令和7年エンジェル税制の改正内容・節税効果・確定申告を解説

当コラム「令和5年度税制改正・エンジェル税制に伴うメリット・デメリット注意点を解説」でも取り上げたことのあるエンジェル税制は、近年注目が高まっている資産運用の一つで、1997年に創設されて以来、幾度となく改正が行われてきました。
令和7年4月の制度改正によって、エンジェル投資は多くの個人投資家にとってさらに現実的かつ魅力的な選択肢となろうとしています。
関連サイト経済産業省「エンジェル税制」
本記事では、エンジェル税制の概要と、令和7年改正で個人投資家が押さえておきたいポイントについて税理士事務所が分かりやすく解説します。
日本版エンジェル税制とは?わかりやすく解説
エンジェル税制の概要と目的
エンジェル投資とは、創業間もない企業に対して、個人が自己資金で投資を行うことです。起業家にとっては“天使”のような存在であり、資金面だけでなく経営アドバイスを行うこともあります。
1997年にスタートしたエンジェル税制は正式名称を「中小企業投資促進税制(エンジェル税制)」といい、経済産業省が所管する制度です。
これは個人投資家が特定の要件を満たすスタートアップ企業に投資を行った際に、所得税や住民税の優遇措置を受けられる制度です。これにより、個人投資家のリスク負担を軽減し、スタートアップ企業への資金供給を促進することを目的としています。
日本はまだ発展途中、海外では一般的なエンジェル投資
米国(QSBS制度)や英国(EIS制度)ではエンジェル投資が広く根付いており、税制優遇や情報インフラも整備され、エンジェル投資家の活発な支援を通じたイノベーションの進展とスタートアップ企業の誕生を支えています。
一方、日本では先行する国々を参考にしつつ1997年にエンジェル税制を導入したとはいうものの、制度自体が複雑で利用者は一部の富裕層に限られていました。しかし、政府のスタートアップ支援の方針を反映し、制度改正が重ねられてきました。
関連サイト経済産業省「スタートアップ政策について」
エンジェル税制を活用して上場を果たした企業もある
エンジェル税制を活用してIPO(新規株式公開)を果たした企業の代表例として、メルカリが挙げられます。メルカリは、創業当初にエンジェル税制の優遇措置を受けて投資家からの資金調達を行いました。その後成長を遂げ、2018年6月に東京証券取引所に上場し、当時の時価総額は約4,000億円でしたが、令和7年4月時点で約6,000億円程度となっています。
メルカリ以外にも女性向けのオンラインキャリア支援サービスを提供する企業SHElikes(シーライクス)や、クラウド型の会計ソフトウェアを提供している企業freee(フリー)もエンジェル税制を利用して投資家から資金を調達し、事業を拡大・IPOしたことで知られています。
エンジェル税制
「タイプA」と「タイプB」の違いについて
エンジェル税制には、「タイプA」と「タイプB」と投資家が選択できる2つの優遇方式があります。
エンジェル税制「タイプA(所得控除型)」とは
エンジェル税制「タイプA(所得控除型)」は投資を行った年に、その投資額の一部を所得控除できる制度です。その年のエンジェル投資額が大きくなるほど所得税や住民税の軽減幅が大きくなるという特徴があります。
令和7年改正で「タイプA(所得控除型)」は所得控除による節税効果がアップ
令和7年の改正により、年間最大1,000万円(従来は500万円)までの投資額を総所得金額から控除できるようになりました。例えば、年収2,000万円の方が1,000万円のエンジェル投資を行った場合、課税所得が1,000万円減少するため、所得税率と住民税率(最大55%程度)に応じて最大550万円程度の税負担軽減が期待できます。これは投資額の55%に相当し、投資リスクをかなり軽減する効果があります。
エンジェル税制「タイプB(譲渡益非負税型)」とは
エンジェル税制「タイプB(譲渡益非負税型)」は投資した未上場株式を売却したときに得られた譲渡益が一定額まで非課税になる制度です。
