令和5年改正戸籍法施行で変わる
相続手続きと行政手続きとは

相続対策や相続手続きと切っても切れない関係にある公的書類「戸籍謄本」。相続税の申告が必要な場合はもちろん、申告の必要がない相続であっても避けては通れないのがこの「戸籍謄本」の取得です。また婚姻届けの提出やパスポートの申請といった行政手続きとも戸籍謄本は切っても切れない関係にあります。

この「戸籍」を取り巻く環境が令和5年に予定されている改正戸籍法の施行を経て大きく変わろうとしています。

この記事では戸籍について知っておきたい知識と令和5年に施行予定の改正戸籍法によって変わる相続・行政手続きについて分りやすく解説していきます。

今回のポイント

  1. 戸籍って何? 戸籍の役割と戸籍謄本の記載内容
    1. 戸籍が持つ3つの役割
    2. 戸籍謄本と戸籍抄本何が違う?
    3. 戸籍が必要になるのはどんな時?
  2. 相続対策や相続発生後の手続きで戸籍謄本が必要な理由
    1. 相続対策を行う際に戸籍が必要とされる理由
    2. 相続発生後に必要な戸籍謄本は死亡直前のものだけとは限らない
    3. 意図せず増えてしまう本籍地と戸籍の数
  3. 令和5年施行予定の改正戸籍法で便利になること・不便になること
    1. 複数の本籍地にまたがる被相続人の戸籍を相続人自身が一括取得申請できるようになる
    2. マイナンバーカードとの連動・電子化で、多くの行政手続きにおいて戸籍謄抄本の提出が不要になる
    3. 戸籍謄本の取得を代理人に依頼できなくなる
  4. 改正戸籍法施行後も相続手続きは専門家への相談は必要?

戸籍って何? 戸籍の役割と戸籍謄本の記載内容

戸籍の持つ3つの役割

何か特定の事項を“明らかなものとして証明する”ことを法律的には“公証する”といい、この機能のことを「公証機能」と呼びます。戸籍は人の出生から死亡に至るまでの親族関係を公証する機能を持つほか、日本国籍を公証する唯一の制度とされています。

戸籍の役割は大きく分けて3つあるとされています。

戸籍の役割

1.家族関係を明らかにする役割
  • 家族・親族関係を記録し、公証する役割。
  • 両親が誰か、配偶者(夫・妻)が誰か、兄弟が誰か、子供が何人いるのか等記録・公証することができる。
2.身分関係を明らかにする役割
  • その人が「どんな人なのか」を公証する役割。
  • 出生届が提出されることにより、国民として登録され、日本国民としての「身分」を取得することができる。
3.日本人であることを明らかにすること
  • 日本国民であることを公証する役割。
  • 日本の戸籍に登録されることが日本国民であることの証明とされている。

関連サイト法務省「戸籍

戸籍謄本と戸籍抄本 何が違う?

戸籍謄本とは、戸籍に記載されている全員の身分事項を証明するものです。戸籍謄本が別名「戸籍全部事項証明書」と呼ばれるのはそのためです。

これに対し、戸籍抄本は、戸籍に記載されている方のうち一人または複数人の身分事項を証明するもので、別名「戸籍個人事項証明書」とも言います。行政機関においては戸籍謄抄本とひとくくりにされることも多くあります。

戸籍謄本が必要になるのはどんな時?

戸籍謄本が必要になる身近な例は役所で行政手続きを行う時です。改正前(現在)の戸籍法では、公的年金の初回請求や保険金の請求や、婚姻届・離婚届の提出に際しても戸籍謄抄本は必要とされています。

また、パスポートは日本国民であることを渡航先の国に対し公証する機能を持つため、申請の際には戸籍謄抄本の提出が必要とされています。

ただ、何といっても戸籍謄本の必要性がクローズアップされるのは相続対策および相続手続きのタイミングです。

相続対策や相続発生後の手続きで戸籍謄本が必要な理由

相続対策を行う際に戸籍謄本が必要とされる理由

まず、代表的な相続対策のひとつである遺言についてみてみましょう。

遺言にはいくつかの形式がありますが、最も信頼度の高いものは公正証書遺言とされています。公正証書遺言は、遺言者の口述などをもとに公証役場で公証人が作成します。

その際、遺言者(遺言を残す人)の法定相続人が誰なのか、家族関係を確認するために戸籍謄本が必要になります。また、この場合遺言者が載っている戸籍抄本だけでは足りず、遺言者と推定相続人との関係がわかる範囲までカバーした戸籍謄本が必要になります。

相続発生後に必要な戸籍謄本は死亡直前のものだけとは限らない

実際の相続手続きに際しても被相続人(亡くなった人)が死亡していることや法定相続人が誰なのかを明らかにするために被相続人の戸籍謄本が必要になりますが、その際に必要な戸籍謄本は死亡時の本籍地にある戸籍謄本だけでは足りません。

戸籍謄本には原則、作成された期間中の情報しか記載されません。そのため法定相続人を確定し、遺産分割協議をはじめとした相続手続きを行う際には、被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本が必要になります。

実際には、死亡時の戸籍から遡りながら、被相続人が過去に本籍地を置いた全ての住所地の役所から戸籍を取り寄せることになります。取り寄せた過去の戸籍謄本は銀行預金や不動産といった相続財産の名義変更や相続放棄の手続きに際しても提出を求められます。

