成長確保への追い風!事業主から見た所得拡大促進税制の改正・延長
<今回のポイント>
- 令和4年(2022年)税制改正で改正・延長された所得拡大促進税制 その概要と新旧制度の比較
- 所得拡大促進税制活用のリスクと適用に際しての注意点
- 節税効果の具体例、制度活用で期待される効果と留意点
従業員の給与を増やしてモチベーションをさらにアップさせたい。
教育機会を増やして、社員のレベルアップを図り、さらなる成長機会を提供したい。
中小企業のオーナーの多くが従業員の成長と幸福度アップを心から願っている一方で、利益が出ているにもかかわらず、固定費の増大を懸念して従業員の給与などを据え置いているオーナーもいるのではないでしょうか?
確かに給与は一旦上げると下げることは難しく、固定費として重くのしかかってくる可能性があることも事実で、従業員の賃金をどうするかは難しい経営判断のひとつと言えます。
今回改正となった所得拡大税制は、中小企業などが、全体の雇用を守りつつ積極的な賃上げや教育訓練などの人材投資を促す観点から適用期限が1年間延長され2024年3月31日までになるとともに、内容の見直しが行われ、税制において、雇用を守り、賃上げや目指す企業を下支えする制度として税額控除割合がアップするなどの拡充が図られました。
従業員のモチベーションアップと事業の成長確保を目指して所得拡大税制の活用を検討してみてはどうでしょう。
1.令和4年(2022年)税制改正で改正・延長された所得拡大促進税制 その概要と新旧制度の比較
(1)所得拡大税制延長・改正のポイント 新旧制度の比較
所得拡大促進税制は法人や個人事業主が従業員に支払う給与等を前年度給与よりも増加させた場合、その増加した分の一部を法人税、または所得税から税額控除できる制度として従来から実施されていました。
ただ、従来の所得拡大促進税制は中小企業においても前年度から継続して雇っている人の給与の総額が増加したか否かにより判断されたため、たとえ決算書の前期比較で給与項目が増加していても適用できないケースがあり得るという使いにくさが指摘されていました。
令和4年の見直しでは継続する雇用者だけではなく、新規の雇用者も含む全体の給与総額が適用の要件となり実質的に要件が緩和されました。
前年度と比較し雇用者の賃金を1.5%以上増やせば、増やした分の15%分を法人税額(個人事業主の場合には所得税額)から減らします。
さらに、総額を2.5%以上増やせば控除率を15%拡大し、また、教育訓練費を10%以上増やすと10%上積みされあわせて最大40%の税額控除となり、従来の税額控除割合上限である25%から大きく増加しました。
改正後の制度では、各適用要件が独立したことや、税額控除上乗せの際の要件であった「認定を受けた経営力向上計画の実施とその証明」が要件から外れたこと、さらに教育訓練費明細の添付義務が保存義務に緩和されるなど利用しやすさも向上しています。
<比較表:所得拡大税制の新旧制度比較>
旧制度 | ポイント | 新制度 |
---|---|---|
雇用者給与支給額が前年度比で1.5%以上増加 ➡控除対象雇用者給与等至急増加額の 15%を税額控除 |
適用要件 税額控除割合※ともに法人税額の20%が上限 |
雇用者給与支給額が前年度比で1.5%以上増加 ➡控除対象雇用者給与等支給増加額の 15%を税額控除 |
雇用者給与支給額が前年度比で2.5%以上増加 かつ次のいずれかを満たした場合 税額控除割合を10%上乗せA教育訓練費の額が前年度比で10%以上増加 B認定を受けた経営力向上計画を実施したことを証明 |
税額控除割合の 上乗せ加算 |
雇用者給与支給額が前年度比で2.5%以上増加 税額控除割合を10%上乗せ |
教育訓練費の額が前年度比で10%以上増加 税額控除割合を10%上乗せ |
||
25% | 税額控除額上限 (合計)※ともに法人税額の20%が上限 |
40% |
(2)対象となる人
まず、所得拡大促進税制の対象となる事業者の大前提は青色申告書を提出した人です。
白色申告にしている場合は、適用が受けられません。
そのうえで以下の要件を満たす人が対象となります
資本金額、または出資金額が1億円以下の法人
ただし、次の法人は対象外です。
- 同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人
- 2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
