人気の就業不能保険が販売停止になった理由とは
2024年11月、国内最大手の生命保険会社が就業不能保険の新規販売を停止するというニュースが流れました。
まずまずの販売実績があった商品であるにもかかわらず、発売からわずか4年足らずで販売中止に至ったことに業界内でも驚きの声がある一方で、「やはりそうなったか」という声もありました。
本記事では保険商品が販売停止になる理由やその背景について解説していきます。
就業不能保険の基本的な仕組みと
販売停止に至る経緯
就業不能保険の基本的な仕組み
生命保険会社が提供する就業不能保険は、病気やケガで働けなくなった場合に、収入の減少や喪失を補うための保険で、多くの保険会社から発売されています。
就業不能保険単体で加入できる商品はもちろん、死亡保障商品やその他の医療保険等とセットで加入できる商品もあり、加入者が徐々に増えてきています。一般的な就業不能保険では以下のような条件が満たされた場合に保険金支払いの対象となります。
所定の就業不能状態になった | 病気・ケガで一定期間以上、働けない状態が続いた場合 |
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保険会社が定める傷病で治療・入院した | 脳卒中、がん、心疾患など特定の病気やケガが対象となり、治療・入院した場合 |
保険金の支払方法は、就業不能期間中に「毎月定額給付型」と、一定の条件を満たした場合に一括でまとまった金額が支払われる「一時金型」の大きく分けて2つの方法があり、今回販売停止になった商品は「毎月給付型」と「一時金型」両方の要素を持った商品性でした。
販売停止になった就業不能保険の概要
今回販売停止になったことで話題を呼んだ就業不能保険の最大の売りは、低廉な保険料と14泊15日の入院で6ヶ月分の一時金を受け取れることでした。
具体的には、傷病または骨髄幹細胞の採取術のため1日以上の入院日数が14日に達した場合、定めた月額給付金の6ヶ月分が一括で受け取れることです。仮に月額15万円の同商品に加入している人が14日間入院した場合、15万円×6回=90万円の給付金を請求できることになります。
さらに、別の病気による入院があった場合は、最大給付金を10回まで受け取れるというものでした。逆の見方をすれば、同商品は14日に満たない短期間の入院では保険金請求の対象にはなりません。(入院した際の入院日額や手術給付金は組み合わせた医療保険から支払われることになります。)
また、40歳男性で給付金月額を15万円、保険期間10年で設定した場合、就業不能保険単体の月払保険料は2,700円程度と手ごろな価格になっているのも人気化した理由の一つといえそうです。
保険商品の販売停止の背景にある
「モラルリスク」の存在
給付金を受け取れる「14泊15日」の入院事例が国民平均の約2倍に!?
前述の通り、手ごろな価格で充実した保障が得られることから、この商品は就業不能保険としてはまずまずの販売実績だったとみられています。
しかし、給付金を受け取れる「14泊15日」の入院事例が国民平均の約2倍に達し、予想を超える保険金請求が相次いだことから、一部の加入者が給付金を多く受け取る目的で入院期間を延ばしている可能性が指摘されました。
この状況を受け、保険会社は2025年1月2日をもって同商品の新規販売を停止することを発表しました。
保険会社が最も嫌う「モラルリスク」とは
モラルリスクは「道徳的危険」とも言われ、文字通り悪意のある保険加入者が保険金や給付金を不正な目的で取得しようとするなどして保険制度を不正に利用しようとすることです。
皆さんが仮にこの就業不能保険に加入しており、入院することになったケースで想像してみてください。治療のための入院が当初20日間程度の予定と告げられたので、この保険金を受け取れると想定していたところ、回復が思いのほか速く、13日目で退院できるとなった場合、皆さんはどう考えるでしょうか?
14日間入院すれば90万円、13日目で退院したら0円・・・大きな違いですね。
今回のケースでは14日の入院日数を待たずに退院できるにもかかわらず、何らかの形で入院日数を支払事由に該当させるために意図的に入院日数を伸ばしたケースが多発し、想定以上の保険金支払いが発生したことが販売停止の大きな要因になったと考えられています。
モラルリスクの具体例と排除に向けた取り組み
モラルリスクは保険制度そのものの存続そのものを脅かしかねないことから、このリスクを業界全体で監視する仕組みがあります。
生命保険の場合、社団法人生命保険協会が対策として「契約内容登録制度」や「契約内容照会制度」、「支払査定時照会制度」などを実施しています。
関連サイト一般社団法人生命保険協会
下表にモラルリスクの代表例をまとめてみました。損害保険でも偽装事故や過剰請求事例の発覚で社会的に大きな批判を受けた会社があったことも記憶に新しいところですね。
偽装事故 | 自分で事故を起こし、虚偽の情報を基に保険金を請求する |
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過剰請求 | 実際の損害額よりも高額な保険金を請求する(修理費用の水増しなど) |
不正な病気・ケガの申告 | 実際には病気やケガがないのに、それを装って医療保険や傷害保険の請求を行う |
過失や自損事故の隠蔽 | 保険契約者が、自己責任で起こした事故や損害(例:自損事故、飲酒運転)を隠して、他の原因による事故として申告し、保険金を請求する |
既存の病歴の隠蔽 | 契約前に存在した病歴や健康問題を故意に隠して契約し、後に治療費や死亡保険金を請求する |
モラルリスクの排除は保険会社・契約者双方にとってメリット大
保険契約時の引受け審査(診査)において、保険の引受会社は契約者の健康状態を十分に確認し、既往歴の告知を求めますし、加入時の告知内容が虚偽の者であった場合には保険金が支払われなくなることを契約者に告知することも義務付けられています。
また、契約者側は引受会社の求めに応じ、正しい告知を行う義務があります。こうした引受会社・契約者間の誠実な義務履行は保険会社の健全性維持と将来の保険金支払いを確実にする礎と言っても過言ではありません。
つまり、モラルリスクを排除することは保険会社・契約者双方にとってメリットが大きいのです。
また、最近では保険金請求があった場合に、不正請求を検出するために、AI(人工知能)やデータ分析を活用して、不自然な請求パターンを特定するなどの対策も始まっており、モラルリスクを排除するための手法は日々進化しているといえます。
保険商品が販売停止となる原因は
モラルリスクだけに限らない
保険商品が販売停止となる原因はモラルリスクだけに限りません。実際、貯蓄タイプの商品を中心にここ十数年来の低金利環境下で思うような運用ができずに販売を停止した例も多いほか、当局の規制方針などが変わり、既存の保険商品では新しい規制に適応できずに販売停止となったこともあります。
さらに、為替や金利の変動によって予想外のリスクを抱えることになるとの見通しから変額保険や外貨建て保険といった資産形成タイプの商品が販売停止となった例もあります。保険、とくに生命保険は家の次に高い買い物とよく言われます。せっかく加入するのであれば安心して加入できる商品と引受会社を選びたいものですね。
就業不能保険で保険金を受け取ったときの税金は?
迷ったときは専門家に相談しましょう
入院給付金や手術給付金といった「不慮の事故や疾病などにより受け取れる給付金」を被保険者本人が受け取る場合には税金はかからない、つまり非課税となっています。就業不能給付金も同じくくりになっており、受け取った保険金・給付金は非課税となっています。
関連サイト所得税の法令「所得税法施行令第30条第1号」
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