売却時の利益に対して税金が最大ゼロになるということで、成功したスタートアップがEXIT(IPO/会社買収)する時に大きなメリットがあるタイプのエンジェル税制です。
令和7年改正で「タイプB(譲渡益非課税型)」は譲渡益非課税によるメリットが
令和7年の改正で「タイプB(譲渡益非課税型)」非課税対象の譲渡益が最大5,000万円(従来は2,400万円)まで拡大されました。例えば、1,000万円投資した株式が5年後に6,000万円で売却できた場合、通常なら譲渡益5,000万円に対して約1,000万円(譲渡所得税率約20%)の税金がかかりますが、エンジェル税制適用により全額非課税となり、税負担ゼロとなります。
タイプA(所得控除)とタイプB(譲渡益非負税)の違いまとめ
比較項目 | タイプA(所得控除) | タイプB(譲渡益非負税) |
---|---|---|
税制タイミング | 投資時 | 売却時 |
税制内容 | 所得控除(所得税・住民税) | 譲渡益(キャピタルゲイン)の最大100%非課税 |
適用条件 | 指定の企業/確定申告必須 | |
メリット | 損失リスクはあるが投資時の節税効果が大きい | EXIT時の利益が最大全額非課税 |
デメリット | リターンは企業成長に依存 | EXITしないと節税効果なし |
同時選択 | 不可 |
関連サイト国税庁「No.1544エンジェル税制の概要等」
令和7年のエンジェル税制改正の全体像について
令和7年4月の改正内容をまとめると以下のようになります。改正により、より多くの投資家が税制優遇を受けやすくなり、企業側も資金調達先が拡がるとともに地方や中小企業への資金流入も期待される改正内容となっています。
エンジェル税制に対する令和7年4月改正の概要・節税効果・メリットとは
改善点 | 内容 |
---|---|
対象企業の設立年数上限の拡大 | 対象企業の設立年数上限が5年→10年に拡大されたことで、対象が成長途中の中堅スタートアップまで広がり、投資先の選択肢が増加。企業側も資金を呼び込みやすくなった。 |
控除対象額や非課税上限が拡大 |
|
手続きの電子化 (マイナポータル、e-Tax連携) |
証明書や控除申告がオンラインで可能となり、申告ミスの防止や利便性が向上 |
地方企業や中堅スタートアップも対象に | 東京一極集中からの脱却を目指し、地方自治体と連携した地域支援型スタートアップへの投資にも税制メリットが拡大 |
個人投資家がエンジェル投資を行う方法
個人が未上場株式取引を行う方法
エンジェル投資の対象となる未上場株式は証券会社ではほぼ取り扱いがありません。個人投資家はベンチャーキャピタルの紹介を受けたり、起業家コミュニティやピッチイベントに参加することで情報を得て投資を行うといったこともできなくはありませんが、やや敷居が高い言わざるを得ません。
そのため、個人投資家がエンジェル投資を行う際には、スタートアップ向けマッチングプラットフォームを活用することが多くなります。
スタートアップ向けマッチングプラットフォームとは
スタートアップ向けのマッチングプラットフォームとは、スタートアップ企業と支援者や投資家を結びつける場のことを指します。企業、投資家ともにこうしたプラットフォームにアクセスすることで情報を得ることができるようになります。
このうち「Angel Bridge(エンジェルブリッジ)」は主に有望なスタートアップ企業と個人投資家をつなぐことに特化した「投資仲介型」のプラットフォームとして知られています。一方で「FUNDINNO(ファンディーノ)」は、日本初の株式投資型クラウドファンディングプラットフォームで、比較的少額(10万円前後)からスタートアップへの株式投資ができることで知られています。
こうしたプラットフォームの募集サイトには各投資案件のページに「エンジェル税制の対象事業に該当」しているかが明記されていますので、しっかりと確認するようにしましょう。
関連サイト中小企業庁「エンジェル税制の対象要件」
エンジェル投資のデメリット・リスクとは?
