相続時に海外不動産オーナーが注意すべき点を
税理士事務所が解説

海外で不動産を保有し、長期休暇にはのんびりとリゾートライフを満喫している方もいるかもしれません。しかし、こと相続に関しては国内不動産に比べると様手続きが複雑で、トラブルに発展するケースも少なくありません。

この記事では海外不動産として日本で人気のアメリカ・ハワイ州での例をもとに、海外不動産を保有するオーナーが押さえておきたいポイントについて相続に強い税理士事務所が解説していきます。

海外不動産を保有するとこんなに大変なことが

海外で不動産を保有するメリット

以前は海外に保有する不動産との損益通算ができることがもてはやされた海外不動産ですが、いまは法律改正により、その節税スキームは封印されてしまいました。(後述)それでも、富裕層にとって海外不動産を持つことのメリットはまだありそうです。

まずメリットの第1点目は、将来の売却益(キャピタルゲイン)です。国内不動産よりも高いリターンを狙って投資することのメリットはもちろん、ライフスタイルの変化にあわせて将来移住をする際に移住要件として定められている保有資産の評価としても十分活用できます。

2点目のメリットは、保有する資産の分散効果です。取得した海外不動産を賃貸に供した場合など、米ドルやユーロ建ての収益を得ることになります。

そのため、日本国内にのみ不動産を保有しているのに比べると、通貨分散によるリスクヘッジ効果や地震等の地政学リスクに対する守りの効果も期待できます。

それでも海外不動産を保有することにはリスクがある

こうしたメリットがある一方、海外に不動産を保有するとなると、国内の不動産に比べ、多くの注意点があります。

海外不動産を保有する際の注意点

二重課税などの税務リスク 所得税、固定資産税、キャピタルゲイン税など、現地の税制に精通していないと負担が予想以上に膨らむ可能性があります。また、日本と現地の両国で課税されるリスクがあります。(日本が租税条約を締結している国の場合、一定の範囲で税額控除を利用可。)
管理の難しさ 海外物件の維持管理や賃貸管理は、日本国内物件に比べて困難です。現地の管理会社を利用する場合、費用がかさむこともあります。
為替リスク 購入や賃料収入、売却益が外国通貨で取引されるため、為替の変動リスクが常に存在します。
初期費用の高さ 現地の法律に基づく登記費用や手数料、弁護士費用、その他の諸費用がかかります。加えて、現地融資を受ける場合外国人向けローンの金利は日本国内ローンに比べて高くなる傾向があります。
流動性の低さ 日本国内の不動産に比べ、売却までに時間がかかる場合があります。また、現地の市場や規制によって売却の自由度が制限されることもあります。

特に保有コストは日本国内の不動産に比べ高いことが多く、例えば、ハワイでは外国人が短期賃貸を行う場合、許可が必要になるほか、固定資産税のほか、短期賃貸収入に対する州税(TAT: Transient Accommodations Tax)が課されるため、保有コストを押し上げる要因になっているといえます。

法改正で封じられた個人の節税スキーム

2019年以前、海外不動産の保有メリットのひとつとして、個人富裕層を中心に損益通算による利益の圧縮、節税がクローズアップされたことがあります。

当時は今と比べて円高(110円/1USD前後)だったこともあり、その時期に業者から進められて節税対策として海外不動産を保有した人も多いのではないでしょうか。

確かに、ハワイの不動産のように海外の不動産は、日本の不動産と比較して、実質的な耐用年数が長期(100年)になるため、価値が下がりにくいといわれています。そのため、簡便法を用いて減価償却費の計算をすると、減価償却費を実際の価値よりも早く消化できるため、「赤字を作りやすく、その分、本業などで得た利益を圧縮し節税につなげられる」というメリットがあったのは事実です。

しかし、個人がこのスキームを利用することは「2020年国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例の創設」により、実質的に封じられてしまいました。(法人であれば引き続き簡便法を使用した減価償却が可能。)

海外不動産を所有したまま相続が発生した場合の
手続きはどうなる?

海外にある不動産も相続税の課税範囲に含まれる

日本の相続税は、被相続人または相続人が日本に住所を持つ場合、全世界の資産が課税対象となり、海外不動産もその課税範囲に含まれます。そのため、相続税の申告書を作成し、不動産の評価額を適切に算出する必要があります。

海外不動産の評価方法と二重課税の回避

ハワイでは市場価値を基準とした「アセスメントバリュー」(評価額)が市税当局から提示されています。

しかし、これは目安に過ぎず、海外不動産の評価方法は現地の不動産鑑定士が行うことが多く、その評価額や取引実績を基に日本円換算で評価額を算出する必要があります。専門家に依頼するのですから相応の費用がかかることは覚悟しなくてはなりません。

また、海外に不動産を保有している場合、租税条約を活用して二重課税を防ぐ手続きも重要です。二重課税とは文字通り不動産の所在地である海外と日本の両方で相続税(遺産税)がかされることです。日米間では租税条約が適用されていますので、現地で支払った税額を日本の相続税から控除できます。

