起業直後の役員報酬の決め方について
高すぎても低すぎてもダメ?

役員報酬とは、取締役や監査役といった役員に対して支給される報酬のことをいいます。

オーナー社長や1人社長の場合、役員報酬の額は社長の一存で決めることも可能ですが、役員報酬が会社の利益調整に使われたりする可能性を排除するために、法人税法や会社法では役員報酬について様々なルールが設けられています。

一方で創業のタイミングでは、まだ利益の見通しがはっきせず、役員報酬を決めることはとても悩ましい話でもあります。

この記事では起業を検討している方や、法人成りを検討している個人事業主が役員報酬を決めるときに押さえておきたいルールや注意点について分りやすく解説していきます。

今回のポイント

  1. 押さえておきたい役員報酬の基本ルール
    1. 役員報酬の位置づけと決定のためのプロセス
    2. 役員報酬は「定時定額給与」が大原則 税務署への届出も忘れずに
    3. 会計年度中の役員報酬額変更が認められるケースと認められないケース
  2. 役員報酬額を決めるための原則と参考指標
    1. 役員報酬額決定の大原則は会社収益予測から
    2. 同規模の同業他社と比較して役員報酬決める方法
    3. 社会保険料・所得税の最適化の観点から役員報酬を決める方法
  3. 役員報酬はいろんな方角から見られている? 様々なステークホルダーからみた役員報酬
    1. 銀行は役員報酬をこう見ている
    2. 民間信用調査会社の付ける評点には役員報酬額も加味される
    3. 税務署は役員報酬をこう見ている

押さえておきたい役員報酬の基本ルール

役員報酬の位置づけと決定のためのプロセス

役員報酬は、会社から役員に対して支払われる人件費です。
そのため役員報酬は経理上、「費用」として処理します。また、妥当な役員報酬は税務上「損金」となります。

しかし、同じ人件費であっても従業員に支払う給与とはその性格が異なります。例外なく損金にできる従業員への給与とは異なり、役員報酬は損金算入が認められないケースがあります。

また、役員報酬には、「割増賃金」、「最低賃金額適用」、「日割り計算で支払う」といった概念は存在しません。

役員報酬を決める手順は、株主総会の決議⇒取締役会の決議⇒税務署への申請のプロセスが基本ですが、1人社長の場合は株主も実質一人のケースが多く、株主総会決議や取締役会決議を省略し、みなし決議で決定することも多く、実質社長自身が決めることになります。

また、新たに会社を設立した際には設立日から3カ月以内に役員報酬を決めなければいけません。

役員報酬は「定時定額給与」が大原則 税務署への届出も忘れずに

正式な手続きを経て決定した役員報酬であっても、原則から逸脱すると「損金」として認められないことがあるので注意が必要です。

1つ目の大原則は「定期同額給与」とすることです。一旦決めた役員報酬は原則として1年間毎月一定額を支払うことが損金算入の要件となります。

仮に長時間労働したからと言って、その額が増えることはありませんし、長期入院するなどして業務に従事できないことがあったとしても原則として減額されることもありません。

2つ目の大原則は「事前確定届け出給与の税務署への提出」です。この届け出を提出しておくことで、所定の時期に支払われる役員賞与なども損金算入が認められるようになります。

ただし、一旦届け出た金額や支払い日等は同じ会計年度中は変更することはできません。

会計年度中の役員報酬額変更が認められるケースと認められないケース

思った以上に利益が出そうだからと言って、役員報酬の額を会計年度中の任意の時期に増額することはできません。

役員報酬額の変更にはあくまでも定時株主総会の決議が必要で、役員報酬を変更するには来期の定時株主総会での決議を待たなくてはなりません。

一方、減額については一定の条件を満たした場合に認められることがあります。

役員の職務上の地位に変更があった場合や、会社の経営状況が著しく悪化して止むを得ないようなときなどは臨時改訂事由にあたるとされ、役員報酬を減額することもできることとされています。

役員報酬額を決めるための原則と参考指標

役員報酬額決定の王道は会社収益予測から

役員報酬額は、その金額によって会社の利益がひっ迫することがないように会社の収益予測に基づいて決定するのが王道です。ただ、創業間もない企業の場合、収益見通しに確信が持てず、果たしていくらの役員報酬が妥当か判断しきれないことも十分あり得ます。

また、会社収益への影響を気にするあまり過少な役員報酬とした場合は、社長自身のモチベーションが上がらない可能性が高くなり、かといって過大な役員報酬設定は社内外からあまり好い印象を持たれない可能性が高くなります。