エンジェル投資は高リスク・高リターンの投資であり、投資に際しては以下のようなデメリット・リスクに注意が必要です。
エンジェル投資に際して注意すべき点
リスク要因 | 内容 |
---|---|
企業分析が困難 | 創業間もない企業は財務データや事業実績が限られており、将来性を判断するにはビジネスモデルや市場の成長性、創業者の資質などを多角的に評価する必要があります。 |
換金性が極めて低い | 未上場株式は市場での流通がないため、投資資金を現金化するには企業のEXIT(IPOまたはM&A)を待つ必要があります。 |
倒産・失敗のリスクが高い | スタートアップの多くは設立から数年で事業継続が困難になる可能性があり、最悪の場合、投資額の全額が失われることもあります。 |
確定申告の複雑化 | 投資先が複数社ある場合、管理や確定申告が煩雑になる。また、適用条件や手続きにミスがあると、節税効果を受けられないことがある。 |
エンジェル投資のデメリット・リスクを回避するための対策とは
リスクの高い投資には一定の対策も講じておくことが大事です。まず、投資に際しては複数のスタートアップに少額ずつ投資することで分散投資を心掛けるようにしましょう。
最終的にExitに至らず、中には倒産する企業もあるだけでなく、仮にExitに至るとしてもそこに至るまで5?10年を要するケースもあります。そのため、未公開企業への投資は長期的な視点を持ち、余裕資金での投資が基本です。
また、こうした未上場株式への投資は人を介して持ちかけられる場合もありますが、エンジェル税制の適用外の話であることが多く、基本的に疑ってかかるべきでしょう。登録制の認定プラットフォームや信頼性の高いベンチャーキャピタル以外からの投資話には基本的に乗らないようにした方が安全です。
エンジェル投資と確定申告について
エンジェル税制の適用を受けるには、確定申告が必須です。タイプA(所得控除)の場合は投資年度の翌年に控除申告を行う必要があるのに対し、タイプB(譲渡益非課税)の場合は売却年度に非課税申請が必要など、投資案件ごとに確定申告のタイミングが異なることに注意が必要です。
また、投資先企業から発行される証明書類の添付が必要(株式発行企業の「確認書」など)であるなど、通常の確定申告をやり慣れている人でもつまずくケースが多くあります。
関連サイト東京都産業労働局・エンジェル税制のご案内「申請から確定申告までの流れ」
エンジェル税制を活用したいなら
税理士へご相談ください
初めてエンジェル税制を活用する方、投資金額が大きい方、複数社に投資している方は、税理士への相談を強くおすすめします。税理士に依頼すると費用こそかかるものの、エンジェル税制の適用条件の確認はもちろん、節税効果を最大化するのためのアドバイスも得られることが多くあります。
なにより、税理士は税金の専門家ですので、ミスのない確定申告を行うことができ、電子申告(e-Tax)対応の代行やサポートも依頼できます。
廣瀬総合経営会計事務所は杉並区で開業して30年あまり、地域密着で多くの個人投資家の皆様の確定申告をサポートしてまいりました。多くの経験豊かな税理士が土地、株式の譲渡に伴い発生する資産税の確定申告に関する支援はもちろん、「杉並・中野相続サポートセンター」の運営母体として相続に関するサポートも行っています。
また、各分野に精通した専門家とも連携し、経営に関して起こりうる様々な課題への対処方法についても一括サポート可能です。事務所はJR西荻窪駅・徒歩1分にあり、下記エリアを中心とした地域密着のサービスを展開しています。
廣瀬総合経営会計事務所・相続相談の対応エリア
- 杉並区
- 中野区
- 三鷹市
- 武蔵野市
初回利用者向けの無料相談会も開催しておりますので、まずは一度お気軽にお問い合わせくださいませ。
まとめ
令和7年の改正を経て、エンジェル投資はより現実的で効果的な資産運用の選択肢になりました。税制優遇も充実し、スタートアップ支援としての社会的意義も高まっています。
とはいえ、エンジェル投資にはリスクも伴うため、確定申告を含む制度活用は専門家(税理士)のサポートを受けながら進めることが安心です。エンジェル投資の第一歩を踏み出すときにはぜひ専門家(税理士)に相談してみてください。