越境ECで消費税還付を受けるための3つのステップ

自宅にある不用品を処分するために、ヤフオクやメルカリを利用したことがある人は多いと思います。

こうしたオークション・フリマサイトを活用した取引は、テクノロジーの進化やコロナ下での巣ごもり需要の高まりをうけ、海外のサイトで行われるケースも増えてきています。

こうした取引は事業で行う場合越境EC(Electronic Commerceの略、電子商取引と訳される)と呼ばれ、確定申告などの際に税金面、特に消費税の申告の際には注意する必要があります。

この記事では越境ECと税金とりわけ消費税還付との関係性と注意点について、わかりやすく解説していきます。

急拡大する越境ECの現状と日本製品の評価

越境ECの市場規模と将来予測

越境ECとはインターネットを活用して、日本国内から海外へ向けて商品を販売したり購入する電子商取引のことを指します。

世界中にスマートフォンが普及し、いつでもオンラインでECサイトにアクセスし、買い物ができるようになったことで、その市場規模は大きく増加し、経済産業省の調査でも市場規模は2019年には約85兆円(2021年9月の平均レート:1ドル110円で計算)に達し、さらに2026年には530兆円にまで伸びると予測されています。

近年では日本の事業者が海外のAmazonやebayといったECモールに出店(出品)し、海外の消費者へ直接販売する形態も増えています。

関連サイト経済産業省「令和3年度・電子商取引に関する市場調査

海外ECモールにおける日本製品/ Made in Japanの評価

越境ECの普及で海外の消費者は「自国にはない商品を購入できる」「自国よりも安く手に入る」といったメリットを手軽に享受できるようになりました。

特に日本製の商品はMade in Japanを略してMIJとして表記されることが定着するなど、海外での知名度や信頼度は高く、最先端の電子機器・家電製品はもちろん、日本人形や掛軸といったアンティーク、昔のゲーム機器やアニメなどのキャラクター商品、楽器などはたとえ生産から数十年経過しているようなものであっても、コレクターズアイテムとして海外の顧客からの引き合いが多く、高額で販売されるケースが多くあります。

またブランド品や時計に代表されるラグジュアリー商品は、たとえ海外ブランドであったとしても、日本で使用されたものは扱いが丁寧で真贋性のレベルも高いとの評価が確立されており、海外のユーザーがわざわざ日本の事業者から購入するケースも多くあります。

こうした傾向は為替が円安に振れた2022年3月以降さらに顕著になっており、海外の顧客から見ればよい品質の日本製品や日本で使用された高級品が安く買える環境になったと言え、日本からの越境ECが拡大している大きな要因と言えます。

越境ECと税金の関係
国内販売と海外販売の違い

国内オークションサイト・フリマサイトでの販売と所得税

一般に私物をオークションなどで売却した場合など、生活用動産の売却(30万円以下の取引の場合)とされるため、取引額に係る所得税について確定申告は不要とされます。

また、この場合売主が購入時に消費税を払っていたとしても、買主から消費税を受け取ることはありません。そのため、売主側には消費税の納税義務も発生しません。

一方で、事業としてオークションを利用し、一定水準の所得が発生した場合などは、たとえ個人の副業であったとしても雑所得または事業所得として確定申告が必要になるほか、売上高次第では消費税の納税義務も発生します。

消費税納税の仕組み「仕入税額控除方式」とは

越境ECにより、海外顧客に販売を行う場合、所得税については国内取引と同じ考え方でよいのですが、消費税についての考え方は大きく異なります。そのため、越境ECと消費税の関係を理解するにはまず消費税納税の仕組みについて理解する必要があります。

国内取引における消費税の最終負担者は消費者ですが、実際に納税するのは商品やサービスを提供する事業者となっています。事業者が実際に納付する消費税は以下の計算式で求めます。

事業者の消費税の納税額 = 課税売上にかかる消費税 – 課税仕入にかかる消費税

事業者は売上げた際に預かる消費税と仕入や経費にかかった消費税をさし引いた金額を納めます。この事業者が預かった消費税と事業者が支払った消費税を差し引きして納税する仕組みを「仕入税額控除方式」といいます。

越境ECをはじめとする海外輸出売上は消費税が還付されるのはなぜ?

そもそも消費税の課税は原則として国内で行われる商品の販売やサービスの提供に対して行われます。

国内で仕入れた商品を越境ECで海外の顧客に対し販売した場合は顧客から預かる消費税が存在しないことになります。つまり課税売上にかかる消費税は0円となります。

国内で10,000円(税率10%)で仕入れた商品を越境ECで海外顧客に販売した場合でも、消費税額を計算する際は国内販売と同様の算式で求めます。

消費税の納税額(-1,000円) = 課税売上にかかる消費税(0円) – 課税仕入にかかる消費税(1,000円)

このように「仕入税額控除方式」で計算すると消費税の納税額がマイナスになってしまいます。そのため、越境ECで海外に輸出する商品を仕入れるために支払った消費税(1,000円)は消費税還付申請手続きを行うことで還付されることになるのです。仕入時に支払った消費税が還付されるわけですから、事業者にとっては嬉しい話です。