同規模の同業他社と比較して役員報酬決める方法

創業間もない企業が役員報酬を決める際、同業種・同規模の他社を参考にすることも一つの手段です。

同業種・同規模の他社の役員報酬に対し、自社の役員報酬が大幅に高かったりすると、会社の利益圧迫要因になる可能性があることに加え、税務署から過大な役員報酬とみなされ損金への計上を否認される恐れもあります。

国税庁が毎年公表している民間給与実態統計調査では資本金額ごとの役員報酬のデータが見て取れますので、参考にするのもよいでしょう。

社会保険料・所得税の最適化の観点から役員報酬を決める方法

法人の場合はたとえ創立間もない法人であっても、社会保険(厚生年金保険および健康保険)の加入が法律で義務づけられています。

社会保険料は、役員報酬の毎月の支給額である報酬月額ごとに健康保険料・厚生年金保険料の金額が定められ、1?50等級までに区分されています。保険料は、1等級が最安で、報酬月額が63,000円未満にすれば最安の1等級に該当します。

東京都の協会けんぽの場合、1等級の会社・役員が折半で拠出する保険料合計は月額5,689.9円(介護保険第2号被保険者に該当する場合6,641.0円)、厚生年金保険料は月額16,104円となっています。

つまり、役員報酬の月額を63,000円(年額756,000円)未満の水準とすれば社会保険料の最適化が図れることとなります。

一方、所得税はどうでしょう。仮に、役員報酬を月額63,000円(年額756,000円)とした場合、給与所得控除55万円を引いたとしても、約20万円の所得があることになり、所得税は発生します。

所得税は会社が源泉徴収をした上で納税する必要があるため、会社としても事務負担が増加することになります。1人社長が社会保険料・所得税の両面から最適化を図るためには、役員報酬を給与所得控除と同額の年間55万円とするという選択肢は十分あり得ます。

事実、所得税・社会保険料を最適化するために、個人事業を継続しつつもあえてひとり社長として別事業をミニマム法人に移すケースも増えてきています。

役員報酬はいろんな方角から見られている?
様々なステークホルダーからみた役員報酬

銀行は役員報酬をこう見ている

「銀行は口座取引のみで、借入なんて予定していない。」

現段階ではそうであっても、役員報酬が銀行からどう見られるのかは知っておいた方がいいでしょう。銀行が融資を行う際に会社を評価する最大の基準は、「どれだけ返済能力があるか」です。

そのため、銀行に融資を申し込む際には通常2期~3期分の決算書を用意して、財務内容や事業計画の説明をする必要があります。

役員報酬が極端に少ないけれども決算は良好な企業、極端に役員報酬を多く取っているので赤字の企業。決算書を見た銀行がどちら企業を融資先として高く評価するかは一概に言い切れませんが、将来の借り入れも視野に入れた銀行との取引を行うためには、あまりにも極端な役員報酬の設定は避けた方がよいでしょう。

民間信用調査会社の付ける評点には役員報酬額も加味される

帝国データバンクや東京商工リサーチといった信用調査会社は、決算書の内容や事業内容などからその企業の信用度をスコア化します。そして、そのスコアは一般に「評点」と呼ばれます。

この評点を付ける際には「役員報酬額」も評価の要素になると言われています。仮に会社利益を優先させるために役員報酬が意図的に低く設定されていたとしても、そのために評点が下がることはあり得るのです。

取引の相手先がこうした民間調査会社がはじき出した「評点」をもとに取引可否を決定することはごく一般的なことです。もしB to Bのビジネスで取引拡大を展望する場合にはある程度の役員報酬を取っておいた方がよいと言えます。

税務署は役員報酬をこう見ている

役員報酬の額は一度決めたら原則としてその会計年度中は変更することができません。

また、事前に「事前確定届け出給与」を税務署に提出しているからと言って、税務署がその金額が妥当だとお墨付きを与えたわけではありません。

会社が支払った役員報酬額が「不相当に高額である」と税務署が判断すると、「その高額な部分」の金額は損金に算入されません。つまり高額だと判断された分に関しては、課税される可能性があるということになります。

だからと言って役員報酬を低く抑えると、会社に利益が残り、法人としての納税額が増えることになってしまいます。悩ましい問題ではありますが、税金対策という側面からも役員報酬は慎重に決定したほうが良いと言えます。

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