入国管理法改正と外国人採用の注意点を
税理士事務所が解説
街角で外国人を見かけることは、もはや日常の風景です。
インバウンドで日本を訪れる外国人のみならず、日本国内企業に就職して働く外国人の数も右肩上がりで増え、いまや多くの国内産業で外国人なくしては回らない状況にある業種もあり、中には「人手不足倒産」と呼ばれる閉業も見られるようになってきています。
こうした中、外国人が日本に入国する際に適用される「入国管理法(入管法)」が改正されました。
関連サイト法務省「入管法等改正法の概要等」
この記事では外国人採用を巡るデータと入管法改正が外国人採用に与える影響と注意点について税理士事務所が分かりやすく解説していきます。
外国人雇用を取り巻く環境とデータ
国籍別在日外国人の割合と従事している業種
厚生労働省が令和4年10月末時点の統計として公表した「外国人雇用状況」では、外国人労働者数は 182万人を超え、前年比 95,504 人増加しました。
これは2007年に届出の義務化が始まってから最高の人数でした。同時に、外国人を雇用する事業所数も3万事業所近くになり、過去最高を更新しています。
日本で働く外国人を国籍別に見てみると、ベトナムが最も多く 462,384 人と全体の25.4%を占めています。次いで中国が 385,848 人、フィリピン 206,050 人となっており、この3か国で全体の約6割を占めていることが分かります。
外国人が従事する業種で見ると、製造業が最も多く、サービス業や卸売業・小売業でも外国人材の活躍が目立ってきています。
業種 | 従事者数 | 業務内容 |
---|---|---|
製造業 | 485,128人 | 食料品や飼料などのほか、電気機器、輸送用機器など多岐にわたる。 |
サービス業 | 295,700人 | 自動車整備業など。(宿泊業・飲食サービス業・小売業や医療・福祉、教育以外) |
卸売業・小売業 | 237,928人 | 外国人顧客等への対応業務 国内販売、倉庫内の在庫管理といった単純労働は除く |
宿泊業・飲食サービス業 | 208,981人 | ホテル旅館・飲食店等での通訳をはじめとする外国人顧客対応 |
建設業 | 116,789人 | 土木建築に関する工事 建設工事に係る管理業務 |
厚生労働省 外国人雇用状況から抜粋
歴史的円安で外国人から見た日本で働く魅力はどうなる?
コロナ前1ドル110円レベルで推移していた為替は2024年7月3日時点で161.4円にまで下落しました。言い換えると、この3年間で日本円の価値は30%あまり下落したことになります。
この円安は日本で働く外国人労働者の多くを占めるアジア諸国の通貨に対しても同様で、日本円で報酬を得ている外国人労働者の購買力も下落しました。
本国へ定期的な仕送りを行う外国人も多くいる中、この円安による購買力の下落は送金額が相対的に目減りすることを意味します。
さらに、近隣諸国の中には外国人労働者を確保するために、外国人労働者の賃金を上げたり、受け入れ人数の枠を拡充するなどの動きもあり、外国人労働者の争奪戦が始まっているといっても過言ではありません。外国人労働者から見た日本で働く魅力は薄れている可能性も高いといえます。
JICAが公表した衝撃的な調査結果
こうした環境下、JICA(国際協力機構)が示したデータはさらに衝撃的な内容を示しています。
- 政府がめざす経済成長を達成するには2040年に外国人労働者が688万人必要
- しかし、人材供給の見通しは591万人で97万人が不足
いずれも2022年公表のデータから上振れ(悪化)しており、自動化・機械化といったテクノロジーの進展を加味したとしても、将来の必要人数と比べると、2030年に77万人、2040年に97万人それぞれ不足するという推計値が示されたのです。
データ引用元JICA「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究-外国人労働者需給予測更新版-」
2024年入管法改正で外国人採用はどう変わる?