しかし、この手続きは極めて煩雑になりますので、海外資産の相続に精通した税理士等の専門家に依頼することをお勧めします。

海外不動産(米国)の相続で必要な「プロベート(Probate)手続き」

加えて、海外不動産を所有したまま相続が発生した場合、相続人は日本国内外で複数の手続きを行う必要があります。海外で行うべき手続きの代表的なものが「プロベート手続き」と呼ばれる裁判所で遺言書の有効性を確認し、遺産を分配する法的手続きです。

ハワイ州に賃貸不動産を保有していた被相続人が死亡した場合この「プロベート手続き」の対象となり、この結果を踏んだあとでないと、所有権を相続人の名義に変更でないことはもちろん、賃貸契約や管理契約の引き継ぎもできないことになります。

このプロベート手続きは短くても6カ月間程度、遺言書がない場合などはさらに時間がかかり、中には2年程度を要することも珍しくありません。日本にいながらこの手続きを自力でやり終えるのは困難を極めるといえます。

かといって、専門家にこの手続きを依頼するとなると費用面の負担が発生します。加えて、被相続人の情報を一定期間公開することになるなど、相続人にとってはストレスが多い作業になることは容易に想像できます。

プロベート(遺産検認手続き)を回避する
代表的な3つの方法

このように煩雑さを極めるプロベート手続きですが、この手続きを回避し海外不動産の相続をスムーズにできる方法がいくつかあります。

プロベート手続きを回避する方法

リビングトラスト(Living Trust)の活用 被相続人が生前に自らの資産を信託財産として設定し、信託契約に基づいて管理・運用する仕組み。被相続人の死亡時、トラストに入れた財産はプロベートを経ずに受益者に移転されるほか、被相続人が信託の管理者として財産を自由に運用できるなど自由度も高い仕組み。
トランスファー・オン・デス・ディード(TOD Deed)の利用 ハワイ州では「Transfer on Death Deed(死亡時移転証書)」を使用して、被相続人の死亡後不動産を特定の受益者に移転することができる。遺言書に極めて近い効力を持つほか、撤回はいつでも可能。
Joint Tenancy(ジョイントテナンシー)の設定 所有者の一人が死亡した場合、その持分は他の共有者に自動的に移転できるサバイバーシップ(Survivorship)を付与することでプロベート手続きを回避できる。購入時の不動産契約書や登記記録にその旨を明記する必要あり。

このほかにも、所有者を法人にしておくことでプロベート手続きを実質的に回避する方法などもあります。

ただ、実際の手続きにおいては外国語での対応が必要であることに加え、海外・日本国内双方の相続に通じていることが求められるため、自力でやりきることはかなり困難な作業になることは間違いありません。

海外不動産は生前に整理すべき3つの理由

海外に保有する不動産を生前に整理するかどうかは、個々の状況や意向に大きく依存します。しかし、多くの場合以下の理由から生前に整理を検討した方がこと相続においてはスムーズさが増すといえます。

理由その1相続手続きの複雑さを軽減できる

海外不動産は現地の法律(相続法、登記制度、税制)に基づいて処理されますが、これが非常に複雑です。特に遺産分割やプロベート手続きが必要になる場合、時間と費用がかかります。

また、相続人が海外で不動産を管理・売却する手続きは、言語の壁や現地の制度が壁になり、大きな負担が生まれる可能性があります。

理由その2税負担の最適化と単純化を図る

不動産に限らず、海外で資産を保有した状態で相続が発生すると、二重課税のリスクが生まれ、現地の相続税(または遺産税)と日本の相続税の両方が適用される可能性があります。

生前に売却し、日本国内で管理可能な資産に換えることで、税務処理が単純化します。

理由その3生前に海外不動産を整理することで資産評価のリスクを軽減

海外不動産の評価額は為替レートや市場動向で変動します。生前に整理しておけば、相続時に予期せぬ高額な相続税が発生することを回避できます。

それでも課税からは逃れられない
迷ったときは専門家に相談しましょう

生前に海外不動産を処分したからと言って売却に伴う譲渡益課税から逃れることはできません。ハワイに所有する不動産を売却した場合、アメリカ(ハワイ州)と日本の両国で課税が発生する可能性があります。また、売却代金を日本に送金する場合も、追加の税務処理が必要な場合があります。

まず、アメリカでは不動産を売却して得た利益に対してキャピタルゲイン税が課されます。さらに、外国人がアメリカの不動産を売却する際、売却価格の15%がFIRPTA(外国人譲渡益税控除)として源泉徴収されます。

さらに、ハワイ州では、売却価格の7.25%がHARPTA(ハワイ州譲渡益税控除)として源泉徴収されます。

ここに日本での課税が加わります。日本では、全世界所得課税の原則により、海外不動産の売却益も課税対象となり譲渡所得税が課されます。(アメリカ・ハワイ州で支払ったキャピタルゲイン税は、日本で外国税額控除として申告することで、二重課税が調整されます。)

このように海外不動産の売却と税務処理は非常に複雑です。ここに相続が加わるとその複雑さはより増すことになります。

手続きをスムーズに進めるためにも、日米双方の相続手続きに通じた専門家に事前に相談することをお勧めします。廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、海外に資産をお持ちの方の税務申告に関する様々なご相談に加え、相続に関する相談をお受けしています。

また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから記帳・申告まで一括サポート可能です。不動産をはじめとするなど海外資産の税金に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。当事務所の対応エリアは以下の通りです。

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