自爆営業はパワハラ認定!
事業者が取るべき対策と労働者への影響を解説
「今日、〇〇を大量に仕入れすぎて余っちゃった。Aさん(従業員)これ、買っていってよ。」
一見何気ない職場での会話に見えますが、厚生労働省のパワハラ防止法指針の見直しで、従業員への自社商品購入依頼が「自爆営業」の強制とされ、パワハラ認定されてしまう可能性が出てきていました。
本記事では経営者が意図せずパワハラの領域に踏み込むことを防ぐために、パワハラ防止法やその指針の改正について解説していきます。
パワーハラスメントを取り巻く
法律・指針とその目的
2019年に改正されたパワハラ防止法が目指すもの
パワハラ防止法とは、事業主にパワハラ防止の措置を義務付ける法律であり、正式名称を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)といいます。
2019年5月の改正で大企業では2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日からパワハラ防止のための雇用管理上の措置が事業者に義務づけられました。
関連サイト厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
同時に、厚生労働省は、これまでも職場でのパワーハラスメント(以下「パワハラ」)の防止を目的とする指針を示してきました。この指針は、労働者が安心して働ける環境を整備するための法的枠組みの一部であり、特に企業に対する具体的な対応義務を明確化するものです。
企業はこれに基づき、従業員間や上司と部下の間で発生し得るパワハラを未然に防止し、発生した場合には迅速な対応取るよう促してきました。
パワハラの定義とこれまでの課題
従来、厚生労働省が提示してきたパワハラの定義は主に以下の三つの要素を満たすものされてきました。
1.優越的な関係を背景に行われる行為 | 上司や同僚など、相手に対して優位な立場にある者が行う行動が該当します。 |
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2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた行為 | 業務の遂行に関係のない、過剰または不適切な指導や要求が問題視されます。 |
3.相手の就業環境を害する行為 | 被害者の精神的、肉体的な健康に悪影響を与えたり、職場でのパフォーマンスを阻害する行為が該当します。 |
この定義は前述の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に基づいていますが、実際には指針が曖昧であったため、具体的な行為がパワハラに該当するか否かの判断が難しいという課題がありました。また、企業によっては、法に基づく「措置義務」を形式的にしか履行しておらず、実効性が伴わない例も散見されていました。
新たに明記される
「自爆営業」のパワハラ認定の意義
今回俎上に上った自爆営業とは
「自爆営業」とは、労働者が自社の売上目標やノルマを達成するために、自ら商品やサービスを購入するよう強要される行為を指します。
例えば、販売員が自社商品を購入して売上を補填するケースや、イベントの参加券をノルマとして負担させられる状況がその典型です。
このほかにも、顧客との値引き交渉の結果発生した値引き額を従業員が負担するよう強要されるケースや、保険会社の従業員が明らかに不利な条件の自社の保険契約に乗り換えることを強要される、といったケースが該当すると考えられます。
パワハラにあたるとされた具体的な事例
1.中古車販売業者 | 新入社員が入社後、半ば強制的に自社で車の購入を迫られ、高金利の長期ローンを組まされる。また、自社が代理店となっている保険会社の高額な保険への加入を強制されるケース |
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2.農協 | 職員が共済契約のノルマを達成するため、自らや家族に不必要な共済を契約させられる。これにより、職員の可処分所得が減少し、経済的に苦しくなった事例 |
3.コンビニエンスストア | 外国人労働者が、恵方巻きやクリスマスケーキなどの季節商品の購入を強制され、宗教上の理由で食べられない商品まで購入させられたケース。 |
「自爆営業」がパワハラとされるに至った背景
これまで自爆営業自体にはそれがパワハラであるとして直接規制する法律がなく、自爆営業の法律上の位置づけや違法性の判断基準等が明確にされていない上に、民放上の不法為や公序良俗違反として責任追及しようにも立証が難しいという事情があり、被害者が訴えを提起するハードルは高く、泣き寝いりに終わった事例も少なくないとみられています。
しかし、次のような問題点が徐々に社会的に注目され、指針への明記に至ったと考えられています。
1.労働者の経済的損失 | ノルマ達成のための自腹購入が強制されることにより、報酬以上の出費を余儀なくされ、最悪不正行為や犯罪に繋がるケースが見られた。 |
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2.労働者の精神的負担 | 達成困難な目標が設定され、未達の場合に職場での評価が下がるという心理的プレッシャーが労働者の健康を害するケースが増加。 |
3.会社側への社会的批判 | 自爆営業を強いる企業文化がSNSやメディアで広く取り上げられるようになり、消費者や投資家からの信頼が損なわれるケースの増加。 |
指針改正を受けて事業者が取るべき
対策と労働者への影響
労働基準監督署の指導が強化される?
