退職一時金の税制について
確定申告・注意点・増税の可能性を解説

永年会社勤めを続けてきた人が、最後に手にする大きな報酬といえば「退職一時金」です。給与の後払い、という性格も持ち合わせる退職一時金にはこれまで税制上様々な優遇策が施されてきました。

しかし、この退職一時金を巡る税制が大きく動こうとしています。この記事では退職一時金の税制上の優遇策と注意すべき点、今後の改正に向けた動きについて分りやすく解説していきます。

退職金は税制上優遇されているってホント?

退職一時金にかかる税金は3種類

退職一時金とは、通常の給与や賞与とは別に雇用主から支払われる金銭のことで、受け取り時に税金が課せられます。具体的には支給時に以下3種類の税金が課せられます。

所得税 個人の所得に対してかかる税金で、1年間の全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用し税額を計算する。
(個人)住民税 市区町村(都道府県)に住む人たちが、地域社会で使用される費用、公共サービス費用を分担するためのもので、「市町村民税」と「道府県民税」がある。
復興特別所得税 所得税額に対する付加税で、平成25年から令和19年までの各年分の基準所得税額の2.1%が課税され、所得税と併せて申告・納付する。

退職一時金は退職所得控除で優遇されている

退職所得控除とは、勤続年数に応じて退職金から差し引ける控除制度のことです。この退職所得控除は勤続年数に応じて毎年増加しますので、勤続年数が長くなれば長くなるほど、

控除額が多くなる=納税額が減る=手取り額が増える

という性質を持っています。退職所得控除の額は以下の算式で計算します。

退職所得控除額の計算式

勤続年数 控除額
20年以下 40万円×勤続年数
21年以上 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

ご覧の通り、20年を超えるとさらに控除額が増える仕組みとなっており、長く勤めれば勤めるほど手取り額が大きく増える仕組みであることが分かります。

退職一時金は2分の1分離課税で優遇されている

退職所得は2分の1分離課税方式が採用されています。退職する際に支給される退職金(退職所得)は、老後の生活資金として必要になると考えられていることから、退職所得控除を差し引いた残額に2分の1を乗じて評価した上に、他の所得と分離して課税する方式を取ります。

退職所得控除を引いたうえに、さらに半分の評価になるわけですから、他の所得に比べ大きく納税額が減少します。

また、他の所得と切り離され、分離課税となるため、結果的に社会保険料などへの影響も避けることができます。具体的には以下の算式で課税退職所得額は求められます。

課税退職所得額=(退職金額-退職所得控除額)×1/2

ここで求められた課税退職所得額に対し、税率をかけ、控除額を差し引くことで所得税額が決まります。

また、復興特別所得税は、上表で求められた所得税額に2.1%をかけることで、住民税は、課税退職所得額に対し一律10%(市町村民税(特別区民税)6%、道府県民税(都民税)4%)の税率をかけることで求められます。

退職金の確定申告は原則不要
しかし確定申告した方がお得なケースも

退職一時金への課税は分離課税方式ですので、受給時に課税関係は完結しています。そのため、退職一時金について改めて確定申告をする必要は本来ありません。

しかし、中には確定申告をすることでメリットがある場合があります。以下3つの例を見ていきましょう。

ケースその1退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合

「退職所得の受給に関する申告書」とは、会社を退職して退職金を受け取る時に、退職前に勤務先に提出する申告書のことを指します。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していないと、前述の退職所得控除が適用されない上に、2分の1分離課税の対象にもなりません。そのため、退職金の受給時に退職金の20.42%の所得税等が源泉徴収されてしまい納税額が高くなっている状態にあります。

これは実務上仮に徴収されているだけとはいえ、確定申告をしないままでいると、払い過ぎた税金は戻ってきませんので注意が必要です。

ケースその2年の途中で退職し、年末調整をしていない場合

退職一時金を受け取れるのは何も定年退職した人だけに限りません。年の途中で転職した人や独立・起業のために退職した人も退職一時金を受け取れます。

給与所得者は一般に給与や賞与の源泉徴収でいったん所得税を納め、年末調整で正しい納税額を確定させることが一般的で、社会保険料控除や扶養控除、基礎控除などの所得控除も年末調整時に適用されます。

ただし、年の途中で退職した結果、年末調整がなされていないままだと、源泉徴収税として天引きされていた所得税が精算されないままであったり、所得控除が適用されなかったりと所得税を納めすぎたままになっている可能性があります。

この場合、退職所得を含めた確定申告を行うことで納めすぎた所得税が還付される可能性が高くなります。

なお、退職後に失業保険を受け取っている場合であっても、失業保険に所得税は発生しないので失業給付金の確定申告する必要はありません。

ケースその3不動産所得や事業所得があり、赤字が発生した場合

退職した年に不動産経営で赤字が発生したり、退職後にはじめた事業の所得が赤字になったりしたなどの場合、確定申告で退職所得と損益通算することで、納めすぎた所得税を取り戻す可能性があります。