資本、または出資を有しない法人で常時雇用する従業員数が1,000人以下の法人
役員や親族は、特殊関係者として従業員に含まれません。
常時雇用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
(1)対象となる協同組合
- 農業協同組合、農業協同組合連合会、中小企業等協同組合
(2)対象となる出資組合
- 商工組合および商工組合連合会、内航海運組合、内航海運組合連合会、生活衛生同業組合、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、森林組合、森林組合連合会
実際に所得拡大促進税制を活用するに際しては次のようなリスクと注意点を押さえた上で判断することが重要です。
2.所得拡大促進税制活用のリスクと適用に際しての注意点
(1)固定費の増大リスク
節税したいからと所得拡大促進税制を適用するために社員の給与をあげた結果、将来的に人件費が経営を圧迫する可能性があります。事業主としては押さえておくべきリスクです。
一度上げてしまった給与を簡単に下げることはできません。それでも適用したいのであれば、賞与などで調整してあげた方が社員も納得感はあるかもしれません。
言うまでもありませんが、自分自身の給与、親族への給与は所得拡大促進税制の計算では対象外ですので注意が必要です。
(2)社会保険料負担の増大リスク
賞与で賃上げをした場合でもリスクはあります。
法人税や所得税を減らしたいがために臨時で賞与を増額したり、昇給させたりすることで所得拡大税制を適用した場合、賃金の増加額によっては社会保険料も増加してしまい、会社・従業員双方の負担が増大する可能性があります。
節税はできたけども、社会保険料による支出が増えてしまったことになり節税メリットが失われるようなことのないように、専門家のアドバイスを得て、シミュレーションをしっかり行ったうえで判断することが重要です。
3.節税効果の具体例、制度活用で期待される効果と留意点
次に具体的な適用可否判定と節税効果についてみていきましょう。
【設定例】
前年度の雇用者の給与や賞与などが1,000万円であった法人で、当年度給与や賞与が1,200万円に増加、かつ教育訓練費も前年度と比べて10%以上増加した法人で、所得拡大促進税制採用前の法人税額が600万円の場合。
<計算例>
適用要件 | 税額控除割合 合算で40%上限 | 適用可否 | |
---|---|---|---|
①雇用者給与支給額が前年度比で 1.5%以上増加 |
税額控除割合15% 1200万円-1000万円=200万円 200万円÷1000万円=20% |
可 | |
上乗せ加算分 | ②教育訓練費の額が前年度比で10%以上増加 | 税額控除割合を10%上乗せ | 可 |
③雇用者給与支給額が前年度比で2.5%以上増加 | 税額控除割合を15%上乗せ ①と同様の計算式 |
可 |
全ての要件を満たすことから、最大控除割合上限の40%が適用され、
200万円×40%=80万円
つまり賃金等の増加額の40%、80万円が税額控除額となります。
制度適用前の法人税額は600万円ですので、
600万円-80万円=520万円
制度適用により法人税の納税額が600万円から520万円に減少します。
給与が上がって喜ばない従業員はまずいません。また、給与が上がると従業員のモチベーションも高まることでしょう。
一方で従業員の給与を上げることは、固定費の増大に繋がるため、経営的に難しい判断とも考えられますます。
ただ、節税効果も得られるこのタイミングは従業員の給与を増やすチャンスと考え、さらなる会社の利益増大に向けた人的投資と考えてみてはどうでしょう。また、給与水準が高い企業として地域で評価を獲得できれば、求職者の増大も期待できます。優秀な人材を確保し、将来の成長への布石を打つチャンスでもあります。
さらに、節税で得られたキャッシュは新たな設備投資などに活用することで成長性を確保に向け投資するほか、内部留保することで将来の守りに備えるなど様々な選択が可能です。
実際の制度活用に際しては、専門家のアドバイスを得て、シミュレーションをしっかり行ったうえで判断することが重要です。
まずは税務等に精通した専門家に相談するところから始めてみてはいかがでしょう。
廣瀬総合経営会計事務所では多様な領域に精通した専門家とアライアンスを構築し、成長を目指す事業主様を支援する体制が整っています。
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