経営セーフティ共済の仕組みと
改正後の経理処理ルールを税理士事務所が解説

中小零細法人や個人事業主の節税対策として高い人気を得ている経営セーフティ共済制度が改正されます。

関連サイト独立行政法人 中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済とは

この記事では経営セーフティ共済制度の仕組みと、改正後の経理処理ルールについて税理士事務所が分かりやすく解説していきます。

経営セーフティ共済の歴史と役割

経営セーフティ共済の運営母体と制度の歴史

経営セーフティ共済の正式名称は「中小企業倒産防止共済制度」です。

この制度は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しており、中小企業や個人事業主が取引先の倒産に伴う連鎖倒産のリスクに備えるための共済制度として1978年4月にスタートしました。

当時は、景気後退に伴う倒産件数が増加しており、取引上弱い立場になりがちな中小企業は、突然の取引先企業の倒産で一気に資金繰りが悪化し倒産するリスクを抱えており、そうした中小企業の相互救済のための仕組みとして作られました。

制度は経済状況や社会環境の変化に伴って進化しており、2023年3月末時点で約62万の企業や事業者等に加入多くの中小の事業主が利用する制度として定着しています。

経営セーフティ共済の保障内容とは?加入対象と掛金限度額

経営セーフティ共済は一定以下の規模にある中小企業を対象にした共済制度で、業種によって資本金や従業員数の上限が定められています。経営セーフティ共済の主な機能は以下の通りです。

経営セーフティ共済の主な機能

借入の機能
  • 無担保・無保証人で借入を受けることができる
  • 借入限度額は「回収困難となった売掛金債権等の額」か「納付された掛金総額の10倍(最高8000万円)」の、いずれか少ないほうの金額
  • 取引先の事業者が倒産し、売掛金などの回収が困難になったときに借入が可能
損金(法人)・必要経費(個人事業主)算入が可能
  • 確定申告の際、掛金を損金(法人の場合)、または必要経費(個人事業主の場合)に算入できる
  • 掛金月額は5,000円~20万円まで自由に選べ、増額・減額できる
  • 掛金は最長40年(480カ月)、トータル800万円まで積み立てることができる
解約手当金
  • 解約時は、解約手当金を受け取ることができる
  • 解約手当金の水準は加入期間によって変動し、40ヶ月以上納めていれば掛金全額が戻る(12か月未満は掛け捨て)

簡単に言うと、経営セーフティ共済は取引先の破綻時の資金繰り安定化のための機能を経費で準備でき、一定期間経過後は払った掛金が全額戻ってくる仕組みといえます。

掛金支払時の経理処理方法と解約手当金受取時の経理処理方法(現行ルール)

経営セーフティ共済の入り口部分、すなわち掛金を支払ったときの現行の経理処理は以下の2パターンです。どちらの経理処理を選択するかは経営者の判断によります。

掛金支払時の経理処理例

1.経費処理(損金算入)
  • (借方)保険料(費用) 50,000円
  • (貸方)普通預金 50,000円
2.資産計上
  • (借方)保険積立金(資産) 50,000円
  • (貸方)普通預金 50,000円

「1.経費処理(損金算入)」の場合は、掛金を「保険料」や「共済掛金」として費用計上し、損金算入します。これにより、当該事業年度の利益が減少し、法人税が軽減されます。(確定申告時に 別表10(7)「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」および適用額明細書が必要。)

「2. 資産計上」の場合は、掛金を「保険積立金」として資産計上し、将来の解約時に処理します。資産計上すると、当期の損益には直接影響しませんが、法人税申告時に別表で調整することで、損金性を持たせることも可能です。(確定申告時に 別表4・別表5(1)で減算処理が必要。)

今度は出口部分、すなわち解約時の経理処理を見てみましょう。こちらも2パターンの処理方法があり、掛金拠出時の経理処理方式に応じて変わります。

解約手当金受取り時の経理処理例

1.掛金を経費(損金)として処理していた場合
  • (借方)普通預金 2,500,000円
  • (貸方)雑収入 2,500,000円
2.掛金を資産計上していた場合
  • (借方)普通預金 2,500,000円
  • (貸方)保険積立金 2,500,000円