この場合、退職所得と損益通算する前に、給与所得、配当所得、雑所得と損益通算し、それでも損益通算しきれない赤字がある場合にのみ退職所得と損益通算できます。

退職金の手取り額は
タイミングで変動するので要注意

早期退職がデメリットに?退職一時金と起業型DC・iDeCoを併用している人が注意すべきこと

様々な理由があって一般的な定年退職時期(60歳)を待たずに会社を早期退職した人も、もちろん退職一時金を受け取ることができます。中には一定程度の早期割増退職金を得ることができる人もいるかもしれません。

定年を待たずに退職した場合も受け取った退職一時金であっても、在職年数に応じた退職所得控除や2分の1分離課税はもちろん適用され、税優遇を受けることは可能です。

一方で、企業型DCやiDeCoを併用していた人は注意が必要です。

企業型DCやiDeCoといった確定拠出型年金は制度上原則60歳まで受け取ることができず、その積立金を60歳到達時に一時金で受け取ろうとした場合、退職所得控除が使える期間に制限が入ってしまうのです。

これは、退職所得控除が退職所得を合算した金額に適用されるルールがあるために起こるもので、早期退職一時金を先に受け取り、間をおいてiDeCoで一時金を受け取る場合、「前年から19年以内」に受け取った退職一時金が退職所得控除の合算対象になってしまうために起こるデメリットです。

これから早期退職を展望し、退職一時金を受け取ったあとでiDeCoからの給付金を受け取る場合は、こうしたデメリットもあることを念頭に、iDeCoは一時金と年金にわけて受け取るなどしっかりとした計画を立ておいたほうがよいでしょう。

勤続年数が5年以下の役員等への退職金「特定役員退職手当等」は1/2課税の恩恵なし

役員等としての勤続年数が5年以下の人が、その勤続年数に応じた退職金を受け取る場合、「特定役員退職手当等」に該当すると、退職金の額から在職年数に応じた退職所得控除額を差し引いた額がそのまま退職所得の金額になります。(5年ルール)

すなわち課税所得額が2分の1されないため、一般的な会社員の退職所得に比べると税負担が大きくなることを意味します。

これは、平成24年度税制改正により設けられた制度で、元々は、公務員が民間に天下り、短いサイクルで役員退職金を受け取ることを規制する目的で導入されたものですが、一般企業の役員のほか、国会議員や公務員なども該当しますので注意が必要です。

役員だけじゃない!令和3年度年税制改正で5年ルールは一般社員にも対象拡大

公務員の天下りを規制する目的で導入された「5年ルール」は令和3年度税制改正によって、一般の社員にも拡大されました。

特定役員退職手当等に該当しないもので、勤続年数5年以下の従業員が退職する時には、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額のうち、課税退職所得金額300万円を超える部分には2分の1課税が適用されなくなってしまいました。

退職所得課税の見直しで
退職金の税制メリットが大きく減少する?

退職所得課税の見直しは中高年には辛く、若年層には追い風になる?

短期退職手当等の新設で、転職者の減少が懸念される一方、勤続年数が20年以上になると、1年あたりの退職所得控除の割合が増える制度は存続していることから、依然として永年勤続の人が有利な税制であることが分ります。

ただ、永年勤続者が優遇される現在の制度では人材の流動性やスキルアップの機会が損なわれてしまうため、社会的な損失につながることは明らかです。

令和5年4月、岸田総理大臣を議長とする「第16回新しい資本主義実現会議」でも退職所得課税制度の見直しが俎上に上りました。

具体的な制度設計の見直し方法や時期については触れられていませんが、人材の流動化を促進する観点からも現在優遇されている「勤続20年超」の退職所得控除の取り扱いが最大の焦点となることが予想されています。

同時に、令和5年6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2023 について(骨太の方針)」でも、現在の退職金税制が永年勤続者優遇に偏るあまり、「自らの選択による労働移動の円滑化を阻害している」ことも指摘しており、自己都合の退職金が減額される労働慣行の見直しも求めています。

仮に、20年超の優遇が無くなった場合、永年勤続した人が受け取る退職一時金の手取り額は減ることが見込まれます。中高年には辛く、若年層に追い風になる税制改正を前に、改めて働き方や将来の生活設計などを考える機会が近々訪れるかもしれません。

人生初めての確定申告はどうすればいい?

会社を定年退職し、退職一時金を受け取るタイミングで初めて確定申告を行う、という人もいるかもしれません。

今まで年末調整の時に生命保険料控除の書類を出す程度だった税金とのかかわりが、退職後は全て自分で対応する必要が出てくるため、戸惑う人も多いのではないでしょうか。

退職一時金関連のスムーズな申告・納税を行うためには税理士のアドバイスがあった方がよいかもしれません。

廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、個人の確定申告に関する様々なご相談お受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから記帳・申告まで一括サポート可能です。

初めて確定申告する時など確定申告に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。当事務所の対応エリアは以下の通りです。

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