令和5年度税制改正
ストックオプション税制の見直しで確定申告はどうなる?

政府が示す「成長と分配の好循環の実現」という考え方の中には、NISAの抜本的拡充・恒久化のほか、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化なども含まれます。

令和5年度税制改正においては、資金の集まりにくい創業初期のプレシード・シード期におけるエンジェル投資家からのスタートアップへの出資を後押しする政策としてエンジェル税制の拡充が設けられた一方で、創業後の「事業展開」を後押しする観点からは、ストックオプション税制の見直しも行われました。

この記事では令和5年度税制改正において見直しが行われたストックオプション制度とその税制について分りやすく解説していきます。

今回のポイント

  1. ストックオプションの仕組みとメリット・デメリット
    1. ストックオプションの仕組みと代表的な2類型の特徴
    2. 企業側から見たストックオプション導入のメリット・デメリット
    3. 従業員から見たストックオプション導入のメリット・デメリット
  2. 令和5年度税制改正でストックオプションの権利行使期間が最大15年に延長された背景と狙い
    1. 従来のストックオプションの課題「ダウンラウンドのIPO」「スモールIPO」
    2. 権利行使期間の延長によって得られる効果
  3. 課税関係からみたストックオプション
  4. ストックオプション権利行使・株式売却のタイミングと確定申告は専門家に相談すべき?
    1. 税制非適格ストックオプションの権利行使をしたとき
    2. 税制適格ストックオプションの権利行使をしたとき
    3. ストックオプションの権利行使・株式売却は退職後でも大丈夫?

ストックオプションの仕組みと
メリット・デメリット

ストックオプションの仕組みと代表的な類型の特徴

「ストックオプション」とは、従業員や取締役などが、自社の株(ストック)に対して決められた価格で購入できる選択肢(オプション)のことをいい、日本では1997年の商法改正を経て運用が開始されました。

ストックオプションを得た従業員や取締役は、株価が上昇したタイミングでストックオプションの権利を行使(売却)することで、権利行使価格と実際の株価(時価)との差額をキャピタルゲインとして得ることができます。

そのため、ストックオプションの権利を付与された従業員や取締役は、会社の業績向上による株価上昇がインセンティブになるほか、将来IPOに至った場合など市場で売却することでキャピタルゲインを得られる可能性があることから、企業成長に対してのモチベーションアップにもつながる報酬制度といわれています。

ストックオプションは付与時の対価の面から見ると、権利付与に際して購入費用が発生しない無償ストックオプションと、購入費用負担が発生する有償ストックオプションに分かれます。

ストックオプションの代表的な類型

無償ストックオプション 有償ストックオプション
購入費用 権利が会社から付与される際に付与された取締役・従業員に購入費用が発生しない 権利が会社から付与される際に付与された取締役・従業員が購入費用を負担する
種類 税制適格ストックオプション、非適格ストックオプションのほか1円ストックオプションの3種類がある。 通常の有償ストックオプションのほか、信託型ストックオプションの2種類がある。

企業側から見たストックオプション導入のメリット・デメリット

ストックオプション導入の最大のメリットは人材採用のレベルアップです。

ストックオプションが付与された従業員は、将来的な株価の上がり幅によっては大きなキャピタルゲインを得ることができます。そのため、採用時に支払う報酬が他社より下回っていたとしても、ストックオプションがあることで入社してもらえる可能性が高まり、まだ知名度が低いベンチャー企業であっても優秀な人材が確保できるチャンスが増えます。

また、平成31年度税制改正でストックオプションを付与できる対象が社外取締役や際立ったスキルを有する社外高度人材にも認められるようになりました。

ストックオプションを付与された社外の協力者は権利行使できる前に契約を解除してしまうと、キャピタルゲインを得られなくなってしまうため、長期的な関係を維持する効果のある制度といえます。

一方で、ストックオプションの権利を行使してキャピタルゲインを得てしまうと、その後の仕事のモチベーションが低下して退職してしまう従業員も出てきてしまうかもしれません。

このような理由で優秀な人材が流出するのを防ぐために、役職員のストックオプションの取得と行使を限定する条項(ベスティング条項)を設けている企業もあります。

また、ストックオプションを付与し過ぎてしまうと、既存の株主が保有している株価の価値が下落(株式の希薄化)してしまったり、株式公開後の株価の下落を招くリスクにつながる点にも注意する必要があります。

従業員側から見たストックオプション導入のメリット・デメリット

ストックオプションを付与された従業員側からみた最大のメリットは将来のキャピタルゲインです。ストックオプションは業績が上がり株価が上昇することで、権利行使価格との差額が広がりキャピタルゲインが大きくなるという特徴があります。

会社の業績が上がり株価が上昇すると、株価上昇分に応じて報酬も増えるため、会社をさらに成長させようという社員のモチベーションも高まることは十分に予想できます。

一方で、株価が下がっていくとキャピタルゲインを得られなくなるため、ストックオプションの権利を行使することで得られるキャピタルゲインが目当てで入社した従業員や取締役のモチベーションが低下してしまうことが考えられます。

また、ストックオプションの付与基準や付与額が不明確な場合など、従業員間で不公平感が発生し、仲間内の不和につながることもあるため、しっかりとした社内規定を設けておくことが重要です。