「1.掛金を経費(損金)として処理していた場合」では、掛金を「保険料」や「共済掛金」として費用計上していたので、解約返戻金は雑収入として収益に計上されます。この場合、返戻金は利益として課税対象になります。

「2.掛金を資産計上していた場合」では、解約返戻金は資産の「保険積立金」の減少として処理され、損益計算書には影響しません。

2024年10月以降に変わる経営セーフティ共済

令和6年度税制改正大綱と経営セーフティ共済制度改正の背景

令和6年度(2024年度)税制改正大綱で、2024年10月から経営セーフティ共済契約を解約し、再度契約を締結すると、解約日から2年間は損金算入をできなくする方針が示されました。

元々、経営セーフティ共済には元々40カ月以上経過した場合掛金の全額が返戻される仕組みがあります。しかも、掛金月額は5,000円~20万円まで自由に選べ、増額・減額することも可能で、拠出した掛金は損金として処理することも可能です。

そのため、取引先倒産時の資金繰りに備えるという本来の機能よりも、解約タイミングを考慮することで節税効果が得られる仕組みの方がクローズアップされてきていました。

結果、本来の経営セーフティ共済の目的をやや逸脱し、極端な節税に走った事業者も多くいたことが今回の制度改正の背景にあるとみて間違いないでしょう。

2024年10月以降 解約後の再加入には一定期間損金算入が認められなくなる(新ルール)

2024年10月以降、共済を解約した後に2年間は再加入しても掛金を損金算入(経費計上)できないという新たなルールが導入されます。この改正により、解約後すぐ再加入しするというあからさまな節税手法には一定の抑制が働くと考えられます。

2024年10月以降に経営セーフティ共済を解約して再加入した場合の経理処理

(再加入後2年以内の掛金の経理処理)
1.資産計上
  • (借方)保険積立金(資産) 50,000円
  • (貸方)普通預金 50,000円
(再加入後2年経過後の掛金の経理処理)
2.経費処理(損金算入)
  • (借方)保険料(費用) 50,000円
  • (貸方)普通預金 50,000円

なお、今回の改正は、「解約後の再加入」に対してのみ適用されるルールです。2024年10月以降であっても初めて経営セーフティ共済を契約する場合は、これまで通り掛金を全額損金算入できます。

現在加入している経営セーフティ共済への影響

現在既に経営セーフティ共済に加入している人への契約内容や経理処理面での影響はありません。たとえ、現在の契約が解約後の再加入であったとしても、2024年9月以前の再加入であれば今回の改正の影響はありません。

ただし、下図のように解約した後、2024年10月をまたいで改めて契約した場合は今回の改正の影響を受けます。たとえ解約時期がかなり前であったとしても経理処理面で改正の影響は受けますので注意が必要です。

経営セーフティ共済とどう付き合うべきか迷ったときは
専門家に相談しましょう

経営セーフティ共済に加入している事業者は、取引先が倒産し売掛金の回収が不能になった場合、掛金の最大10倍まで無担保・無保証で借り入れができるため、急な資金ショートを防ぐことができます。

つまり、経営セーフティ共済加入の最大のメリットは、取引先が倒産した場合の資金繰り悪化による連鎖倒産リスクに備えることができる機能があることだといえます。

また、積み立てた掛金は事業資金の蓄えとして活用できます。万が一の解約時には、掛金全額が返戻されるため、計画的に資金を準備し、事業の安定を図ることができます。

こうした元々の事業保障の機能は今回の改正があったとしても変わることはありません。リスク管理の手段としてまだまだ使える制度であるといえます。

やむをえず解約・再加入をした場合でも、2年間の損金不算入は甘んじて受け入れ、事業防衛のための有効な手段として経営セーフティ共済と付き合っていった方がよいと思います。

廣瀬総合経営会計事務所は杉並区で開業してから30年余り、地域密着で多くの事業主様をサポートしてきました。事務所はJR西荻窪駅から徒歩1分の便利な場所にあり、経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しています。

今回触れた経営セーフティ共済の税務面でのアドバイスをはじめ、事業主様の課題解決に向けた様々なご相談お受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、事業運営に際して起こり得る様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスから記帳・申告まで一括サポート可能です。

税務に関する疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。当事務所の対応エリアは以下の通りです。

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