また、消費税還付金は不課税収入とされており、実際に還付された際の課税も発生しないため、これまた事業者にとってはうれしい話と言えます。

この消費税還付の仕組みは「輸出免税」といわれ、自動車メーカーのような大きな輸出企業であっても、小規模な越境EC事業者であったとしても全く変わりません。そのため、多くの越境EC事業者は消費税還付を収益源のひとつとして考えることになるのです。

なお、消費税還付のサイクルは原則年1回ですが、特例申請を提出すれば3ヶ月ごと(年4回申告)、毎月(年12回申告)の還付サイクルも選択することも可能ですので資金繰りを楽にする効果が期待できます。

越境ECで消費税還付を受けるための3つのステップ

ステップその1「消費税課税事業者選択届出書を提出し消費税課税事業者になる」

越境ECで消費税の還付を受けるための必要なステップの1つ目は、消費税の課税事業者になることです。

消費税課税事業者とは、消費税を納付する義務がある事業者のことで、売上が1,000万円未満で免税事業者である場合、書面での手続きを行うことが必要です。(売上が1,000万円以上の事業者の場合は自動的に消費税課税事業者に登録されます。)

免税事業者が消費税課税事業者になろうとする場合、消費税課税事業者選択届出書を受けようとする課税期間の初日の前日(事業年度の最終日)までに税務署に届け出る必要があります。

ステップその2「消費税の課税方式は原則課税方式を選択する」

越境ECで消費税の還付を受けるための2つ目のステップは、消費税を計算する方式は原則課税方式を採用することです。課税方式の選択は消費税課税事業者選択届出書の提出とあわせて行う必要があります。

消費税の課税方式には原則課税方式と簡易課税方式があります。原則課税方式は「売上に含まれる消費税額」から「仕入・経費に含まれる消費税額」を引いた金額を漏れなく計算し、消費税を納税する方法で、業種ごとに定められたみなし仕入れ率に基づいて支払った消費税額を計算する簡易課税方式に比べ厳格な方式とされています。

ステップその3「消費税の確定申告を行う」

実際に消費税の還付を受けるためには、消費税の確定申告を行う必要があります。消費税の確定申告は所得税の確定申告とは別に、所轄の税務署長に申告書類を提出して行います。

課税期間は個人の場合は1月1日から12月31日までで、申告期限は課税期間の翌年3月末までです。法人の申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。

消費税還付には、課税期間に対応する確定申告書、仕入控除税額に関する明細書、課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算書が必要です。また、越境ECの場合、国外に商品を輸出したことを証明する必要があるため、輸出許可通知書などの提出も必要です。

消費税還付申告をすると税務署からお尋ねが来る?
対処方法と専門家に依頼するメリットは?

税務署は消費税還付申告の調査を強化している?

消費税の申告を行い、還付金の申請をすると、税務署から電話やお尋ね書が来ることがあります。

お尋ね書自体は必ずしも対応しなくてはならない強制力を持つものではありません。また、お尋ね書イコール税務調査になるとは限りませんが、受け取った側からしてみれば何もやましい行為をしていなかったとしても、不安な気持ちになることには変わりません。

実際、取引実態の確認が困難である事案や消費税不正還付事案の増加などを受けて、国税庁からも2022年1月に「消費税還付申告に関する国税当局の対応について」という文書がリリースされています。

税務当局の消費税還付に対する注視度合いは高まっていると考えた方がよさそうです。

消費税還付に関して税務署からお尋ね書・電話が来たらどうする?

実際に税務署からお尋ね書や電話が来た時にはどんなことを聞かれるのでしょう。

税務署からは取引全般に関する質問があるほか、追加的な資料等(輸出許可通知書やインボイス等の写し、取引実態を確認できる資料)の提出を依頼されます。

その際には、還付申請の対象となった取引が「消費税還付の対象となる輸出取引に該当する」ことを自明出来なくてはなりません。税務署はそれらのエビデンスを確認した上で、場合によっては実地調査に及ぶこともあり得ます。

消費税還付までの期間が長期化?消費税還付の取り消しもあり得る?

税務署の実地調査の結果、取引の実態の確認が困難である、取引の金銭授受の事実確認が困難である、輸出関係根拠書類が適切に保管されていないといったようなケースでは、消費税還付に至るまでの期間が長期化するだけでなく、最悪の場合還付自体の取り消しに発展する可能性があります。

テクノロジーの進化やアフターコロナ下での巣ごもり需要の増加などを背景に、越境ECが拡大する一方で、越境EC事業者は税務署からのお尋ねや実地調査に接する事態も十分想定しておく必要があるといえます。

越境EC事業者は日頃から輸出取引に係るエビデンス(証憑)保管をはじめとする態勢を整えておくことはもちろん、消費税の申告・納税をよりスムーズに行うためには、税理士をはじめとする専門家のアドバイスがあった方がより高い安心感が得られることは間違いありません。

廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、消費税還付をはじめとする税金に関する様々なご相談に加え、記帳・申告に関するご相談をお受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから税務調査への対応まで一括サポート可能です。

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