令和5年度税制改正で
ストックオプションの権利行使期間が
最大15年に延長された背景と狙い

従来のストックオプション税制の課題「ダウンラウンドのIPO」「スモールIPO」

改正前のストックオプション制度は税制適格ストックオプションの場合、ストックオプション付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日までに権利行使することが必要でした。

その期間に権利行使をした場合、給与所得(住民税と合算で最大税率55%)としての課税がなく、売却時のキャピタルゲインについてのみ課税(譲渡所得:最大税率約20%)がなされることで、税制上のメリットが大きいとされていました。

中には、その期限内に株式公開を済ませるために、今後の成長戦略や社内体制が不十分なまま公開を行うケースも多く見られました。

その結果、過去の資金調達額を下回る時価総額での公開(ダウンラウンドのIPO)や時価総額50億円程度の公開(スモールIPO)になってしまったあと、その後の株価が奮わなくなるなどステークホルダーが不利益を被る問題が指摘されていました。

ストックオプション権利行使期間の延長によって得られる効果

令和5年度税制改正において、税制適格ストックオプションの権利行使期間上限は15年に拡大されました。

対象となるスタートアップは設立から5年未満の会社で、未上場の会社に限られますが、将来性のあるスタートアップ企業が強引にダウンラウンドやスモールIPOになるような株式公開を行うことを抑制し、より高い成長性を確保した上での上場となることが期待されています。

中でも、科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組みであるディープテックを志向するスタートアップ企業にとっては、腰を据えた人材確保と研究開発に専念できる期間が拡大され、新たな追い風を得たと言えるでしょう。

付与条件・課税関係からみたストックオプション

ストックオプションは付与条件や課税関係から見た場合、1.税制適格ストックオプション、2.税制非適格ストックオプション、3.有償ストックオプションの3つに分けることができます。

3種類それぞれで課税のタイミングと課税の有無、計算方法などが異なります。

この中で特に注意が必要なのは2.税制非適格ストックオプションです。税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時に給与所得として課税された上で、権利行使後の当該株式売却時にも譲渡所得として課税され、合計で2回のタイミングで課税が発生します。

3種類のストックオプションの課税関係をまとめると下表のようになります。

付与条件・課税関係からみたストックオプションの類型

類型 税制適格
ストックオプション
税制非適格
ストックオプション
有償
ストックオプション
概要・要件等
  • 会社法に定められた無償発行である
  • 譲渡禁止規定あり
  • 付与契約時の時価以上の行使価格の設定
  • 税制適格ストックオプションに該当しない、無償のストックオプション
  • 取締役や使用人などが公正価格の計算に基づいた一定額を払い込んで取得するストックオプション
権利行使時の課税 なし あり
給与所得
(退職者の場合退職所得、社外関係者の場合雑所得または事業所得)
なし
譲渡時の課税 あり(譲渡所得)
譲渡益に対して20%(所得税15%、住民税5%)と復興特別所得税

ストックオプション権利行使・株式売却の
タイミングと確定申告は専門家に相談すべき?

税制適格ストックオプションの権利行使をしたとき

税制適格ストックオプションの場合、租税特別措置法の優遇措置を受けるため、ストックオプションの権利行使時点では課税は発生しませんので確定申告も不要です。

税制非適格ストックオプションの権利行使をしたとき

税制非適格ストックオプションの場合、在職中にストックオプションの権利行使を行うと、給与所得とみなされます。課税は発生しますが、会社側が源泉徴収してくれるため本人が確定申告を行う必要はひとまずありません。

ただ、この時点では給与のように現金が支給されたわけではなく、ストックオプションの権利を行使して時価よりも安く自社株式を購入できただけの状態です。まだキャピタルゲインがない状態であるにもかかわらず、給与所得として課税され、納税が必要になります。

さらに、給与とはいえ何の現金授受も発生していませんから会社側も税金を天引きすることができず、権利を行使した人が源泉徴収分相当額の現金を会社に戻し入れするようなことになります。

なお、このストックオプションの権利も給与として評価したうえで年収が2000万円を超えるような場合は確定申告が必要になり、給与所得の場合は累進税率が適用されます。その場合、住民税と合算で税率は最大55%にもなる可能性もありますので注意が必要です。

ストックオプションの権利行使で得た株式を売却したとき

ストックオプションの類型によらず、権利行使して得た株式を特定口座に入庫し、そののち譲渡した時の譲渡益は源泉徴収されるため基本的に確定申告は必要ありません。

ただし、複数の証券口座を保有し、口座間で通算する場合や、他の上場株式との損益通算を行う場合などには確定申告が必要になります。

ストックオプションの権利行使・株式売却は退職後でも大丈夫?

退職・退任後にストックオプションの権利行使を行うケースもあり得ますが、社内規定で権利行使が在職中に限定されているケースもあり、行使するタイミングには注意が必要です、

なお、退職後に権利行使・株式を売却した場合は、退職・退任からの経過日数によって、退職所得または雑所得として確定申告が必要です。

確定申告では、株式の譲渡以外にも所得税全般に関する申告をしなければなりません。確定申告は期限も決まっており、ただでさえ手続きが面倒なものです。スムーズな申告・納税を行うためには税理士をはじめとする専門家のアドバイスがあった方がよいでしょう。

廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、ストックオプション税制をはじめとする資産税に関する様々なご相談に加え、相続に関する相談もお受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから記帳・申告まで一括サポート可能です。

株式の譲渡や不動産の譲渡など資産関連の税金に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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