医療費負担を軽減できる
高額療養費制度とお金・税金を解説
内閣府が発表する高齢社会白書によると、65歳以上人口は、3,589万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も28.4%にも達しています。
高齢化社会がますます進展していく中で、いざ「病」とお金の問題が発生したときに何をどうすればよいのかとまどう部分も多いのではないでしょうか。
本記事ではいざ病気やケガで療養が必要になったときに医療費負担を軽減できる高額療養費制度とお金・税金について解説するとともに、いよいよ始まったマイナ健康保険証について税理士事務所が分かりやすく解説していきます。
高額療養費制度について
高額療養費とはどんな制度?
高額療養費制度は、国民皆保険の一環で、医療費の負担を軽減するための公的な支援制度です。通常の健康保険は医療費の3割負担ですが、自己負担額が一定以上になる場合、この制度で超過分を補填します。
1973年に創設されて以来、医療費の増加や高齢化に対応するため、何度も改正されています。高額療養費制度医療費負担の平準化を目指し、特に家計の負担を軽減する重要な役割を果たしています。
関連サイト厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
高額療養費制度はいくら以上から適用される?
高額療養費制度は、1か月の医療費が自己負担限度額を超えた場合に、その超過分を払い戻す仕組みです。限度額は所得や年齢により異なります。
例えば、70歳未満の現役世代の一般所得者では、8万円程度+(総医療費-26.7万円)×1%が目安です。一方、高所得者や低所得者には別の基準が適用されます。具体的な計算式や該当する金額は、厚生労働省や加入保険の情報を確認する必要があります。自分に適した制度を理解し、必要な手続きを怠らないようにしましょう。(詳しい金額や年齢・所得による区分は後述します。)
高額療養費制度に含まれないものは?
高額療養費制度は、医療費の一部を補償しますが、対象外となるものもあります。以下はその例です。
- 入院時の食事代や差額ベッド代
- 先進医療にかかる費用(健康保険の適用外)
- 交通費やお見舞い費用
- 医療機関外での自費治療
こうした費用は保険適用外で原則自己負担となるため対象外となります。
高額療養費制度の払戻しを受け取る手続きと
自己負担額を軽減する制度について
高額療養費制度の払戻しには約3ヶ月かかる!?
手続き方法は加入している健康保険によって異なります。国民健康保険の場合、まず自治体に申請が必要です。手続きの流れは以下の通りです。
事前申請 | 自治体で「限度額適用認定証」を取得。これにより窓口負担が軽減されます。 |
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事後申請 | 医療費が限度額を超えた場合に、必要書類(領収書、申請書、振込先情報など)を提出します。 |
給付金受け取り | 審査後、指定口座に払い戻されます。 |
こうしたステップを踏む必要があるため、払戻しを受けるまでに3カ月以上の時間を要することが一般的です。会社員が加入する健康保険組合でも手続きは似ていますが、詳細や必要書類が異なる場合があります。
また、健康保険組合独自の高額療養費制度の基準を設けている場合もありますので、いざ請求に際しては必ず加入先の健康保険組合に確認するようにしましょう。
現役世代の高額療養費制度と70歳以上の高額療養費制度とで異なる計算方法
現役世代(70歳未満)と70歳以上(障害等を持っている場合は65歳以上)では、限度額や計算方法が異なります。現役世代は所得区分が5段階に分かれており、高所得者ほど自己負担が多くなります。
組合健保の場合は標準報酬月額、国民健康保険の場合は課税所得によって区分されています。
70歳未満の自己負担限度額:組合健保の場合
被保険者の所得区分 (標準報酬月額) |
自己負担限度額 |
---|---|
83万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
53万円-79万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
28万円-50万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
26万円以下 | 57,600円 |
低所得者(被保険者の住民税が非課税等) | 35,400円 |
70歳未満の自己負担限度額:国民健康保険の場合
被保険者の所得区分 (課税所得) |
自己負担限度額 |
---|---|
課税所得690万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
課税所得380万円以上690万円未満 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
課税所得145万円以上380万円未満 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
課税所得145万円未満 | 57,600円 |
住民税非課税世帯 | 35,400円(外来のみ:24,600円) |
一方、70歳以上は低所得者層に配慮し、より細かく設定されています。ただし、現役並み所得者であれば70歳以上でも現役世代と同じ基準が適用されます。
また、70歳以上で所得が低い層に対しては外来(個人ごと)についても自己負担割合の上限が定められています。
70歳以上75歳未満の自己負担限度額:組合健保の場合
被保険者の所得区分 (標準報酬月額) |
自己負担限度額/外来(個人ごと) |
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83万円以上 | 252,600円+(総医療費ー842,000円)×1% |
53万円ー79万円 | 167,400円+(総医療費ー558,000円)×1% |
28万円ー50万円 | 80,100円+(総医療費ー267,000円)×1% |
被保険者の所得区分 (標準報酬月額) |
自己負担限度額/外来(個人ごと) |
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一般所得者 | 18,000円 |
低所得者Ⅰ 被保険者住民税が非課税 |
8,000円 |
低所得者Ⅱ 被保険者・扶養者全員の各所得が全て0円 |
8,000円 |
関連サイト全国健康保険協会「高額療養費・70歳以上の外来療養にかかる年間の高額療養費・高額介護合算療養費」
75歳以上の人、いわゆる後期高齢者の方に対しても高額療養費制度があり、以下の表のような区分となっています。
後期高齢者(75歳以上)の自己負担限度額
課税所得額 | 自己負担限度額/外来(個人ごと) |
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課税所得145万円以上 | 収入に応じて8万100円~25万2,600円+(医療費-26万7,000~84万2,000円)×1% |
課税所得28万円以上 | |
課税所得28万円未満 | 1万8,000円(年間14万4,000円) |
世帯全員が住民税非課税者で年収80万円超 | |
世帯全員が住民税非課税者で年収80万円以下 | 8,000円 |
医療費の自己負担をさらに軽減する方法がある?