入管法改正の背景と目的
今回の入管法改正は近隣諸国との人材争奪戦に加え、円安による賃金面での不利を跳ね返し、将来の働き手になりうる人材を繋ぎとめるための法改正といえます。
特に、「人材育成を通じた技能移転による国際貢献」を掲げて設けられた技能実習制度が低賃金・残業代の未払い、長時間労働や労働災害の多発といった課題が多く指摘されていました。
また、来日した技能実習生は原則として職場を変わることができないこととなっており、実習生による犯罪や失踪問題に繋がっているとの指摘が多くあったのも事実です。
入管法改正のポイント1在留資格「育成就労」・「企業内転勤2号」の創設と特定技能制度の見直し
今回「特定技能制度」の見直しにより生まれた「育成就労制度」は制度が終わったら帰国することが前提の技能実習制度と異なり、より長期にわたって在留することで、特定技能資格へのステップアップすることに重きを置いた制度です。
関連サイト法務省「改正法の概要(育成就労制度の創設等)」
この「育成就労制度」が創設される背景には人手不足・人材獲得競争が大きな理由であることは間違いないでしょう。
さらに、一定基準に適合する企業の外国事業所の職員が技能等を修得するために日本に上陸し働くことができる在留資格として新たに「企業内転勤2号」も創設することとされました。
関連サイト出入国在留管理庁:在留資格「企業内転勤」
現行の「企業内転勤」の在留資格は来日前に従事しいてた業務と来日後に従事する業務との関連性が問われます。そのため、たとえ社内転勤であっても新たに技術を習得することを目的とした来日では原則上陸が認められない点が課題として指摘されていました。
「企業内転勤2号」では社内での技能習得を目的とした在留になるため、海外本店等での業務経験が問われない在留資格となっています。
今後、「育成就労制度」・「企業内転勤2号」ともに、基本方針及び分野別運用方針が定められ、分野別運用方針に基づき各分野の受入れ見込数を設定される予定です。
法改正のポイント2在留カードとマイナンバーカードの一体化
入管法改正前でも、3月を超えて在留する外国人には在留カードが交付され、常時携帯義務があるとされていました。また、住民登録することでマイナンバーカードも発行可能となっていました。
マイナンバーカードは今後様々な行政手続や本人認証機能などの拡充が見込まれており、その中には在留資格の更新手続きなども含まれています。
既に在留資格のオンライン手続きが始まっている中、外国人自身で更新手続きを行う際に必要な在留カードとマイナンバーカードを一体化することで、住居地の届出と在留期間の更新をワンストップで行うことできるようになり、外国人の利便性が高まることが期待されています。
現行の在留カード・表面
一体化カード・イメージ
画像出典法務省「改正法の概要(マイナンバーカードと在留カードの一体化)」
外国人を雇用するときに
事業者が注意すべきこと
在留資格・在留期限をしっかり確認する
日本で働こうとする外国人は在留資格に規定された職業以外の職業に就くことはできません。これは入管法が改正された後も変わることはありません。
そのため、外国人を雇い入れをする事業者は、在留カードに記載されている在留期間中であることを確認するのはもちろん、在留カード裏面に記載されている在留資格をしっかり確認する必要があります。
たとえば、居酒屋の経営者が在留資格「留学」の外国人をアルバイト採用するときは、在留カード裏面に「許可:原則週28時間以内」の記載がなされていることを確認しましょう。
また、学校が長期休暇などの特殊な期間を除いては、業務に従事させることができるのは週28時間以内になることにも注意が必要です。
外国人雇用状況の届出は忘れずに
外国人雇用状況の届出は、外国人の雇入れ・離職時に事業主がハローワークに提出する書類で、2007年に義務化されました。
関連サイト厚生労働省「外国人雇用状況の届出について」
雇用保険の対象になる場合とそうでない場合とで届出様式が異なるなどやや複雑な手点もありますので、迷ったときは行政書士等の専門家に相談しましょう。
雇入れ時(雇い入れ日の翌月10日まで)・離職時(離職した日の翌日から10日以内)に提出を怠った場合はもちろん、虚偽の届け出を行った場合には30万円以下の罰金の対象となるので忘れず届け出るようにしましょう。
不法就労助長罪の厳罰化と悪質ブローカーの廃除
今回の法改正では、外国人に不法就労活動をさせるなどの行為(不法就労助長罪)の罰則が引き上げられ、拘禁系5年以下又は500万円以下(併科可)と厳罰化されています。就労できない在留資格の外国人の雇用や、在留期間が過ぎている外国人(不法滞在者)の雇用は絶対避けるようにしましょう。
関連サイト厚生労働省「不法就労に当たる外国人を雇い入れないようにお願いします。」
また、日本で働くことを希望する外国人を送り込もうとする斡旋業者、いわゆるブローカーの中に、悪質な業者が紛れているとの指摘が多くされています。
これまでも入国希望者に対し法外な手数料を要求したり、事前説明と異なる職場に送り込むといった悪質なブローカーがらみのトラブルは多く発生しており、在留外国人の行方不明者が生まれる原因の一つとされていました。
今回の入管法改正では、特定技能制度を活用し外国人材を受け入れる事業者(特定技能所属機関)が1号特定技能外国人の支援を外部委託する際の委託先を、「登録支援機関」に限ることとされました。
関連サイト出入国在留管理庁「登録支援機関」
登録支援機関になるためには出入国在留管理庁長官の登録を受ける必要があり、より透明度の高い制度運用を目指していることがわかります。事業者としては、外国人採用を外部委託する際に委託先が適切な届出を行っている業者かしっかり確認する必要があります。
外国人の雇用で迷ったときは
専門家に相談しましょう
今回の入管法改正を経て、外国人材がより長期間にわたって働くことができる環境が整っていくことが期待されており、外国人材を受け入れる事業者側にとっても人手不足を克服する切り札になりそうです。
しかし、外国人材を受け入れる事業者が果たさなければならない義務も同時に増えてくることが予想されています。また、文化・言語の異なる外国人材が職場に定着するために、社内で様々な目配りが必要になってくると思われます。
廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、外国人の雇用や給与計算をはじめとする経営全般に関するご相談を随時お受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関して起こりうる様々なトラブルへの対処方法へのアドバイスも一括でサポート可能です。
外構人採用の検討や報酬の決定などでお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。当事務所は西荻窪駅・徒歩1分に事務所を構え、下記エリアを中心とした地域密着の相続相談を承っています。ぜひご相談ください。
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