)
以下の表は、2025年以降のトランプ関税の主な対象品目と関税率を示しています。
国・地域 | 主な対象製品 | 旧関税率 | 新関税率(2025年〜) |
---|---|---|---|
中国 | EVバッテリー、半導体、医薬品原料 | 〜25% | 当所100%超を提示も、一時的に30%前後に |
日本 | 鉄鋼、EV関連部品、精密機器、自動車 | 0〜5% | 最大25% 追加の可能性も |
EU | ワイン、自動車部品、農産物 | 0〜10% | 最大20%程度に |
※2025年6月末時点の報道に基づく数値
「保護主義」と「MAGA・アメリカファースト政策」の関係について
“Make America Great Again(MAGA)”のスローガンのもと、トランプ政権は保護主義的政策を展開しています。これは一見すると国内産業を守る政策に見えますが、グローバルな供給網を持つ企業にとってはコスト増や市場縮小といった副作用をもたらします。
トランプ関税が日本に与える影響とは?
直接的に受ける影響(関税対象になると想定される日本製品)
以下の表は、日本の主要輸出品が受ける可能性のある関税率の変化を示しています。
製品カテゴリー | 現行関税率 | 想定される新関税率 |
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鉄鋼・アルミ素材 | 約0〜5% | 25〜50% |
EV用バッテリー部品 | 0〜10% | 15〜25% |
精密機械・半導体装置 | 0〜5% | 15〜25% |
自動車 | 2.5% | 最大25% |
※2025年6月末時点の報道に基づく数値 一部発動中の数値も含む
今回の関税政策は中国をターゲットとしたものであることには異論がないと思いますが、日本のお家芸ともいえる精密機械・半導体、そして自動車への関税措置は製品の競争力を低下させるのみならず、サプライチェーンにもマイナスの影響が懸念されています。
間接的に受ける影響(サプライチェーンの混乱・為替・円安・円高)
今回想定されている関税措置は、米国内の雇用創出という側面が強いといえます。そのため、米国現地に生産拠点を構えるメーカー等はその痛みが軽減される一方で、そうしたメーカーに部品等を供給する下請け会社(サプライチェーン)は米国外に拠点を置いてある場合が多く、大きな影響を受けることが予想されます。
サプライチェーン側が価格転嫁できればそのダメージも吸収できますが、メーカー側と合意できない場合はサプライチェーンの収益性は悪化することが見込まれます。メーカー側としても新たにサプライチェーン再編が必要になり、結果として調達コストが上昇する可能性もあります。
こうした中、関税影響で米国市場を回避する動きが広がり、輸出減少から為替相場の不安定化(円安に振れた場合、輸入コスト上昇)といった間接的な影響が生まれる可能性もあります。
米中貿易摩擦を通じた世界経済全体への波及について
消費支出の面では中国、米国ともに大きなマーケットであることは言うまでもありません。
項目 | アメリカ | 中国 |
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名目GDP(2023年) | 約26兆ドル | 約17兆ドル |
民間消費支出(GDP比) | 約68% | 約38% |
民間消費支出(額) | 約17.7兆ドル | 約6.4兆ドル |
この大きなマーケットに関税というコストプッシュがかかるわけですから、世界的な景気減速リスクの懸念はぬぐえません。インフレ加速した結果、株価や投資マインドの冷え込みといった負のスパイラル状態の懸念もあります。
産業別トランプ関税が与える日本企業への影響とは
次に日本の産業に与える影響についてみていきましょう。
産業分野 | 主な影響内容 | 想定される波及効果 |
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自動車業界(自動車メーカー・中古車輸出業者) |
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製造業・半導体産業(電子部品・スマホなど) |
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食品・農業・医薬品分野 |
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建設業・インフラ関連 |
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日本のお家芸である自動車業界はサプライチェーンが多岐にわたることから、影響範囲が最も大きいと予想されています。また、程度の良い日本製の中古車は米国市場でも人気がありますが、影響を受けるのは間違いないでしょう。
さらに、アップル社のiPhoneに代表される米国製品に部品等を納入する製造業・半導体産業への影響も大きいと予想されています。また、食品・農業・医薬品分野では原料・飼料の高騰に伴う価格転嫁が進み、結果として一般消費者がその負担を強いられることが予想されます。
中小企業への影響とは?