現状、自爆営業をはじめとするパワハラの問題は、特定の業界に限らず幅広い分野で存在しています。特に、販売業やサービス業などでは、厳しい売上目標やノルマが労働者に大きな負担を強いている実態があるとされています。
今回、厚生労働省は「自爆営業」を強要することは、労働者の生活に直接的な経済的負担をもたらし、精神的なプレッシャーを生むため、「自爆営業はパワハラである」と明確にパワハラ防止法の指針に明示する方向性を示しました。
今後の見通しとして、次のような動きが予想されます。
1.労働基準監督署の指導強化 | 指針に基づき、労働基準監督署が企業への監査や指導を強化することが期待されます。違反企業には是正勧告や罰則が科される可能性があります。 |
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2.労働者の意識改革 | 労働者が自らの権利を理解し、必要に応じて法的措置を取るケースが増加すると見られます。これにより、職場内でのパワハラ行為の抑制が進むでしょう。 |
3.企業イメージの向上を目指す動き | 企業がパワハラ防止策を積極的に講じることは、労働者の満足度向上や採用活動での競争力向上にもつながります。そのため、多くの企業が自発的にパワハラ対策を進める可能性があります。 |
厚生労働省のパワハラ防止法指針改正をうけて事業者がとるべき対策は?
この指針が明示される以上、今後は事業主や店舗の責任者などが従業員に対して自社商品購入を強要することはパワハラ認定されるリスクが高まるといえます。
事業者側としては、自爆営業に端を発する風評の悪化は何としても避けたいところです。事業者としても、以下のような対応を取るなど身構えておく必要がありそうです。
4.ハラスメントに関する内部規定や方針の見直し | 自爆営業に関する具体的な禁止条項の就業規則への明記。パワハラ防止に向けた措置の強化。 |
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5.ハラスメント教育と啓発の強化 | 管理職を含む全従業員への研修を通じて、自爆営業が違法であることを認識させる取り組みが求められます。 |
6.ハラスメント通報窓口の整備 | 自爆営業に関する被害を迅速に把握し、適切に対応するための通報システムや相談窓口の設置。 |
指針の改正は労働者にも影響を与える?
一方、労働者にとっては、自爆営業が違法であることが周知されることで、不適切な要求に対抗する手段が明確になることが期待できます。また、指針を根拠に労働基準監督署への相談や、弁護士を通じた法的手続きを行う道が開かれる効果が期待できます。
新たな課題にどう取り組むべきか
迷ったときには専門家に相談を
厚生労働省は今後、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で記載の仕方などを議論し、年内にも指針への明記が正式決定され、来年の通常国会に改正法案を提出するとみられています。
自爆営業の強要に限らずパワハラは労働者の就業意欲の低下や精神的な障害、離職率の上昇などを引き起こし、パワハラの行為者だけでなく、パワハラを放置した企業も社会的なイメージを失墜し、ひいては業績悪化につながる可能性もあります。
報道等で社会的ダメージを受けた企業のイメージ回復には時間かかり、中には損なわれたイメージを回復しきれないケースもあり得ます。そのため、指針の実効性を確保するためには、事業者側の積極的な取り組みが求められるようになると考えられます。
こうした法律・指針の改正で新たに生まれた課題を経営者が一人で考え、対策まで実行するのはかなりつらい作業といえます。迷ったときには経営全般の相談ができる専門家を頼ってみてもよいかもしれません。
廣瀬総合経営会計事務所は開業して30年以来、地域密着で様々な事業者様を支援してまいりました。多くの経験豊かな税理士が記帳・確定申告をはじめとする法人の決算に関する支援はもちろん、経営全般に関する情報をホームページや事務所通信でタイムリーにお伝えしています。
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