また、法定相続通りの相続を行う場合はそれぞれの法定相続人が現在生存していることを証明するために相続人全員の戸籍謄本が必要になる場合もあるほか、法定相続分とは異なる割合で相続する場合には、被相続人と相続人との関係がわかる全ての戸籍(除籍謄本・改製原戸籍も含む)も必要になることも踏まえておく必要があります。

意図せず増えてしまう本籍地と戸籍の数

戸籍は出生と同時に作成されますが、他の都道府県に移動して結婚したような場合、新たに本籍地が増え同時に戸籍が増えることになります。また離婚した際に親の戸籍に戻らず新たに戸籍を作った場合にも本籍地は増えることになります。

戸籍はこうして本籍地が変わる都度、戸籍を作った役所ごとに新たにつくられるため、意図せずその数が増えてしまうことがあります。加えて、法改正により本籍地が増加している可能性もあります。

戸籍法は戦後数回改正を重ねており、中でも平成6年の改正で紙ベースだった従来の戸籍がコンピューターで記録された戸籍謄本に変わりました。

つまり、法改正によって新たに戸籍が作り直されたことになり、平成6年よりも前に生まれた人の場合、生まれてから一度も本籍地を変えていなくても複数の戸籍が生まれている可能性があるのです。

令和5年施行予定の改正戸籍法で
便利になること・不便になること

戸籍法の一部を改正する法律(改正戸籍法)は、令和元年5月24日に成立し令和5年中に施行が予定されています。マイナンバーカードの普及と連動して利便性が高まることが期待される(明)一方で、少し利便性が低下する可能性(暗)も見えます。

複数の本籍地にまたがる被相続人の戸籍を相続人自身が一括取得申請できるようになる

今回の改正戸籍法の施行後、各地に点在する被相続人の戸籍謄本を申請者の市区町村や勤務先の最寄りの市区町村の役場の窓口において一括で申請・取得することができるようになります。

既にお伝えした通り、相続発生後の様々な手続きを進めるに際しては被相続人の過去全ての戸籍謄本が必要になります。改正前(現行)の戸籍法では、相続が発生した時には過去の本籍地ごとに被相続人の戸籍謄本を集める必要がありました。

もちろん遠隔地にあるような場合は郵送で行うことも可能とされていますが、一括申請が可能となることで、利用者の利便性は大きく高まることが期待されています。

マイナンバーカードとの連動・電子化で、多くの行政手続きにおいて戸籍謄抄本の提出が不要になる

マイナポイント制度の後押しもあり、マイナンバーカードは急速に普及が拡大しています。このマイナンバーカードがあれば、行政機関で親子関係や婚姻関係等の確認が可能になります。

そのため、改正戸籍法の施行後は児童扶養手当の受給や婚姻に伴う国民年金第3号被保険者の資格取得といった様々な行政手続きの際に戸籍謄抄本の提出を省略できるケースが増え、利便性が高まることが期待されています。

また、婚姻届けや養子縁組届などが電子化されたことによって、提出した届出に連動して自動的に新しい戸籍がつくられるようになります。そのため利用者は手続き時に戸籍謄抄本の提出が省略でき、負担感が大きく軽減されると見込まれています。

この他、実施時期・内容は未定とされていますが、将来の展望としてオンライン上で行う行政手続きに際して、戸籍が必要な場合は「戸籍電子証明書」の発行が可能とすることが謳われており、今後の更なる利便性向上に大きな期待が寄せられています。

戸籍謄本の取得を代理人に依頼できなくなる

戸籍法改正により、複数本籍地に点在する戸籍を相続人自身が簡単に申請できるようになったその一方で、税理士や行政書士といった専門家が相続人にかわって戸籍謄抄本を代理請求(職務上請求や代理人請求)することが認められなくなりました。

現行法では費用こそ掛かるものの、専門家に戸籍取得を委任することで相続手続きにかかるストレスを少なからず軽減できる効果がありました。

しかし、改正戸籍法の施行後は戸籍謄抄本の請求は相続人自身が最寄りの窓口に出向いたうえで請求手続きを行わなければならなくなります。

改正戸籍法施行後も相続手続きは
専門家への相談は必要?

戸籍法の改正により、複数本籍地に点在する戸籍を相続人自身が最寄りの市区町村役場で簡単に請求できるようになります。確かに利便性は向上しますが、相続対策や相続税の申告は万全と考えるのは少々早計かもしれません。

仮に相続人が被相続人の過去全ての戸籍を入手できたとしても、旧かな使いで書かれたような手書きの戸籍謄抄本を自分で読み解くことは可能でしょうか。

また、取得した戸籍謄抄本に見たことも聞いたこともないような相続人が記載されていることもあり得ます。その場合、たとえ一面識もない人であっても、相続人になりうる可能性がある限り何らかのコンタクトが必要になり、場合によっては遺産分割協議を行う必要も出てきます。

このような場合、相続人にかかる負荷はとても大きなものになることは予想に難くありません。相続対策や相続手続きの本質は、相続人間で遺産分割協議をはじめとする手続きが円満かつスムーズに完了することです。

戸籍法の改正で、自分の手でできることが増えたとはいえ、相続税の申告・納税まで含めた相続手続きを円満かつスムーズに行うためには税理士をはじめとする専門家のアドバイス仰いだ方がより安心感があると言えます。

廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、相続に関する相談をお受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、相続に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスや事前の対策・実行まで一括サポート可能です。相続に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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