こうした素材価格上昇を販売価格に転嫁できない中小企業ほど利益面での圧迫が強まることが予想されます。企業規模が小さく、メーカー側に対する価格交渉力の弱い下請け企業であればあるほど価格転嫁に時間がかかるなど厳しい状況になることが予想されています。
トランプ関税による日本の暮らしへの影響とは
今回の関税措置はまわりまわって我々消費者の暮らしに影響を与えると予想されています。具体的に見てみましょう。
分野 | 主な影響内容 | 家計・生活への具体的影響例 |
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輸入品価格の上昇 | パン・パスタ・食用油など食品の価格上昇 |
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為替変動(円安)による影響 |
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雇用・倒産リスク | 中小・下請け企業の収益悪化・生産縮小・雇用調整の可能性 |
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いずれも日常生活と切り離せない分野の価格上昇が見込まれており、影響は避けられなさそうです。また、企業規模が小さい企業では価格転嫁がうまくいかず、収益性の低下から事業活動が低迷することもあり得そうです。
経済指標への影響と今後の見通しについて
株価・金利・投資信託・NISAへの影響について
トランプ大統領が今回の関税措置(相互関税)についてアナウンスしたのは4月2日のことでした。
途端に、グローバル株式の不安定化を見越した各国の株式市場が一斉に下落し、日本では日経225が▲2.8%、TOPIXが▲3.1%の下落。欧州ではFTSE100▲1.6%、CAC40▲3.3%、DAX▲3.1%の下落、米国でも先物市場でS&P500先物▲3.9%、ダウ▲2.7%、ナスダック100▲4.7%となりました。
翌、4月3日にはさらに急落し、S&P500は▲4.88%(274ポイント)、ナスダック▲5.97%、ダウは▲3.98%の下落になりました。結果、4月2日~4日にかけて米国市場で約10%の下落があり、過去最大級の下げとなりました 。
中でも新興国株や輸出関連株には大きな下落圧力が加わり、債券金利も上下に大きく変動したことで、インフレ懸念・米国債の信認度低下が数字になって表れてきています。
最近NISAを始めた人の中には運用方針の見直しを検討する人もいるかもしれませんが、積立枠を使って投資を行っている人はこうした急落に落ち込むことなく愚直に積み立てを継続する方が将来的に報われる可能性が高いと思います。
GDP成長率・インフレ率への影響について
今回の相互関税発動アナウンスは金融市場の不安定化だけに留まらず、輸出減によるGDPの伸び鈍化にもつながる可能性が高く、実体経済への影響は避けられないと予想されています。
特に、資源価格の上昇によるコストプッシュ型インフレの懸念は日に日に高まっており、一般消費者にそのツケが回ってくる可能性も十分にあります。日本政府・企業としても、担当大臣を毎週米国に派遣するなど、何とか妥協点を見出すための動きを行っています。
また、企業自身も輸出先の多角化やコスト最適化を図る動きが急ピッチで加速しています。具体的には新たな市場、資材貯辰先としてASEANやインドなど新興国市場の開拓を進めると同時に、相対的に関税の影響が少ない地域への拠点移転を含めたコストダウン施策の推進も待ったなしの状況と言えます。
トランプ関税のメリット・デメリット
デメリットの側面が強調される今回の相互関税措置のアナウンスですが、米国が中国製品を排除することにより日本製への代替需要が発生するチャンスがあるのではないか、という側面も指摘されています。
しかし、全体的に見た場合には日本にはデメリットの方が大きいといわざるを得ません。元々日本は輸出に依存した経済が基盤にあり、販売価格転嫁で価格が上昇した結果米国内での競争力は低下する懸念が高い問われています。
日本全体では貿易黒字の縮小、価格転嫁がうまくいかない企業等での国際的なサプライチェーンにおける立場が低下することでの収益性低下などが懸念材料といえます。
トランプ関税に関するよくある疑問
トランプ関税はいつから始まった?
第2次政権下では2025年1月に大統領就任、同年2月から新たな関税措置が順次開始されています。
なぜ日本も影響を受けるのか?
日本は対米貿易黒字国であり、トランプ政権はこれを「不公正」と捉えるため、関税強化の対象となりやすい構造です。
これからどうなる?最新の情勢と今後の展望
EV・自動車分野を中心に、さらなる関税措置が検討されており、日本企業にとって予断を許さない状況です。
税理士視点で考える
関税が企業会計・税務に与える影響とは
関税増加はほぼ原材料価格や販売価格の上昇とほぼイコールです。生産現場では原価率の上昇による利益率悪化することが最大の懸念材料になります。
また、会計上では売上総利益の減少が懸念材料となります。売上総利益の減少は決算に直接影響する内容でもあり、金融機関や取引先との関係性への影響が懸念されます。
こうした原価構成の変化に機敏に対応していくことが今後の経営者の重要なミッションになりそうです。特に取引先に輸出企業等を抱える企業の場合は、その価格設定見直しは避けられず、移転価格税制への対応も迫られることになると予想されます。
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