高額療養費制度は自己負担限度額を超えた分のみ払戻しを受ける仕組みになっているので、窓口では一時的に高額な医療費を支払う必要があります。さらに、払戻しを受けるには審査期間も含めて3カ月以上の時間を要します。
しかし、あらかじめその月に支払う医療費が自己負担限度額を超えることが見込まれる場合は、加入している公的医療保険に申請することで「限度額適用認定証」を交付してもらうことができます。限度額適用認定証と保険証を提示すれば、1カ月の窓口における支払いを、自己負担限度額まで抑えることができます。
また、個人では限度額に満たなくても、同一世帯内で自己負担額を合算して限度額を超えれば高額療養費制度を利用できます。これを「世帯合算」と言い、70歳未満の方は21,000円以上の自己負担額、70歳以上の方は自己負担限度額をすべて合算できます。
このほかにも、過去12カ月以内に3回以上、自己負担限度額に達した場合、4回目以降は自己負担限度額が引下げられられる「多数該当」制度や医療機関の窓口で支払う医療費に充てる資金を無利子で借りられる「高額医療費貸付制度」もありますので、上手に活用したいですね。
マイナカード健康保険証を利用した
高額療養費の請求手続きと医療費控除
マイナ健康保険証で高額療養費の請求が楽になる?
2024年12月から新たに発行される健康保険証は原則マイナンバーカード一体型のものになります。
何かと話題になっているマイナンバーカードですが、こと高額療養費の請求に関しては請求手続きが簡略化され、利便性が高まることが期待されています。
中でも、「限度額適用認定証」の取得の必要性がなくなることは利便性が大きく高まると期待されています。
これまで高額療養費の請求手続きは支払後に自治体や保険組合へ申請する必要があり、自己負担額を一定額までに抑えるためには「限度額適用認定証」を都度取得する必要がありました。
マイナカード一体型の健康保険証には、受診した医療機関や処方された薬などの情報がストックされていくため、医療機関での窓口支払いが自動的に自己負担限度額までに抑えられることが多くなり、この「限度額適用認定証」自体の取得がなくても自動的に自己負担額を一定額までに抑えられるようになる仕組みになりそうです。
関連サイト厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用について」
高額療養費制度と医療費控除は適用範囲が異なる
高額療養費制度と医療費控除は、ともに医療費負担の軽減に役立つ仕組みですが、適用範囲が異なります。そのため、両方の制度を併用することで医療費負担を軽減することができます。
高額療養費制度 | 1か月の医療費が自己負担限度額を超えた場合に超過分を払い戻します。申請は保険者(健康保険組合・市区町村)に行います。 |
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医療費控除 | 年間10万円以上の医療費が対象となり、確定申告で所得税の一部が還付されます。 |
関連サイト国税庁「医療費控除を受ける方へ」
高額療養費制度と医療費控除の二重取りはできません
ただし、高額療養費で払い戻された金額は医療費控除の対象外となるため、確定申告に際しては注意が必要です。
これは払い戻し金額を二重に控除することを防ぐためのルールで、医療費控除を申請する際に、実際に自己負担した医療費から払い戻しされた高額療養費分を差し引く必要があるという意味です。
以下のようなケースで具体例をみてみましょう。
1.年間医療費 | 50万円 |
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2.高額療養費で払戻された額 | 20万円 |
差額(1-2) | 30万円 |
この場合の医療費控除の対象額は差額の30万円が医療費控除の計算対象となり、10万円の基準額を超えた分(30万円 – 10万円 = 20万円)が控除額になります。
初めての確定申告
迷ったときは専門家に相談しましょう
医療費控除は確定申告でしか行うことができません。会社の年末調整だけでは完結しないことはもちろん、公的年金受給のみで確定申告不要とされている人でも医療費控除を受けるためには確定申告が必要なので注意しましょう。
マイナ健康保険証を使うことで、高額療養費制度を利用した場合でも医療費控除の申告がスムーズになりそうです。
とはいえ、初めての確定申告にはとまどうことも多いと思います。スムーズな申告・納税を行うためには税理士をはじめとする専門家に相談するのもよいでしょう。
廣瀬総合経営会計事務所では経験豊かな税理士、行政書士、FPなどが在籍しており、個人の確定申告に関する様々なご相談に加え、相続に関する相談をお受けしています。また、各分野に精通した専門家とも連携し、税金に関する様々なサポートが可能です。
初めて医療費控除の申告を行う、不動産や株式の譲渡があったときの税金をどうしたらいいのか疑問やお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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